「この感情が好きという言葉で表せるのか、常識を知らずに育った僕にはわかりません。」
「え…?」
咲樹の口から疑問の嗚咽が漏れた。
「…でも、僕には咲楽しかいないと自信をもって言うことはできます。」
そういった僕を真剣なまなざしで数秒見つめた後、咲樹は優しそうな、お姉ちゃんの顔をして笑っていた。
「お願いがあります。咲楽のことを助けてあげてください。当たり前にかける言葉なんかじゃなくてあなたなりの咲楽を気遣う言葉を伝えてほしいんです。彼女は親からの愛情も、友との友情も知らずに育ってきました。そして、初めて信用して心の許したのがあなたんだと思うんです。比べられて、努力を無碍にされて、人を信じようとしなかった彼女があなたを信じたんです。」
長々と親が言うようなセリフを咲樹はすごく慎重に言葉を選んで僕に伝えていた。
それも、土下座をして…。
「自分の妹なのに私は咲楽を救うことはできません。咲楽にとって私はライバルでいなくなってほしい存在だと思われているからです。私たちの両親は今やっていることを改めようとはみじんも思っていない様子です。私にできることはほとんどありません。どうか、手を貸してくれないでしょうか。」
そう言っていた咲樹の背中は震えていた。
ああ、この人はちゃんと咲楽のことを考えてくれていて、自分なりに傷つけないように接してきたんだなと感じ取ることができた。さすが姉妹と言わんばかりに二人とも…