どこにいても、何をしていても、いつのどこか息苦しい
──こんな自分のことが大嫌いだ。

   〜       〜
 私は、いじめられている。
 ある日、学校で有名ないじめグループに目をつけられ、低レベルないじめを受けるようになった。
 最初はクシャクシャになった紙を投げつけられるところからはじまった。その時は全く気にしていなかった。しかし、私のその態度がいけなかったのか、いじめはエスカレートしていった。
上履きを隠されることもあったし、時にはその人たちがやった悪行を私がしたことにされたこともあった。
 今日は月曜日。ものすごく憂鬱だ。
「おい、お前。」
今日もまた、あの人に話しかけられた。私は机に突っ伏して聞こえないふりをした。
「返事くらいしろよ……っ!」
私があまりにも反応がなさすぎたためか、その人は私の机を勢いよく叩いた。
「何様だァ?あぁん?」
「やめてよ……」
「あとで、公園に来い。来なかったら、わかってるよな?」
「う、うん。」
私はやむなく了承した。本当は行きたくない。
「あ、それと、今日は例のぶつ、持ってこいよ?
「はい……」
あの人は笑顔なのか、不満なのかわからない顔で自分の席に戻っていった。
持ってきてなかったらあの人が何をしだすかわからない。もしかしたら、暴れだしてしまうかもしれない。
例の物、ちゃんと持ってきてるよね…?
私は不安になり、自分の鞄を確認した。鞄の中には、汚されてしまっている教科書と、破れたところを何度も縫い直したボロボロのお気に入りの筆箱、そして、一つの白い封筒が入っていた。
(よかった。ちゃんと、持ってきてた)

 放課後──
 私は真っ先に公園へ向かった。
 あの人はもうすでに到着していて、公園の端っこにある年季の入っている椅子に座っていた。
「ようやく来たか。まったく、待たせやがって。」
あの人は不機嫌そうな顔をして私に近寄ってきた。
「それで、例のぶつ、渡してもらえる?」
「は、はい。えっと、これです」
カバンの上の方に封筒を入れておいたためすぐに出せた。
「ほーん。ごくろうさん。」
のりで封をしてあるところを乱暴にあけ、一つ一つ丁寧に確認していった。
「ちゃんと、持ってこれたようだな。じゃ、これはもらうから。」
「え、あ、はい。」
「ばいばーい」
ポケットに封筒を入れて、すぐに帰って行ってしまった。

 そして次の日。
 またあの人がやってきた。
「おい。いま、時間あるか?ま、ないなんて言わないよな?」
「あ、あります。」
「じゃあさっさとついて来い」
私の手を強引に引っ張り、今は使われていない空き教室に連れて行かれた。
「どうして今まであれを隠していた」
「……」
「何か言えよッ!」
私に当たらないように、壁をドンッと強く叩いた。叩かれたところは少し凹んでしまっている。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
「ふざけてんのか?」
「ごめんなさい。そして、ありがとう。」
「っ。胸糞わりぃ」
あの人は私のことを置いてここから出ていった。
 私が教室に戻ると、筆箱がなくなっていた。
そして、授業に出席することはなかった。
(サボってる。まぁ、いつものことか。)
あの人がサボっているのは学校でも有名だ。1ヶ月に1度授業に出席したら多い方。以前に3日間連続で出席していたときは地球の終わりかと騒がれていた。
 そして、どうして出席したのか気になったとある生徒が理由を尋ねると「とある人を監視してるからだけど?」とかえってきたらしい。
 私は、何故かあの人のことを探し始めた。勝手に足が動く。
 でも、あの人には会いたくない。
「なぁ、お前。何してんだよ」
廊下の曲がり角で出会った。
「なにも、してない…です。」
「じゃあ、何があった」
「何もない。」
「話せよ。」
頭を掴まれた。そして、無理やりあの人の方に向けさせられた。
「話している人の目を見る。そんなことも知らないのか?」
当たり前のことを言われてしまった。
「あ、あの。」
「ア?」
「今日、いじめられた。」
「で?」
あの人は興味がなさそうな声で、詳しく聞きたいという顔で、聞き返してきた。
「あの、──ほしいの。」
「あっそ。じゃあな。」
私のこの一言だけを聞いて、さっさと何処かへ行ってしまった。
「ほんとに何なの。」
私は不満が残ったが、仕方なく教室に戻った。
 教室に戻ると、筆箱がなくなっていた。きっとあいつらの仕業だろう。いじめグループの人たちは困っている私を見て楽しそうに笑っている。
 私は、数少ない友達の内の一人に消しゴムとシャーペンを借りて授業を受けることにした。

    〜    〜
あいつを見ていると本当にムカつく。
だが、俺はあいつに関わろうとしてしまう。
そして今、いじめグループがいつも集まる場所に向かっている。もちろん、あの例のぶつを見せるためだ。
「久しぶりだな。」
「お、ようやく来たのか。ようやく一緒にいじめができるようになるな!」
「そうだな。」
「さすが。これでこそ兄貴だな」
「ああ、そうだな。」
俺は今日、いじめをしに来た。
「これを忘れたっていうわけじゃないだろうな?」
俺は今日受け取った写真を見せつけた。
「お前たちに、今まで彼女にやってきたことをそのまま返してやるよ。」
俺は強く拳を握りしめ、そいつの顔を殴ろうとした。そして、拳を振り下ろした瞬間──
「やめて!」
「お前、なんのつもりでやってきた。」
「あなたを止めに来たの。」
「お嬢ちゃん、もしかして僕たちのことを守ってくれるのか?」
「そんなわけないわ」
私はあいつのことを睨みつけた。
そして、あの人の方に駆け寄った。
「今まで、色々してくれてありがとう。先生に報告してくれたのも、あなただものね。」
「……」
「私がいじめにあったときの写真を撮っておけって言ってくれたのも、そのためだったもんね。」
「お前は、俺のことが嫌いじゃないのか?」
「大っきらいだったらここにいない。」
「でも、俺は……」
「助けてくれたのは、あなただけ。でも、前のことを許したわけじゃないからね?」
「ありがとう。そして、すまなかった。」
「お礼を言うのはこっちだよ。ありがとう。」
「こいらの処分はどうなる?」
「きっと明日には、先生がなんとかしてくれてると思う。」
「そうか。俺は、本当に何もしてないな。」
「だーかーら! あなたが先生に言ってくれたおかげなの!」
「お、おう」

 そして翌日、今までのことが全校集会で話された。もちろん、名前は隠されていたから私のことが噂されることも、俺のことが噂されることもなかった。
私に対するいじめは完全になくなった。
俺はいじめグループの縁とのを完全に切った。

少しだけ息がしやすくなった気がした。