(12月第3金曜日)
亮さんの背中を洗ってあげて一緒に寝た日から私たちはいっそう親密になったような気がする。

なぜかというと、亮さんの私への行き過ぎた遠慮や気遣いがなくなってきたから。それもきっと私のせいだったけど、それも私自身で取り払うことができた。

それから私は亮さんに「理奈」と呼び捨てにしてほしいと頼んだ。「理奈さん」と呼ばれると遠慮されているみたいでいやだったからだ。

亮さんは「理奈さん」という呼び方には愛しいと言う気持ちがこもっていると言ってくれた。

でも私は「理奈」と呼ばれることで亮さんのものになったと実感できるからそうしてほしいと言うと、亮さんも確かに「理奈」と言うと自分のものにしたと実感できるといって、そう呼んでくれるようになった。

「今日は一緒にお風呂に入らないか? この前、理奈に背中を洗ってもらって、とても気持ちが良くてぐっすり眠れた。今日は僕が理奈の背中を洗ってあげたい。まあ、本当はまた洗ってほしいんだけどね」

「いいですよ、一緒に入りましょう。ここのお風呂は広いから一緒に入れます。先に入っていてください。あとからすぐに入ります」

亮さんは先に入ってバスタブに浸かっている。私が入って行くとじっと見られた。でももう気にならなくなっている。

「もう恥ずかしがらないよね」

「もっと恥ずかしいことをいっぱいしていますから大丈夫です。だからこの前も入りました」

「一緒に浸かろう」

「お湯が溢れます」

「溢れたら、またお湯を入れればいいから、一緒に温まろう」

私がバスタブに入るとこの前のように亮さんは自分の前に後向きに座らせた。亮さんはもう温まっているので身体を起こして、私の身体が肩までお湯に浸かるようにしてくれる。

「お父さん子だったね。お父さんとはお風呂に入っていたの?」

「小さい時からいつも父と入っていました。父に洗ってもらうと気持ちよくて、一緒にバスタブに浸かって数を数えて、上がるとすぐに寝てしまいました」

「いつまで一緒に入っていた?」

「小学校6年生まで一緒に入っていました。中学生になったら、一人で入りなさいと言われました」

「そうだね、中学生になったら、まずいかもね。身体も大人になって来るしね」

「私は構わなかったですけど」

「お父さんが遠慮したんだね」

温まってきたので、上がって洗い合うことにした。私を洗おうとしたけど、亮さんを先に洗ってあげた。

「洗うのが上手だね。すごく気持ちいい」

「小学生の高学年になった時ぐらいから、父の背中を洗ってあげていましたから、でも随分昔のことです」

「背中を洗ってもらうのは本当に気持ちいいもんだね。眠くなってくる。背中だけでいいから」

今度は亮さんが私を洗ってくれる番だ。

「今日は背中と言わず全身を洗ってあげるから」

「背中だけでいいですから」

「いや、洗わせて、気持ちいいから」

まず、背中から石鹸をつけたタオルで洗い始めた。肩から腕、脇の下からお尻まで洗ってくれる。始めは恥ずかしかったけれど、気持ちいいのが分かって、もう為すが儘になっている。

「とっても気持ちいいです」

「じゃあ、今度は前を洗ってあげるから、立ってくれる」

亮さんは立ち上がって、上から順に肩から胸、お腹、大事なところ、脚を洗ってくれる。

私は気持ちよくて、もううっとりしている。洗い終わると、肩から順にシャワーで石鹸を流してくれた。

「終わったよ、お湯に浸かろう」

「ありがとう、とっても気持ちよかった。癒されます」

亮さんはバスタブに先に浸かって、私を亮さんの前に後向きで座らせようとしたけど、私は前向きで入って抱きついた。

亮さんは折角だからと抱き締めてくれる。いい感じ。一緒に入って洗い合ってよかった。ずっと、このままでいたいけど、二人とものぼせてしまう。

「喉が渇きました」

「上がって、冷たいものでも飲もう」

上がって、お互いにバスタオルで身体を拭き合うが、私はまだ気持ち良くてうっとりしている。

ソファーに腰かけていると、亮さんが冷蔵庫から冷たい水を持ってきてくれる。一緒にコップの水を飲む。私は亮さんに身体を預ける。いい感じ。

私の部屋に二人で入って、ひとつのお布団に入った。お風呂で身体が温まって、気持ちよくなっていたので、抱き合ったところで、二人とも眠ってしまった。

金曜日だから疲れていたこともある。これからというところなのに、めでたい夫婦だ。

明け方、目を覚ますと、昨晩眠ってしまったことに気が付いて、慌てて愛し合った。