お約束を確認してお付き合いをすることになった。お約束どおり、プライベートは休日だけと割り切って、私は前にも増して張り切って仕事をしている。
私は金曜日の昼休みに岸辺さんへメールを入れる。「待ち合わせ場所はりんかい線国際展示場駅の改札口、時間は10時30分」。[了解]の返事がきた。1時になって私は何もなかったかのように席に着いた。
土曜日、大井町線で大井町へ出て、りんかい線に乗り換えて、国際展示場で下車。意外と時間がかからなかった。早く着いたので駅前を見て回る。
すると向こうに岸辺さんがいるのを見つけた。嬉しくなって、手を振って小走りに近づいて行く。
岸辺さんは私だと全く気が付かない。こちらを見ているけど、後ろを振り向いたりしている。ようやく目の前まで来て立ち止まる。
「岸辺さん、いえ、潤さん」
「ええ・・・・」
「分かりませんか? 私です。横山美沙です」
「横山さん、いや、美沙ちゃん? ごめん、全然気が付かなかった。可愛い女の子が手を振って来るので、僕の後ろの誰かに手を振っているのかと思った。すごく可愛いね! 見違えた!」
実際、私はとっても可愛く変身していた。厚い黒縁のメガネはしていない。コンタクトに替えた。メイクアップもした。髪はポニーテイルでなく、カールして横に垂らした。イヤリングをしている。
それに白い半そでのワンピースを着て白いサンダルを履いていた。手にはピンクのバッグ。あの太い革の腕時計の代わりにピンクのサポーターをしていた。
意を決して全くの別人に変身してみた。それが自分でも驚くほど凄く可愛くなっていた。自分でもこれほどに変身できるとは思っていなかった。岸辺さんも信じられないみたい。でもとおり過ぎる人も私を見て行くので、可愛く変身に成功したみたい。
「ありがとうございます。意外と早く着いたので、駅の回りを見ていました。そしたら、岸辺さん、いえ、潤さんを見つけて」
「僕も早くついたので、駅の回りを見ていたところだった」
「じゃあ、行きましょう」
私はそれとなく潤さんの手をつかむと潤さんは手をつないでくれて歩きだす。潤さんが横を歩いている私をじっと見ているのが分かったので、顔を向けて可愛くニコッと笑う。
潤さんは照れたような笑いを返してくれた。いい感じ。潤さんの私を見る目が変わったのがよく分かった。変身大成功!
「カッコいい潤さんとお付き合いすることがきまったのが嬉しくて、あれから毎日、お付き合いしていただくのにふさわしい服や靴を探しました。金曜日はヘアサロンに行きました。可愛いと言ってもらえて、その甲斐がありました」
「地味な横山さん、いや、美沙ちゃんが、実はこんなに可愛い人だとは思ってもみなかった。ますます好きになりそうだ」
確かにお約束は正解だった。プライベートになり、名前を呼び合うとすぐに恋人モードになれる。繋いだ手はいつのまにか恋人つなぎになっている。
10分ほど歩いていくと、会場に到着した。入場券売場には列ができている。私の後ろに潤さんも並んでそれぞれ入場券を買う。
会場は思っていたよりも広くて出店でいっぱいだった。すべての店を見て歩くとどれくらい時間がかかるか想像できないくらい。
案内図を見ると、日本のアンティークと西洋のアンティークに分かれていた。私は西洋アンティークに興味があるので、二人で手をつないで一軒一軒ゆっくり見て行く。
人形、食器、花瓶、ランプ、アクセサリーなど、なんでもある。私は気に入ったものがあるとお店の人に断ってスマホで写真を撮る。
「アンティークが好きなんだね。買わないの?」
「古いものを見るのが好きなだけです。買うと高いですし、置き場所もありませんから。気に入ったものがあると写真に撮らせてもらいます。写真に撮っておくといつでも見られて楽しめますし、ブログでも紹介できますから」
「確かにいい方法だね」
西洋アンティークの店をすべて見て回るのに2時間ほどかかった。その間に潤さんは日時計のついた古い磁石を見つけた。店主に聞くと英国製で値段は3千円だった。潤さんはチョット考えたけど記念だと言ってそれを買った。
「素敵な磁石ですね」
「方位磁針しかも日時計が付いている。昔の人はこれで時間と方向を調べていたと思うとすごくロマンを感じる。気に入ったので、今買わないときっと後で買っておけばよかったと後悔すると思ったから買った」
「決断力があるんですね」
