無機質なチャイムの音が校内に響きわたる。やっと放課後だ。授業の挨拶を終えると教室は途端に賑やかになる。
一方、私はというと、クラスの女子数人とまた明日、と挨拶をしたら、勉強をするためにそのまま一直線で学校の図書館に向かう。
自習室はあるが図書館のほうが落ち着くし、家よりも学校のほうが寂しくない。それに、コンビニのパンは夜遅い時間帯に行かないと半額にならない。時間潰しなら学校で勉強をしているのがちょうどいい。
私の学校の図書館は飲食・会話等、基本何でも自由のスタンスで、友達同士教え合いながら勉強したい人がよく利用している。そのため、館内は騒がしいことも多いのだが、それでも私があえて図書館で勉強しているのは、その和やかな雰囲気が個人的に落ち着くからだ。
図書館に着くとまだ人は少なかったが、きっともう少しすれば混み始めるだろう。
それから私はいつもの席に向かった。窓際にある細長いテーブルの席には椅子が数個並んでいて、その窓からは緑が綺麗な中庭が見える。
私はそこの真ん中の席に座り、リュックを床に下ろし、勉強用具一式を取り出した。そして、今日もいつものように黙々と勉強を始める。
突然声をかけられたのは、それから数十分後のことだった。その人はいつ来たのか、「お隣、いいですか?」と私に尋ねた。
聞き馴染みのある声だったため、ふと目線を横に上げて驚いた。
「――三上渚、君」
「あ、覚えてもらってるみたいでよかった。水瀬沙弥さん」
同じクラスの、あの人だ。しかも相手も私の名前を知っているらしい。
何でわざわざ私の隣に、一瞬そう思ったが、どうやら私が気が付かないうちに図書館は人で賑わっていたようだ。向こうには大きなテーブルがあるが、見た感じ一人のようだから、ここの席がいいのだろう。
私は驚きつつも「どうぞ」と平静を保って言うと、彼は丁寧にも「ありがとうございます」と返し、私の隣に腰掛けた。