(12月第1金曜日)
先週も布団に入れてもらった。あれからいろいろ考えていたが、ようやく心が定まった。亮さんの部屋のドアをノックする。
「はい?」
「入っていいですか?」
「どうぞ」
私は部屋に入るとすぐに亮さんの布団の中に身体を滑り込ませた。そしていつものように背中を向けた。
「撫でてもらっていいですか?」
「もちろん、喜んで」
「お願いします」
亮さんが撫で始めると私は話し始める。
「母に電話して聞いてみたんです。父との最初の夜、どんな気持ちだったかって。そうしたら、自分が信じて結婚を決めたのだからすべて父に任せようと思っていた。そして、とても幸せだったと言っていました。それから今頃何でそんなことを聞くの? と言われました」
「それで何と答えた?」
「知りたくなったからと答えました。母は薄々察したかもしれません。あなたが信じて結婚を決めた人でしょう、すべて任せて受け止めて貰えばいいのよと言われました。聞いてもらえますか、今までお話ししなかったことがあります」
「聞くよ、何でも話して」
「私、高校2年の時、同じクラスの男の子が好きになって、彼も私のことを好きになってくれて、いつも一緒にいたんです。秋の日に彼の家へ行って一緒に宿題をしていたんです。
すると、突然彼が私に抱きついてきて、キスして、私はそんなこと思ってもみなかったので、抵抗したんですけど、すごい力で組み敷かれてしまいました。
しばらくもがいていたのですが、あそこに痛みが走ったので、思い切り力を出してはねのけて、逃げだしました。
あそこに何かついていたので、家に帰ってお風呂で洗いました。彼がそんなことするなんて思ってもみなかったので、すごく悲しかった。
翌日、学校に行くと彼はすぐに私のところへきて謝ったけど、もう話すのも顔を見るのもいやでそれからは口もききませんでした」
「それで男性不信になったのか?」
「それから男の人とは普通のお付き合いができなくなりました」
「よっぽどショックが大きかったんだね。理奈さんと初めて会った時に僕が感じた寂しそうな何かというのはこれだったのかもしれないね。2回目に会った時にセックスレスだなんておかしなことを言うので、何か嫌なことがあったのではないかと思っていたけどね」
「あのときは何も聞きませんでしたね」
「それはそうだろう、あなたはバージンですか? と聞くのと同じだろう」
「そうですね。そんなこと聞かれたらきっと私はお断りしていました」
「僕も断られたくないから何も聞かなかった」
「気にはならなかったですか?」
「気にならないといえば、嘘になるかもしれない」
「ごめんなさい、黙っていて、あの約束をした時にお話ししておけばよかったと思っています」
「でもそんなことがあったとしても、本人しか知らないことだろう。黙っていれば分からないことだ。知らせないことや知らない方が良いこともあると僕は思っている」
「理奈さんはずっと気にしていたの?」
「はい、いずれすれば分かるかなと思っていました」
「同居を始めた時すぐにざっくばらんに聞けばよかったかな? なぜ派遣社員になったのかを聞いたように」
「その時に聞かれたらお話ししていたと思います」
「僕はあの時、やはり聞かないでおいた方がよいと思った」
「ずっと黙っていた私が嫌いになりましたか?」
「いいや、何でそういうことを聞くのかな。始めから何か嫌なことがあったかなと思っていたし、それを承知で結婚式もあげて一緒に住んでいる。それに今までずっと理奈さんと気持ちを通じ合って、早く僕のものにしたいと思っている。嫌いになる訳がない」
「こうして私を撫でていて、私がほしくならないのですか?」
「そう思って撫でていた。こうしていると、押さえつけてでも、縛り付けてでも、僕のものにしてしましたいという衝動にかられる。でも今、理奈さんのその何かが分かったから、それは決してしないでおこうと思う。理奈さんを絶対に失いたくないから。あの約束をした時に、そんなことをしたらすぐに離婚しますと言ったけど、その意味と気持ちが良く分かった」
「してください。今すぐに」
「ええ、何て言った?」
「してください」
「いいのか?」
「はい、お願いします。でも避妊はしてください。まだ、子供を産む覚悟ができていませんから」
「分かった」
亮さんは私の気が変わらないうちにと思ったのか「こっち向いて」と私の身体の向きを変えさせた。そして、両手を頬に充てて、ゆっくりと私の唇の感触を確かめるようにキスをした。私はどうしてよいかわからず目をつむってただ受け入れる。
いつものように亮さんは背中を撫でてくれる。段々と体の力が抜けて来る。心地よい。もう亮さんに任せるほかはない。力が抜けてゆく。心地よい。
痛みが走った。あの時の痛み、いやもっと痛い。亮さんの右手を掴んでいたので強く握りしめた。痛いのが分かったみたいで、亮さんが動きを止めてくれた。
私は亮さんに抱きついた。すると亮さんが動きだす。痛い! 我慢する。