「後悔したくないからかな。チャンスは一度しかないことが多いから。ここは面白いものがあるね。来てよかった」
「初めてきましたが、面白いですね」
お昼を過ぎて1時近くになっていたので、レストランに入る。潤さんはスパゲティ・ナポリタン、私はオムライスを注文。
「ありきたりだけど、スパゲッティはナポリタンに限るよ。大好きなんだ」
「私はオムライスが大好きなんです。二人共ケチャップ風味のトマト味が好きなのが分かって嬉しいです」
「その服とイヤリングにサンダル、とても似合っていて可愛いよ。本当に見違えた」
「この服、着てみたかったのです。気に入ってもらえてよかった。ネットショッピングで買いました。それにイヤリングもサンダルも」
「買い物はネットでするの?」
「お休みの日は一日中ネットのショッピングサイトを見ていることが多いです。気に入ったものがあると、写真と情報を保存しておきます」
「買わないの?」
「買いません。だって、着る機会も見せる相手もいないのに無駄ですから。それにそのたびに買っていたら押入れが一杯になります。お金もかかります。その代わりにブログに載せています。この服とイヤリングとサンダルは今日のデートのお約束ができてから注文しました。早ければ次の日か2~3日で届きます。帰りに駅のコンビニで受け取れるようにしています」
「ブログをやっているの、どんなブログ?」
「これは潤さんでも教えられません。私の日記ですから、誰にも言っていません」
「でも公開しているんでしょ」
「ハンドルネームを使っていますから、私とは絶対に分かりません。恥ずかしいので絶対教えませんし、聞かないでください。検索したりもしないでください」
「分かった、分かった。でも見てくれる人はいるの?」
「3年前に始めたころはほんの数人でしたが、今は3千人くらいいるかも知れません」
「3千人! すごいね」
「コメントがいただけるので、そのやり取りがとても楽しいです。だからスマホは手放せません」
「歩きスマホは危ないよ!」
「歩きスマホはしませんし、会社では見ないことにしています。潤さんとの連絡以外は」
「女の子はスマホが好きみたいだけど、僕はあまり好きじゃない。字が小さくて読みづらいし、扱いにくい。部屋にネットの端子が来ているから、家ではもっぱらパソコンを見ている」
「ところでこのあとどうする?」
「実は母が会いたいと言ってきましたので、4時に渋谷で会う約束をしました。だから3時くらいまでですが、申し訳ありません」
「気にしないで、僕は大井町の家電専門店に寄りたいと思っていたから、3時ごろに駅に向かおう」
「来週はどうする?」
「今度は潤さんの行きたいところがいいです」
「それなら、こどもの国はどうだろう。同期の家が近くにあって中を覗いたくらいなので一度行ってみたいと思っていた。本当はディズニーランドが良いのかもしれないけど、人の多いのは苦手なので、ゆっくり二人で話をしながら歩きたい」
「こどもの国は小さい時に家族で何度か行ったことがあります。最近はどうなっているか見てみたいです。お弁当を作って行きます」
「じゃあ、土曜日の10時に、こどもの国の駅の改札口ということでどう?」
「分かりました」
「晴れるといいね」
「きっと晴れます」
それから、会場へもどり、今度は日本のアンティークを見て回り、3時ごろに電車に乗った。大井町で潤さんが下車して、私はそのまま大崎経由で渋谷へ向かった。
楽しい半日だった。初めてのデートはこれくらいが疲れなくてボロが出なくて丁度良いかもしれない。
潤さんは私の変身にとっても驚いていた。これだけ変われば会社の誰が見ても気づかないと思う。
でも潤さんがとっても嬉しそうに私を見ていたのでよかった。私のこと惚れ直した?
男の人はやっぱり可愛い子が良いみたいだけど、それは当たりまえだし、誰か女は男の勲章だと言っていた。他の男が振り返るほどの可愛い女の子を連れて歩きたいみたい。
潤さんも可愛くなった私と歩いていてまんざらでもなかったみたいで、機嫌が凄く良かった。潤さんも普通の男だったか?
ブログにはこう書き込んだ。
〖初デートで可愛く変身して行ったら、とっても驚いていたけど嬉しそうだった〗
コメント欄
[可愛く変身してよかったね。彼はきっと惚れ直したと思う]
[これからずっと可愛くしていないといけないから大変だね]
[可愛く変身するのはいいけど、心も可愛くないと嫌われるよ!]
