「どうして、そう思うの?」
僕は優しくそう問いかけたが、実際は戸惑いで頭が埋め尽くされていた。
 下を向いて現実から目を背けようとしていたが、決心をつけて前を向くと咲楽がまた、涙を流していた。
僕が手を伸ばそうとしたときには咲楽は扉を閉めてしまっていた。
 引き下がるわけには行かなかったが、今の私にできることはなにもない。
「咲楽、今はきっと気持ちの整理ができてないだろうし、僕も急に変なことを言って悪かった。でも、これだけはわかってほしいんだ。たとえ咲楽が僕のことや君のお姉ちゃんのことを信用できなくても僕らは味方だ。いつでも話しかけてくれ。相談してくれ。」
これだけでいいだろうか。僕は心の中の過去の自分に問いかけた。
「ねえ、咲楽に僕のことを教えるよ。僕にはね、家族がいないんだ。」
この話を誰かにしたのは初めてだ。自分の記憶からも消していたくらいだし。仕方ないのかもしれない。
「だから、心配してくれる家族がいることって羨ましいと思った。でも、それを君には押し付けやしない。僕は咲楽と同じような人間で、咲楽を救いたいと思っている偽善者なのかもしれない。それでも、好きだから。がむしゃらに一人で抱え込もうとする小さな咲楽の背中が好きだから、ずっと待ってる。今日はありがとう。これからもよろしく。」
本心で咲楽と話す。これが僕の導き出した答えだった。
踵を返して歩き出したとき、後ろから「ありがとう。」そう聞こえた。