どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しい――こんな自分のことが大嫌いだ。


 高校に入学して約2年。

「桜もいくよね?」
夕香に一緒に野球を見に行かない?と誘われた。
正直、野球に興味はない。けど自然と口が動く。
「うん、楽しそうだしお邪魔しようかな!」
「桜がいくなら、うちも行きたーい」
「美音は桜のこと好きすぎー」
「当たり前でしょ!うちら友達なんだし!!」
 『友達』その言葉も、あまりしっくりこない。こんな本音かもわからない言葉をかけてくる美音たちが気持ち悪い。でも、嘘を平気で吐く私の方が何十倍も気持ち悪い。
「ね!桜!!」
「うん!」
あー気持ち悪い。

こんな風に思っていることは、絶対、誰にも言えない。

同じような毎日ばっかで、つまらない。人に合わせてばかりの自分のことを嫌でも嫌いになってしまう。
『中学生だった時は今より少しだけ楽しかったな。』そんなことをぼんやり思いながら友だちの話に適当に返事して、口角を無理に上げて、口から思ってもいないことを吐き出して、モヤモヤしたまま、また、自分のことを何処か軽蔑的な目で見て、嫌になっている。

「また明日ー!!」
「またねー」
「またねー」
 帰り道は1人。この時間もあまり好きではない。なんならこの時間が一番嫌いかもしれない。自分の悪いところを自分にずっと責められてる気がする。1人になると、どうやっても自己嫌悪しか出てこない。重たい足をゆっくり動かして、見慣れたコンクリートの地面をただ、歩いて帰る。

 帰ってきても家には私1人だけ。親は仕事で夜8時ぐらいに帰ってくる。夜ご飯は別々。初めは『寂しい』という気持ちがあったけど、だんだん無くなっていった。別に会話が一つもないわけじゃない。お母さんとは世間話程度に学校の話をするし、お母さんの話も聞いている。これを世間一般で『幸せ』って言うなら『幸せ』なんだと思う。
 でも心のどこかに、ぽっかり穴が開いてるような黒い渦があるような何処か虚しい感じは『幸せ』っていうのか、不思議に思う。加えて、親も私のことを見てくれない訳ではないのに、話を聞いてくれない訳でもないのに、どこか息苦しさを感じてしまう。そんな自分が、また、嫌になる。

「ただいまー」
 お母さんが帰ってきた。
「おかえり、今日早めだね」
「そうなの、取引先から直接帰れてー
 あれ、ご飯まだなの?」
「うん、そうなんだけど食欲わかなくて今日はいいかな」
「なんか食べたいものとかないの?」
「うん、今は何も口に入れたくないんだ」
「わかった」

 自分の部屋に着いたら直ぐにベットに勢いよく飛び込む。そのまま自然と視界が暗くなって、そのまま眠りにつく。すぐに寝てしまう。学校は疲れるから。

「…ん」
目が覚めた。外は日がしっかり沈み切っていて、寝落ちしてたんだ。と、すぐにわかった。とりあえずスマホをのメッセージアプリを開いて通知を確認する。寝ぼけた頭で夕香たちに返信をして、すぐに電源を切る。
下に降りるとお父さんも帰って来ていた。
「おかえりー」
「ただいま」
お父さんとは、あまり話さない。必要最低限の会話だけ。
「なんか食べたくなった?」
そうお母さんが私に聞く。
「うん、プリンぐらいなら口に入れたくなったー」
「プリンはないけどゼリーがあるよ」
「じゃあゼリーもーらい!」
気分を無理やり上げて声のトーンも上げて『明るい子』を自分の中から引っ張り出している。

お風呂に入って、髪を乾かして、布団に入った。適当にネットサーフィンをして、そのまま寝落ちがいつものパターン。こうするのが何も考えないまま寝れる手段だと自分で勝手に思っている。


「お待たせー」
「全然いいよーーー」
野球を見に来た。時間ぴったりに着いたのに『お待たせ』と言う、なんとも不思議な現象である。
「でー野球部に好きな先輩がいるんだっけ?」
「そう!!会えるかな?」
「分かんないけど、『来ていいよ』って言われたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどー」
夕香は何を言って欲しいのか、いまいち、よく掴めない。

「あ!いた!!」
「どこどこ?」
「あの!ほら!今、帽子被った人!!」
「あーあの人?」
「そう!!」
「ふーん、いいじゃん!」
「どういうところが好きなの?」
とか言って、2人で盛り上がってるみたいだから、邪魔しないように私は
「私飲み物買ってくるねー」
そう言って私は自動販売機の方向へ足を動かした。