私は金曜日の昼休みに岸辺さんへメールを入れる。「待ち合わせ場所はりんかい線国際展示場駅の改札口、時間は10時30分」。[了解]の返事がきた。1時になって私は何もなかったかのように席に着いた。
土曜日、大井町線で大井町へ出て、りんかい線に乗り換えて、国際展示場で下車。意外と時間がかからなかった。早く着いたので駅前を見て回る。
すると向こうに岸辺さんがいるのを見つけた。嬉しくなって、手を振って小走りに近づいて行く。
岸辺さんは私だと全く気が付かない。こちらを見ているけど、後ろを振り向いたりしている。ようやく目の前まで来て立ち止まる。
「岸辺さん、いえ、潤さん」
「ええ・・・・」
「分かりませんか? 私です。横山美沙です」
「横山さん、いや、美沙ちゃん? ごめん、全然気が付かなかった。可愛い女の子が手を振って来るので、僕の後ろの誰かに手を振っているのかと思った。すごく可愛いね! 見違えた!」
実際、私はとっても可愛く変身していた。厚い黒縁のメガネはしていない。コンタクトに替えた。メイクアップもした。髪はポニーテイルでなく、カールして横に垂らした。イヤリングをしている。
それに白い半そでのワンピースを着て白いサンダルを履いていた。手にはピンクのバッグ。あの太い革の腕時計の代わりにピンクのサポーターをしていた。
意を決して全くの別人に変身してみた。それが自分でも驚くほど凄く可愛くなっていた。自分でもこれほどに変身できるとは思っていなかった。岸辺さんも信じられないみたい。でもとおり過ぎる人も私を見て行くので、可愛く変身に成功したみたい。
「ありがとうございます。意外と早く着いたので、駅の回りを見ていました。そしたら、岸辺さん、いえ、潤さんを見つけて」
「僕も早くついたので、駅の回りを見ていたところだった」
「じゃあ、行きましょう」
私はそれとなく潤さんの手をつかむと潤さんは手をつないでくれて歩きだす。潤さんが横を歩いている私をじっと見ているのが分かったので、顔を向けて可愛くニコッと笑う。
潤さんは照れたような笑いを返してくれた。いい感じ。潤さんの私を見る目が変わったのがよく分かった。変身大成功!
「カッコいい潤さんとお付き合いすることがきまったのが嬉しくて、あれから毎日、お付き合いしていただくのにふさわしい服や靴を探しました。金曜日はヘアサロンに行きました。可愛いと言ってもらえて、その甲斐がありました」
「地味な横山さん、いや、美沙ちゃんが、実はこんなに可愛い人だとは思ってもみなかった。ますます好きになりそうだ」
確かにお約束は正解だった。プライベートになり、名前を呼び合うとすぐに恋人モードになれる。繋いだ手はいつのまにか恋人つなぎになっている。
10分ほど歩いていくと、会場に到着した。入場券売場には列ができている。私の後ろに潤さんも並んでそれぞれ入場券を買う。
会場は思っていたよりも広くて出店でいっぱいだった。すべての店を見て歩くとどれくらい時間がかかるか想像できないくらい。
案内図を見ると、日本のアンティークと西洋のアンティークに分かれていた。私は西洋アンティークに興味があるので、二人で手をつないで一軒一軒ゆっくり見て行く。
人形、食器、花瓶、ランプ、アクセサリーなど、なんでもある。私は気に入ったものがあるとお店の人に断ってスマホで写真を撮る。
「アンティークが好きなんだね。買わないの?」
「古いものを見るのが好きなだけです。買うと高いですし、置き場所もありませんから。気に入ったものがあると写真に撮らせてもらいます。写真に撮っておくといつでも見られて楽しめますし、ブログでも紹介できますから」
「確かにいい方法だね」
西洋アンティークの店をすべて見て回るのに2時間ほどかかった。その間に潤さんは日時計のついた古い磁石を見つけた。店主に聞くと英国製で値段は3千円だった。潤さんはチョット考えたけど記念だと言ってそれを買った。
「素敵な磁石ですね」
「方位磁針しかも日時計が付いている。昔の人はこれで時間と方向を調べていたと思うとすごくロマンを感じる。気に入ったので、今買わないときっと後で買っておけばよかったと後悔すると思ったから買った」
「決断力があるんですね」
「後悔したくないからかな。チャンスは一度しかないことが多いから。ここは面白いものがあるね。来てよかった」
