どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しい――こんな自分のことが大嫌いだ。
第1章.出会い
おはよう。
今日も聞こえる声。何もないけれど、何かある気がする。
『今日、家出するね。』
「うーん、あまりにもバカすぎる!」
『あんな学校とか家とか自分を認知さえしてくれないところにいるなら、外にいた方がマシ。どうせ追い出すんだから別にいいでしょ。』
「書き方が真面目すぎるな。私は別にこんなこと思ってない」
『反抗期なので家出します』
「もういいやこれで。少し正直というか何というかあれだけど。これかな。これ以上書いてたら埒が明かないし」
私は愛甲彩音。中学2年。女子。
独り言を言いながら置き手紙を書き終え、ペンを机に荒々しく置いた。
今日は四月二十日。
始業式もとっくに終わり、新入生が新しく来た。先輩として話してみたいが、こんな私が話しかけたら先輩が可哀想だ。
無駄にふわふわした憎たらしいくせっ毛に、横にひろいウエスト。少し顔が良いくらいで、大体髪の毛と体型でみんな私を避ける。あと性格か。気が強いとか、この世の全人類がそうだろう。
どうせ避けられるくらいなら関わるのはやめておこう。
そんなことを思いながら荷物をまとめ、時間を確認した。
現在時刻午前4時。まだ保護者たちは寝てるだろう。
家出するにはぴったりの時間だ。
「…」
まだ家を出るには少し早いかも。そう思い椅子に座ってぼーっとする。
家出少女か、
考えるだけで胸が踊る。
外が明るくなってきた。
学校に行きたくないが故に家出をする。だが、別に学校に行きたい気持ちが全くないわけではない。誰だって学校へ行って楽しみたいという気持ちはもっているし、友達と放課後遊んだりしたいとか思うだろう。
友達という存在は、学校生活で大切にするべき宝物。と誰かが言っていた。
私にはいない。いたとしても、偽りだ。きっと。いつも私に笑いかけてくるその顔には、何か違和感がある。その違和感が嘘を表している事は、最初から分かっていた。
私は勘のいいガキだった。小さい頃から酷い親の元で育ち、自分の思考力を高めた。
「テーテン」
音が鳴って、ベッドの上を確認しに行く。携帯の通知音だ。"私の友達"からだろうか。そうだったら結構嬉しかったりもする。
だが通知音の正体はイラストアプリの「いいね!」がついた連絡だった。
今は15いいねついている。
「昨日あげた絵のやつかな。上手く書けてたと思うんだけど」
「あっ!」
時計の針はすでに午前5時を指そうとしていた。移動のことも考えると、本当に急がないといけない。服・マスク・帽子・アクセ・中学生にしては多めのお金・携帯。
「あとは、、、」
そして小さい紙袋を取って鞄に入れた。
「これでいいかな」
荷物を取り、窓から飛び降りようとした。5回ぐらい前に家出した時に部屋を二階に移されたが、こんなの慣れでどうにかなる。ほぼ毎日使っている私の外への玄関だ。
「はぁぁっ!!」
飛び降りた。靴を履きながらいつものルートを歩く。お届け物もしないといけないから今日は早く歩くべきか。途中から何か、、気配を感じたが、気にせず歩いた。
そして今気づいたことがある。
忘れ物をしてしまった。あんなに出ていく前に確認したのに。戻るにしても、今から戻ったら確実に保護者達にバレるだろう。前に釘を刺されたのにこの行動だ。
部屋がまた移行されるかもしれない。ということはその忘れ物は諦めるか、買わないといけない。
「この時間どこも空いてないでしょ、、。」
案の定その予想は当たり、近くのお店はほとんど閉まっていた。そりゃそうだ。まだ午前6時にもなっていないのだから
「お届け物は後に回すべきかなぁ、。今日は絶対届かないといけないけれど。仕方がないしね。」
独り言が多いからだろうか。周りの視線が何故か私に寄ってくる。そう言ってもあんまり人はいないんだけど。恐らく周りの視線の原因は、私の格好によるのもあるのだと思うのだけれど。もう気にならない。
「??」
また気配がした。誰かに見られているような感じだ。
誰かいるのだろうか。少し静かに歩いた。だが私以外の足音や何かの物音は聞こえなかった。
「気のせいだったのかな。」
気にせず歩く。もし誰かに付けられていたら、大体は予想が出来る。
家出の追手か、警察か、
まぁそんなところだろうか。
「今日は時間もあることだし、遠いけど隣町まで行こうかな。そしたら忘れたもの買えるかもしれないし。」