でも耐えられなくなって、力一杯手を握った。亮さんは気が付いて身体を離してくれた。ほっとしたのと同時に涙があふれてきた。亮さんの胸に顔をうずめる。
そんな私をいたわるようにそっと抱いてくれる。幸せな気持ちでいっぱいになる。もう涙が止まらない。
亮さんは何も言わずに私の髪を撫でていてくれる。身体から力が抜けて行く。眠りたい。このまま眠りたい。いつの間にか眠ったみたい。
明け方だったと思う。薄明るくなっている。時間は分からない。亮さんの腕の中にいる。亮さんは眠っているみたいで、力が抜けている。
胸から顔をあげて亮さんの顔を見上げる。やっぱり眠っているみたいだ。しばらく顔を見ていたい。見上げて見ているその寝顔は柔和だ。きっと人柄が出ているんだ。じっと見ている。
亮さんが下を向いて突然目を開けたので、二人の目が合った。亮さんは私をじっとみつめている。照れくさいし、恥ずかしくて顔を見ていられない。亮さんは私のおでこにそっとキスしてくれた。
「薄明るくなって、すぐに目が覚めました」
「起こしてくれてもよかったのに」
「亮さんの顔を見ていたかったのです」
「昨晩はありがとう」
「こちらこそありがとうございました。うまくできましたか? よく分からなくて」
「ああ、できたよ」
「よかった」
「もう一度してみる?」
「いいえ、もうだめです。今も痛みがあって」
「ごめん、痛がっているのは分かっていたけど、止める訳にはいかないと思って」
「それでよかったです。我慢しましたから」
「我慢してくれているのは分かっていた。ありがとう」
「このまま、ずっとこうしていたいけどいいですか?」
「今日は土曜日だからこのままでゆっくりしよう」
「今日、入籍していただけませんか? 婚姻届けはいつでも受け付けてもらえるそうですから」
「そうだね、今日12月2日を結婚記念日にしよう。できるだけ早く役所に行こう」
私が亮さん抱きついたら亮さんも私をしっかり抱き締めてくれた。いい感じ。ようやく結ばれた。二人抱き合ったまま、またまどろむ。
気が付くとすっかり夜が明けていた。お腹の鳴る音が聞こえた。
「お腹が空いたね」
「誰かのお腹が鳴りましたね」
「そろそろ起きようか? 気が済んだ? これからは理奈さんが望むだけ可愛がってあげる」
「はい」
私は裸のままパジャマと下着を抱えて自分の部屋に戻った。それからしばらく自分の布団に横になって、幸せをかみしめた。よかった、勇気を出して決心して。
先週も布団に入れてもらった。あれからいろいろ考えていたが、ようやく心が定まった。亮さんの部屋のドアをノックする。
「はい?」
「入っていいですか?」
「どうぞ」
私は部屋に入るとすぐに亮さんの布団の中に身体を滑り込ませた。そしていつものように背中を向けた。
「撫でてもらっていいですか?」
「もちろん、喜んで」
「お願いします」
亮さんが撫で始めると私は話し始める。
「母に電話して聞いてみたんです。父との最初の夜、どんな気持ちだったかって。そうしたら、自分が信じて結婚を決めたのだからすべて父に任せようと思っていた。そして、とても幸せだったと言っていました。それから今頃何でそんなことを聞くの? と言われました」
「それで何と答えた?」
「知りたくなったからと答えました。母は薄々察したかもしれません。あなたが信じて結婚を決めた人でしょう、すべて任せて受け止めて貰えばいいのよと言われました。聞いてもらえますか、今までお話ししなかったことがあります」
「聞くよ、何でも話して」
「私、高校2年の時、同じクラスの男の子が好きになって、彼も私のことを好きになってくれて、いつも一緒にいたんです。秋の日に彼の家へ行って一緒に宿題をしていたんです。
すると、突然彼が私に抱きついてきて、キスして、私はそんなこと思ってもみなかったので、抵抗したんですけど、すごい力で組み敷かれてしまいました。
しばらくもがいていたのですが、あそこに痛みが走ったので、思い切り力を出してはねのけて、逃げだしました。
あそこに何かついていたので、家に帰ってお風呂で洗いました。彼がそんなことするなんて思ってもみなかったので、すごく悲しかった。
翌日、学校に行くと彼はすぐに私のところへきて謝ったけど、もう話すのも顔を見るのもいやでそれからは口もききませんでした」
「それで男性不信になったのか?」
「それから男の人とは普通のお付き合いができなくなりました」
「よっぽどショックが大きかったんだね。理奈さんと初めて会った時に僕が感じた寂しそうな何かというのはこれだったのかもしれないね。2回目に会った時にセックスレスだなんておかしなことを言うので、何か嫌なことがあったのではないかと思っていたけどね」
「あのときは何も聞きませんでしたね」
「それはそうだろう、あなたはバージンですか? と聞くのと同じだろう」
「そうですね。そんなこと聞かれたらきっと私はお断りしていました」