 相手が強豪校らしく結構人が集まっていた。
 ふと、視界に入った。昔よく目で追っていた淡い色をした髪の毛。心臓が音を立てて鳴り出した。足が勝手に動いていた。走って走って、自動販売機に行くはずだったのに気づいたらあなたを追いかけていて、本当にあなたかもわからないのに必死になりながら追いかけて、その手を掴んだ。
「っ!……ま!待って!」
久しぶりに大きい声をだした。
あなたはびっくりしたせいか、すぐに振り向いて、目を見開いてから
「久しぶり!!」
そう、笑うんだ。
(ああ、やっぱり慧だ。)
「久しぶり」
口角が自然と上がった気がした。それと同時に少し涙腺に刺激があった。
「てか、よくわかったな!」
「まあね」
「上田、身長縮んだか?」
「何言ってんの、慧がでかくなったんでしょ」
「やっぱり!?だよな!俺!でかくなったよな!?」
「うん、でかくなったね」
「てか、もうすぐ試合始まるから!またな!」
「うん」
もう行っちゃうのか。今を逃したら、もう会えないかもしれないのに『連絡交換しよ』の一言が出てこない。やっぱり諦めるしかないのか。
「あ!上田!!試合おわったら連絡交換しような!!」
慧にはやっぱりお見通し。
「うん!」
そう言って慧の遠くなっていく背中をずっと、見えなくなるまで見ていた。

「お待たせ」
「遅かったねー」
「ごめんごめん!」
「イケメンでもいたの?」
「飲み物買ってただけ!!」
冗談を言ってると試合が始まる。
試合が始まってから、ずっと慧を見ている。
「………………かっこいいな」
「え!?桜!?誰がかっこいいって!?」
「え………?」
「え?じゃないよ!!今!『かっこいいな』って言ったじゃん!!」
「そうかな?気のせいだよ!」
「えー絶対言ったと思ったんだけどなー」
つい口から出ていたみたいで焦る。自分の気持ちを口にしたのは本当に久しぶりだったから少しだけ驚いた。

ピ――
 試合終了の合図が鳴る。結果は慧のチームの圧勝だった。私は慧が勝って嬉しい気持ちの反面、夕香の励ましはどうすればいいのか。という不安に襲われた。だから、慧が勝って嬉しい気持ちは夕香達には隠した。
 夕香は直ぐに先輩の元へ走って行き美音もそれについて行った。私もいつもなら、ついていったんだろうけど今は1秒でも早く慧に会いたかった。2人には
「トイレに行ってくる!!」
と言って慧のいる場所へ足を動かした。

 会いに行ったはいいものの慧はまだ話があるらしくチーム同士で話している。別にそれに対して不満はないので大人しく隅っこの方で待っていた。
 5分ぐらい経って、ふと顔を上げた。慧と目があった。直ぐに逸らそうとしたけど、慧がひらひらと手を振ってきたから私もスマホを持っていない方の手を振った。

「お疲れ様でしたー!!」
大きい声で挨拶をし終わった慧が走って向かってきた。
「終わった!!」
「みたいだね、試合勝ててよかったじゃん!おめでと」
これは私からの本音。慧はニカッと笑って
「おう!ありがと!!」
と言った。慧からの『ありがとう』に舞い上がってしまっている自分がいることには気づかないふりをした。

連絡先を交換して、気分がすっかり上がってしまった私は夕香たちの存在を忘れてしまっていた。慧が
「あれ?1人で来たのか?」
というから思い出せたけど、もう怒って帰っているかもしれない。夕香たちのことを好きかと聞かれると好きとは断言できないけど大切な存在であるのには変わりないから、1日中使って、疲れきった足を動かした。

「桜!!」
「見つかってよかったー!!」
「ごめん!迷っちゃって!!」
咄嗟に嘘をついた。
何も気にしないまま2人に合わせて足を動かした。
「先輩なんて言ってたの?」
「なんか、敵の背番号3番が厄介だったって言ってたー
 次は絶対勝つから、また見に来てくれよ!って言われちゃったー!!」
「よかったじゃん!」
 背番号3番は慧の番号。やっぱり慧はすごい。何も関係ない私だけど嬉しくなった。
 慧とまた会えて嬉しかったし、昔聞けなかった連絡も聞けてよかった。野球を見に誘ってくれた夕香には感謝している。
「夕香!誘ってくれてありがと!!めっちゃ楽しかった!!」
「じゃあ、また誘ってもいい?」
慧がいないと意味ないけど
「もちろん!!」
また自分を隠すために、そして、相手が不快な気持ちにならないために、嘘をついた。