あの子の為に。
唯一私と仲良くしてくれた、あの子の為だけに。あの子だけが、私の光なのだ。いつも友達と呼べる友達がいなかった私の。その愛が偽物だとしても。
やがて歩いていると、交差点が見えてきた。信号が青になり、私は交差点を渡ろうとした。
そこで私の記憶は途切れようとしていた。簡単に言うと気絶、いや、死にそうになっていた。大きなトラックが、こちらに向かっていたのだ。
「死ぬの…?」
命の危機が迫っているのに、私は間抜けなことを小さい声で言った。いつもだったらそんなことは言わなかったと思う。
目覚めた時は、過去だった。椅子に座っていたようだ。状況を理解できないまま、携帯の電源を入れ、現在時刻を確認した。
「午前4時43分…」やはり時が少しだけ戻っている。だが何故?私が見たあの事故は、トラックは、夢だったのだろうか。あまりにリアルすぎた。到底夢とは思えない夢。私は事故に遭った夢を見た時、時が止まったように見えた。周りの人たちが急いで私を助けようとした。トラックが私を引こうとした。まるで絵のようだ。あの夢の中の出来事は、私の心の絵なのかもしれない。だけれどあの時感じた音、感覚、振動。明確に覚えることが出来ている。少し心臓が痛い。木の箸で刺されているような痛み。
「またあるくのか、、」
そして今、目の前には謎の少年がいる。いつの間にいたのだろうか。無駄に顔がいい。髪がサラサラストレートで、なんかウザそう。私の今の機嫌が悪いからウザそうと言うだけで、実際はそうじゃ無いとは思うのだが。身長と大人びた顔を見る限り、年上だろうか。
第一印象は性格が良い、でもウザいイケメン、と言うところだろうか。矛盾しているようだが、なんともそれ以外に言い表せない。
そして少年は私に微笑んだ。目が澄んだいて、偽りのない、異性からの初めての笑顔だった。そしてこう言った。
「おはよう。もう事故に遭わないようにね。おばーちゃん。」
は?何あの子。今私のことをおばーちゃんって言ったの!?あの子私より年上でしょ絶対!!
どういうことだろう。意味がわからない。不思議に心臓がバクバクと言っている。動きすぎて破裂しそうだ。苦しい。
「どういうこと?バカにしてんの?…あなたは誰なの?私をおばーちゃんなんて言うし、、、」
少年は答えず、街の奥に塗れて消えた。その少年が背を向ける時、私はひとつの絵画を観ているようだった。サラサラの髪、黒いパーカーに少し緩めのジーンズ。普通なら着太りするはずなのに、ユルユルで、スタイルも抜群なのが分かる。とても五月蝿い街を背に、謎のオーラが出ている綺麗な人間の男の子。一際目立って、きっとどこにいてもすぐに見つけられるような気がする。なぜか見惚れてしまった。目が離せなかった。彼が見えなくなった後も、心臓の動きは止まらなかった。とてもうるさい。病気にでもなったのだろうか。
ビルのガラスに自分の姿が映っている。とてもマヌケな顔だ。恥ずかしい。
「…またあの人に、会えたらいいな。」
きっともう会えない。
いくら探しても、絶対に見つからない。そんな気がする。
でも、会いたい。あの人に。これはきっと、恋などではない。ただ少し興味があるだけ。この私に素で笑いかけてくれる人なんて、今までにあの方だけだったから。初めて人に会いたいと思った。またあの笑顔を見てみたい。とりあえず今日はもう終わろう。
あの日から半年が経った。
私は今、事故に遭った、いや遭いそうになった場所へ来ている。私が会いたかった少年はいない。もしかしたら、もしかしたら会えるかもしれないから。私はあの日から、あの少年に会うために毎日ここへ通っている。
でも今日のようにずっとあの少年がいた事はない。あるのはうるさい街の声だけ。あと空を自由に飛ぶ鳥達。まるで私に諦めろと言っているように同じところをずっと飛んでいる。
あれから、あの日からずっと考えていた。あの日のあの事件は、果たして本当の事だったのか。はたまた夢の出来事だったのか。どちらでもあり得ない類の話だとは思うが、この2つしか選択肢がないのだ。他にあるのなら教えてほしい。まぁあるとしても信じられる内容ではないだろう。
未来から来た…とかかな?おばーちゃんとか私のことを呼びやがったし、もしかしたらあるかもしれない。
いや有り得ないけど、
でも未来から来たなんてどうやって来たかも計り知れないし、ただ私のことをからかってるだけかもしれない。
にしてもおばーちゃんはおかしい!好きな人に死にかけのババアって言われた時ぐらい腹が立つ!
