あの日の出来事は本当は夢だったんじゃないか。高校の入学式の前日にそんなことをベットの上で考えていた。
あの日以来咲楽のことは見かけていない。その事実が尚更、僕の考えを後押しする。
夢のような瞬間だった。もう一度咲楽に会いたい。その思いを胸に抱いて僕は眠りについた。

 一夜明け、僕は高校生になった。浮かれた気持ちで外に出ると桜吹雪が僕の門出を祝ってくれているような気がした。
真新しい制服を着ている自分はなんだかぎこちなく思えたが、街に出るとすごく馴染んでいた。
 ほんとに高校生になったんだ、そう思いながら横断歩道を渡っている次の瞬間、目の前でガッシャーンと車と車がぶつかっていた。僕は間一髪のところでその場にいたサラリーマンが服を引っ張ってくれたことで助かったが、私の前を歩いていた人、一名はその事故に巻き込まれた。
 ドクン、僕は激しい動悸に襲われその場を離れた。霞んだ視界の中でも見えた一人のおばさん。その人はすごく嫌そうな顔をしながらこういった。
「あの人じゃなくて、非常識人が、雨露咲楽が死ねばよかったのに。」
一瞬この人はなにを言っているんだと思ったが、自分のことで精一杯だった僕はその人に問い詰めることはできず、その場を後にした。