 今日も学校を終えて1人で帰っていた。いつもと違うところは甘いものが食べたかったから道を変えてお気に入りのケーキ屋さんに寄ったこと。シュークリームを1つと普通のショートケーキを1つ買って家に向かった。

 帰り道、聞き覚えのある声に釣られて顔を上げた。急に貧血の時のようなグラッとする、あの不快感に襲われた。
「……慧…?」
なんで女の子と帰ってるんだろ。いや、別に、慧が誰とどうしようと私には関係ないことだけど、なんで、なんだろ。私の中に『なんで』ばかりが押し寄せる。その答えを全部、慧の口から直接聞きたい。
でも、楽しそうな慧に話しかける勇気なんて私にはなかった。
「はあ、」
ため息を一つ吐いて足を動かした。

 歩いて、歩いて、歩いているのに一向に家に着かない。別に道に迷ったわけではない。ただ、いつもより凄く、長い気がするんだ。
「疲れた。」
そう小さく吐き捨てるように口にし、俯いたまま、ただ、歩いた。

 お風呂でも、ご飯の時も慧が他の女子と話していた事ばかり考えてしまう。慧に女の子のことを聞こうかスマホを持ったが、文字打っては消して、文を変えては消してを繰り返しているうちに、もう連絡すること自体をやめようと思い始め、最終的にスマホの電源を落とし目を瞑った。

ピコン

通知がなった。非通知にしてない人は親2人と慧の3人だけ。私は慌ててスマホの画面を見た。
――慧
  おれ、今日上田のこと見かけたよ
 1つの通知のせいで、眩しい画面がもっと眩しくなったような気がして目を細めて返信を打った。
ーー桜 
  私も見かけた、女の子といたでしょ?
ーー慧
  そう、いた
ーー桜
  仲良さそうだったね
ーー慧
  そう?俺あの人苦手気味
ーー桜
  そうなんだ笑
  勘違いしてた笑
ーー慧
  上田白い箱持って嬉しそうだった
ーー桜
  ケーキ屋さん寄って帰ったんだ
ーー慧
  いいなー俺も食いたい
  今度一緒に買い行こ
ーー桜
  いいよ笑
  楽しみにしてる
ーー慧
  わーい
  おやすみ
ーー桜
  おやすみ

 慧とのトークが終わって画面を見返す。笑みが溢れる。
 今日は寝落ちじゃなくて、慧のことを考えながら寝た。

「桜ー聞いてる?」
「あ、ごめん」
「いいんだけどさー最近スマホ見ること増えたよね?」
「そう?」
「あ!もしかして!!好きな人でもできたとか!?」
「えー!!うちらの桜に!?」
「好き?」
「絶対そうだって!!!そんなにトーク画面を笑顔で見つめるとか他になくない?」
 この時、初めて自覚した。『あ、私、慧のこと好きなんだ』中学校を卒業して、とっくの昔に終わった恋だと思っていた。なんにせよ、トーク画面を笑いながら見てたとか自覚なさすぎて恥ずかしい。
「あとさ!桜、最近めっちゃ楽しそう!!」
「……確かに、楽しいわ!!」
 慧とまた会ってから心の隙間が少し埋められたような気がして、慧といると息苦しさがなくて『一緒にもっと居たい』と思ってしまう。
 この気持ちを慧に言ったら慧は困るのかな。
「夕香…!
 好きな人に好きって伝えたら嫌われちゃうかな?」
「やっぱり好きなんだ!
 桜に好きな人ができて、しかも、それを私たちに聞いてくれるなんて嬉しい限りだよ!!」
「嫌われるかはわかんないけど!相手が好きじゃないってなったら今の仲の良さは無くなっちゃうかもね」
「そっか、じゃあ、どうすればいいかな?」
「アタックするのみ!!」
「ファイトだよ!桜!」
「ありがとう」
 2人といるのはまだ少し苦しい。苦しいのはどこから来ているのか、不思議でたまらない。


「待った?」
「ぜーんぜーん!」
 お互いの学校帰り。コンビニで待ち合わせして、ケーキ屋さんに行くことになった。
「俺、そこのケーキ屋行ったことねー」
「スポンジが甘くて美味しいんだ」
 雑談して、楽しかった。問題はその帰り道だった。
「慧くん?」
 慧と同じ学校の女子が話しかけてきた。慧は私に
「ごめん!」
と言ってその子の元へ走っていった。