「僕も断られたくないから何も聞かなかった」
「気にはならなかったですか?」
「気にならないといえば、嘘になるかもしれない」
「ごめんなさい、黙っていて、あの約束をした時にお話ししておけばよかったと思っています」
「でもそんなことがあったとしても、本人しか知らないことだろう。黙っていれば分からないことだ。知らせないことや知らない方が良いこともあると僕は思っている」
「理奈さんはずっと気にしていたの?」
「はい、いずれすれば分かるかなと思っていました」
「同居を始めた時すぐにざっくばらんに聞けばよかったかな? なぜ派遣社員になったのかを聞いたように」
「その時に聞かれたらお話ししていたと思います」
「僕はあの時、やはり聞かないでおいた方がよいと思った」
「ずっと黙っていた私が嫌いになりましたか?」
「いいや、何でそういうことを聞くのかな。始めから何か嫌なことがあったかなと思っていたし、それを承知で結婚式もあげて一緒に住んでいる。それに今までずっと理奈さんと気持ちを通じ合って、早く僕のものにしたいと思っている。嫌いになる訳がない」
「こうして私を撫でていて、私がほしくならないのですか?」
「そう思って撫でていた。こうしていると、押さえつけてでも、縛り付けてでも、僕のものにしてしましたいという衝動にかられる。でも今、理奈さんのその何かが分かったから、それは決してしないでおこうと思う。理奈さんを絶対に失いたくないから。あの約束をした時に、そんなことをしたらすぐに離婚しますと言ったけど、その意味と気持ちが良く分かった」
「してください。今すぐに」
「ええ、何て言った?」
「してください」
「いいのか?」
「はい、お願いします。でも避妊はしてください。まだ、子供を産む覚悟ができていませんから」
「分かった」
亮さんは私の気が変わらないうちにと思ったのか「こっち向いて」と私の身体の向きを変えさせた。そして、両手を頬に充てて、ゆっくりと私の唇の感触を確かめるようにキスをした。私はどうしてよいかわからず目をつむってただ受け入れる。
いつものように亮さんは背中を撫でてくれる。段々と体の力が抜けて来る。心地よい。もう亮さんに任せるほかはない。力が抜けてゆく。心地よい。
痛みが走った。あの時の痛み、いやもっと痛い。亮さんの右手を掴んでいたので強く握りしめた。痛いのが分かったみたいで、亮さんが動きを止めてくれた。
私は亮さんに抱きついた。すると亮さんが動きだす。痛い! 我慢する。
でも耐えられなくなって、力一杯手を握った。亮さんは気が付いて身体を離してくれた。ほっとしたのと同時に涙があふれてきた。亮さんの胸に顔をうずめる。
そんな私をいたわるようにそっと抱いてくれる。幸せな気持ちでいっぱいになる。もう涙が止まらない。
亮さんは何も言わずに私の髪を撫でていてくれる。身体から力が抜けて行く。眠りたい。このまま眠りたい。いつの間にか眠ったみたい。
明け方だったと思う。薄明るくなっている。時間は分からない。亮さんの腕の中にいる。亮さんは眠っているみたいで、力が抜けている。
胸から顔をあげて亮さんの顔を見上げる。やっぱり眠っているみたいだ。しばらく顔を見ていたい。見上げて見ているその寝顔は柔和だ。きっと人柄が出ているんだ。じっと見ている。
亮さんが下を向いて突然目を開けたので、二人の目が合った。亮さんは私をじっとみつめている。照れくさいし、恥ずかしくて顔を見ていられない。亮さんは私のおでこにそっとキスしてくれた。
「薄明るくなって、すぐに目が覚めました」
「起こしてくれてもよかったのに」
「亮さんの顔を見ていたかったのです」
「昨晩はありがとう」
「こちらこそありがとうございました。うまくできましたか? よく分からなくて」
「ああ、できたよ」
「よかった」
「もう一度してみる?」
「いいえ、もうだめです。今も痛みがあって」
「ごめん、痛がっているのは分かっていたけど、止める訳にはいかないと思って」
「それでよかったです。我慢しましたから」
「我慢してくれているのは分かっていた。ありがとう」
「このまま、ずっとこうしていたいけどいいですか?」
「今日は土曜日だからこのままでゆっくりしよう」
「今日、入籍していただけませんか? 婚姻届けはいつでも受け付けてもらえるそうですから」
「そうだね、今日12月2日を結婚記念日にしよう。できるだけ早く役所に行こう」
私が亮さん抱きついたら亮さんも私をしっかり抱き締めてくれた。いい感じ。ようやく結ばれた。二人抱き合ったまま、またまどろむ。
気が付くとすっかり夜が明けていた。お腹の鳴る音が聞こえた。
「お腹が空いたね」
「誰かのお腹が鳴りましたね」
「そろそろ起きようか? 気が済んだ? これからは理奈さんが望むだけ可愛がってあげる」
「はい」
私は裸のままパジャマと下着を抱えて自分の部屋に戻った。それからしばらく自分の布団に横になって、幸せをかみしめた。よかった、勇気を出して決心して。