「初めてきましたが、面白いですね」
お昼を過ぎて1時近くになっていたので、レストランに入る。潤さんはスパゲティ・ナポリタン、私はオムライスを注文。
「ありきたりだけど、スパゲッティはナポリタンに限るよ。大好きなんだ」
「私はオムライスが大好きなんです。二人共ケチャップ風味のトマト味が好きなのが分かって嬉しいです」
「その服とイヤリングにサンダル、とても似合っていて可愛いよ。本当に見違えた」
「この服、着てみたかったのです。気に入ってもらえてよかった。ネットショッピングで買いました。それにイヤリングもサンダルも」
「買い物はネットでするの?」
「お休みの日は一日中ネットのショッピングサイトを見ていることが多いです。気に入ったものがあると、写真と情報を保存しておきます」
「買わないの?」
「買いません。だって、着る機会も見せる相手もいないのに無駄ですから。それにそのたびに買っていたら押入れが一杯になります。お金もかかります。その代わりにブログに載せています。この服とイヤリングとサンダルは今日のデートのお約束ができてから注文しました。早ければ次の日か2~3日で届きます。帰りに駅のコンビニで受け取れるようにしています」
「ブログをやっているの、どんなブログ?」
「これは潤さんでも教えられません。私の日記ですから、誰にも言っていません」
「でも公開しているんでしょ」
「ハンドルネームを使っていますから、私とは絶対に分かりません。恥ずかしいので絶対教えませんし、聞かないでください。検索したりもしないでください」
「分かった、分かった。でも見てくれる人はいるの?」
「3年前に始めたころはほんの数人でしたが、今は3千人くらいいるかも知れません」
「3千人! すごいね」
「コメントがいただけるので、そのやり取りがとても楽しいです。だからスマホは手放せません」
「歩きスマホは危ないよ!」
「歩きスマホはしませんし、会社では見ないことにしています。潤さんとの連絡以外は」
「女の子はスマホが好きみたいだけど、僕はあまり好きじゃない。字が小さくて読みづらいし、扱いにくい。部屋にネットの端子が来ているから、家ではもっぱらパソコンを見ている」
「ところでこのあとどうする?」
「実は母が会いたいと言ってきましたので、4時に渋谷で会う約束をしました。だから3時くらいまでですが、申し訳ありません」
「気にしないで、僕は大井町の家電専門店に寄りたいと思っていたから、3時ごろに駅に向かおう」
「来週はどうする?」
「今度は潤さんの行きたいところがいいです」
「それなら、こどもの国はどうだろう。同期の家が近くにあって中を覗いたくらいなので一度行ってみたいと思っていた。本当はディズニーランドが良いのかもしれないけど、人の多いのは苦手なので、ゆっくり二人で話をしながら歩きたい」
「こどもの国は小さい時に家族で何度か行ったことがあります。最近はどうなっているか見てみたいです。お弁当を作って行きます」
「じゃあ、土曜日の10時に、こどもの国の駅の改札口ということでどう?」
「分かりました」
「晴れるといいね」
「きっと晴れます」
それから、会場へもどり、今度は日本のアンティークを見て回り、3時ごろに電車に乗った。大井町で潤さんが下車して、私はそのまま大崎経由で渋谷へ向かった。
楽しい半日だった。初めてのデートはこれくらいが疲れなくてボロが出なくて丁度良いかもしれない。
潤さんは私の変身にとっても驚いていた。これだけ変われば会社の誰が見ても気づかないと思う。
でも潤さんがとっても嬉しそうに私を見ていたのでよかった。私のこと惚れ直した?
男の人はやっぱり可愛い子が良いみたいだけど、それは当たりまえだし、誰か女は男の勲章だと言っていた。他の男が振り返るほどの可愛い女の子を連れて歩きたいみたい。
潤さんも可愛くなった私と歩いていてまんざらでもなかったみたいで、機嫌が凄く良かった。潤さんも普通の男だったか?
ブログにはこう書き込んだ。
〖初デートで可愛く変身して行ったら、とっても驚いていたけど嬉しそうだった〗
コメント欄
[可愛く変身してよかったね。彼はきっと惚れ直したと思う]
[これからずっと可愛くしていないといけないから大変だね]
[可愛く変身するのはいいけど、心も可愛くないと嫌われるよ!]