 結局帰るのは1人。スマホを開いて、文字を打つ。
ーー桜
  慧って好きな人いるの?
ーー慧
  いるよ
ああ、あの子かとすぐに分かった。息が止まりそうになった。そして、なぜか目に入るもの全てがゆらゆらして見える。
 誰かが走ってくる音が聞こえた。次の瞬間、私は誰かに抱きしめられた。
「わ……!」
「桜!なんかあったの!?」
「……え…………なんで?」
「なんでって!大事な友達が泣きながら1人で歩いてるんだよ!?なんかあったに違いない!」
 足音の主は美音と夕香だった。この時、初めて夕香たちの『友達』と言う言葉に救われた気がした。
その途端、私の目の前はもっと歪んでしまった。頬にこれまで泣いていなかった分の涙も合わさったのか、久しぶりに声を出して泣いた。

「どう?」
「落ち着いた?」
「うん、ある程度は」
「何があったか聞いてもいい?」
「うん」
 好きな人には好きな人がいたことを話した。
「そっかー好きな人いたかー」
 2人は慧についてはそれ以上は聞かなかった。
「で、それだけ?」
「は………?」
それだけと言われた事が信じられなかった。
「もっとあるでしょ!!」
「うちらが聞きたいのは、そっちじゃなくて」
「「桜のことだよ」」  
「私のこと…?」
何のことかと思えば私のこと?意味がわからない。
「そう!!」
「言わないようにしてたんだけどさ、桜、いつも笑ってなかったでしょ」
 バレてたんだ。そう分かると急に夕香が怖くなった。
「え……?」
「夕香ー言い方ー 
 桜ーうちらが言いたいのはーうちらの前ぐらいは、そんなに気張らなくていいよーって意味だから」
「気張ってなんて……!」
「いたでしょ?実際」
もう誤魔化せない。息を呑んで本当のことを話した。どこに行っても息苦しさがあることも、心から笑えないことも、自分のことが嫌いなことも、全部。
 そしたら2人は顔を見合わせて笑った。
「よかったー!!」
「桜が全部話してくれて!!」
「え……?」
「桜がさーうちらに中々、心開いてくれないなーって思ってたんだ!」
「別に心開いたわけじゃ……!」
「知ってるー!でも、今はこれでいいから!」
「これから本当の桜のこと知っていくから!」
 慧と会った時のように、目の前が明るくなった。
そして、また、涙も溢れてきた。自分でも本当はわかってた。こんな自分の事を誰かに、わかって欲しかったことを。今回は慧がきっかけで夕香たちに打ち明けることになったけど、そんな事がなくても夕香と美音は私の気持ちを聞き出そうとしただろう。そう思うと、なんだか、嬉しくって、申し訳なくって。
「もーまた泣いてんの?」
「桜は泣き虫だからなー!」
「………………………っ、、う、ごめん、ごめんね……っ」
「いいよ、友達だから」
「いっぱい泣けばいいよ!そんな事で嫌いになったりしないから」
 2人の言う『友達』もいいなと思った。いや、『友達』が居てくれてよかった。
「……っ、ありがとう、」
2人は笑いながら
「「どういたしまして!」」
そう言った。
「で、慧くんのことはどうするの?」
「……………どうすればいいかな」
 思い切って2人に聞いてみた。今の2人には話してもいいと思ったから。
「どうって、好きなままなら好きでいるのもいいんじゃない?」
「あ、でも、新しい恋を見つけるのもアリじゃない!?」
 意外とノリノリな2人を見てると、こんなに真剣に考えすぎていた自分が馬鹿らしくなってきた。
「………決めた」
 2人は同時にこっちを見た。息を吸って、吐き出して、吸ってから口を開いた。
「私……告白する」
「え!?」
「マジ!?」
 2人はよほど驚いたのだろう。夕香は、その場で勢いよく立ち上がり、美音は、片手に持っていたメロンパンを落としてしまった。そんなことすら、可笑しく感じ笑顔で言った。
「うん、このままじゃ嫌なんだ。今なら変われる気がするんだ」
「桜、頑張れ!!」
「ありがと、絶対って言っていいほどフラれると思うけどね、初恋の人には、どうしても言いたいの」
「うん、応援してる」
 2人は笑顔で応えてくれた。
ーー桜
  今から、5丁目の自動販売機のとこに来てほしい
ーー慧
  了解
 メッセージを送ってから、自動販売機の元へ走った。


