「おはよー」
既にクラスのほとんどが教室に居て、慌てて私は準備を済ませる。重いスクールバッグから教科書を取り出して、授業の順番を思い出し、机に一番最後の授業で使う教科書を一番下にして入れる。
ふと廊下を見ると二人が先生に謝っていた。そこまで悪いと思ってなさそうな口調とタメ口で先生に向かって「「許してー!!」」と叫んでいる。つくづく合わないな、と考えるけど、合わせる他ないから諦めてる。
全ての授業が終わり、私は帰りの支度を済ませて帰宅をした。今日の授業の復習に宿題をやろうと思い、机に向かうと、ポケットの中にあるスマホが震えた。ブーブーと電話が鳴っている。
電話の相手は、お母さんだった。
「ごめんね。ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
「うんいいよ、どうしたの?」
「お母さん今日日付変わるまでに帰れなさそうだから、ご飯、お父さんと何とかしてくれない?」
「なーんだそんなこと?いいよー全然!仕事頑張ってね。」
「ありがとね。お母さん頑張るわ!」
「うん!じゃあお父さんにも伝えとくね。」
「はーい」
切ったあと、すぐにまた電話がかかってきた。今度はお父さん。脳裏にひとつの予感が浮かんだ。予感は的中。
「悪いんだが、仕事で帰れそうにないんだ、お母さんと二人で何とかしてくれ。ごめんな。」
「全然大丈夫だよ!伝えとくね!」
「ありがとな。」
「ううん大丈夫!じゃあ切るね!」
電話を切ったあと、大きなため息を漏らしてしまった。お母さんとお父さんががこうやって電話をしてきたのは昔からだ。共働きで忙しいのは分かる。私のために一生懸命働いてくれているのも重々承知している。習い事のピアノも無理を言ってやらせてもらって、ピアノも高いのに買ってもらって。私は恵まれているんだ。でも、やっぱり寂しい、なんて、欲張りなのかな。
頭を空っぽにするために、復習と宿題を始めた。何気に一番頭が空っぽになるのは勉強だなぁ、と考えながら問題を解く。
ある程度の復習と宿題が終わった私はスマホをいじる。実は何度か美玲と涼花からメールが来ていた。内容を見ると、二人の好きなアニメの実写化映画のビジュがいいとか悪いとかいう話をしているようだ。アニメも知らなければ実写化のキャストさんも知らない私は何も返信ができない。
またスマホが震える。今度は美玲と涼花。見てみると二人が「「今度三人で映画行かない?!」」と誘ってきていた。
「行けるよ!」
と入力し、送信ボタンをタップする。毎回こうだ。誰かのこんなところが嫌だ、とか好きじゃない、とかすぐに人の事を愚痴るくせに、遊びに誘われるとポンポン行く。なんでって言われても私にも分からない。
恵まれた生活を送っているはずなのに、何かが違う。家族も友達も何もかも。自分は何がしたいんだろう。そんなこと考えたって意味が無いことくらいわかってる。でも、考えは止められない。
都合のいいように解釈してばっかりで、自分からは何も言わないししない。周りから見れば軽い、って思われるかもしれないし、思われても何も言い返せない。
何回か考えて、考えても無駄ってことに気づいて、考えを辞めるんだ。
この問題に、答えは絶対にない。