「慧!!!」
 慧は、野球会場の時のように勢いよく振り向いた。
「ごめんね、急に呼んで」
「いや、全然いいよ」
「……………………っ」
 ここに来て、口が動かなくなる。心臓も音をたてている。足だって、この場から早く逃げたいかのように動こうとしている。
「桜?」
 がんばれ、私。
「……………慧!!」
「はい」
「……っ…好きです!」
 やばい、涙が
「っ……中学の時から…う、…好きでした!」
 慧は目を大きく開いて口を開けた。
「ごめん、。」
 フラれると分かってていても、やっぱり泣いてしまう。
「……ほんとにごめん、桜、辛かったよな、自分の好きな奴から好きな奴いるとか聞かされてーー」
 待って、違う、そんなこと言って欲しいんじゃない。止まってよ、ねえ、待っててば。
「ーーー俺なんかより、もっといい男いるし、そいつt」
ちゅっ
 慧のネクタイを引っ張ってキスをした。そして、押し倒した後、胸ぐらを掴んで泣きながら言った。
「ねえ、!そんなこと言って欲しいんじゃないの!慧が良かったから、慧のおかげで中学の時!ずっと楽しかったし、!高校、別になってからも、また!慧に会えて、楽しかったし嬉しかったのに!そんな言い方しないでよ、、!慧のおかげで!変われたのに、!なんでそんなこと言うの?慧に感謝の気持ちを勝手に伝えたかっただけなのに!私が間違ってたみたいに言わないでよ………慧が…謝んないでよ……」
 全部、全部、私の一方的な想いなのに、慧は親指で私の涙を撫でるように拭きながら話をしてくれた。
「……桜、ごめん。………………俺の好きな人は桜だよ。でも、中学の時、諦めようって決めたから、桜の隣は桜の事を笑顔にできる人の方がいいって思ったから、……………桜の隣に立つ自信が今の俺には、ないんだ………………ごめん」
「ほんと?」
「うん、今更だけど」
「1つ訂正してもいい?」
「うん」
「慧は私のこと笑顔にしてばっかりだよ。それに、慧のおかげで笑顔になった事が一番多いし。」
「……そっか」
 慧は体を起こし、私を抱きしめた。
「なあ、今からじゃ、もう遅いかな」
「どうだろう」
「……好きです。小学4年の頃、一目惚れしてからずっと好きでした。」
「そんなに前から?」
「うん」
「ねえ慧、私、恥ずかしかったけど慧に気持ち伝えたんだけど、慧は?」
慧は少し顔を赤らめた。
「………今まで桜って言うのが恥ずかしくて上田って呼んでたし、中学の時、絶対卒業式に連絡先聞こうとしたけど勇気なくて聞けなかったし、桜があの日、声かけてくれたことめっちゃ嬉しかったし、それにーー」
「もういいよ」
「え…」
「もう、分かったから」
顔に熱が集まっているのは自分でもわかった。慧もそれに気づいたのか少し気まずそうだった。
「なあ」
「ん?」
「どうする?」
「どうするって何が?」
「………付き合いませんか」
慧は顔を真っ赤にして言った。
「……いいですよ」
私たちは少しお互いを、見つめ合ってから、おでこを合わせて笑った。
「よろしく」
「よろしくね」

「桜!!どうだった?」
帰り道、夕香たちと合流した。
「付き合えました」
報告すると2人とも笑顔で言った。
「キャーーーー!おめでとーー!!!!」
「これで桜もリア充か………」
「リア充って!」
「おめでとう、桜」
「……ありがとう!!」
 『2人のおかげだよ!』とは言わなかった。何故なら、もう少し素直になったほうがいいと2人に気付かされたばかりだから。今回は自分で言うのもなんだけど、私だって頑張ったから。不器用で拗らせがちな私だけど、
「よろしくね」
2人は、きょとんとした後、何のことか分かったのか笑顔で
「「こちらこそ!」」
と言ってくれた。


 まだ、完璧にありのままを出せているわけではない。いや、全部出すのも面白みがない。けど、少しずつでいい事がわかって認めてくれる人がいる事もわかって良かった。泣きたい時は泣いて、困った事があったらもっと周りを頼って、自分らしく、過ごしていこうと思った。
 少しだけ素直になろう。自分にも友達にも家族にも。そう考えると、少しだけ息がしやすくなった気がした。