興奮していたら心臓に痛みが走った。あの日から時々、キリキリとしたひどい痛みが心臓を襲う。医者に診てもらったが、特に異常は無かった。でも医者は心臓よりも、私の外見に気になっていたみたいだった。私の外見は相変わらずだった。なんなら髪が前よりバサバサしているような…
とにかく気持ち悪い髪だ。生まれつき髪質が悪いわけでは無いのだが。これではいつかパーマをかけたように見える。
だからあの少年は会ってくれないのだろうか。本当にどうしたらいいだろう。
第2章.親友の苦労
今、親友から話を聞いている。
「事故に遭ったけど違ってて、、それでなんかよくわからない美男子に助けてもらった?それで会いたいけど全く会えない?そしてそれが自分の容姿のせいだって思い込んでるの?
あんた何かの病気にでもなったの?」
私は道野奏。彩音と同じ中学2年生で、私は彩音の親友だ。
昔から常連の喫茶店で今、彩音から半年前の妄想を聞いている。ほんとに大丈夫だろうか。明らかにおかしい。まず、事故に遭ったけど違った件。遭ったのに違ったなんて、意味が分からない。
その上彩音は、少年に助けてもらったなんて言っている。助けてもらったんなら事故に遭ったんでしょ!この子どんな妄想してんのよ!
「てかなんで半年前の話をするの?その時言えばよかったのに、、」
彩音は別に、、、と言って再び黙り込んだ。
きっと疲れね。最近彩音は学校ちゃんと来てるし、テストでもいい点取ってた。きっと勉強のしすぎかなにかだろう。努力家の友達は疲れるってほんとなんだな。
「ね、あの、さ、、彩音って最近疲れてる、、?それともなにか悩んでて、それで現実逃避でもしてる、、?」
彩音は黙っている。
「もしよかったらなんか話、聞くよ、、?彩音最近頑張りすぎてるし、えと、、」
彩音は我慢できないという顔をしだして、怒り始めた。
「本当にあった事なの!!!そんなに頭ごなしに否定しないでよ!真面目に考えて!!奏ならちゃんと話聞いてくれると思ってたのに!」
あー、彩音、怒っちゃった。この子怒ると大変なんだんよねー、反省。
「ごめんて、だってほんとにありえないし、久しぶりに会えたかと思ってわくわくしてたらなんか、、んーと、、彩音ちょっと変わってるし」
「まぁね」
ほんとに彩音は変わった。半年前から。
今までずっとサボって来なかった学校に来るようになった。勉強も出来るし、運動も球技以外なら出来る。髪の毛はふわふわしていて、これはこれで可愛いと私は思う。まるで犬のトイプードルみたいだ。前会った時よりボサボサしてる気はするけど。でもその髪の毛のせいで会いたい人に会えないなんて、そんなわけないと思う。最近男子からの評判も悪くないし。
まぁ半年前に何かがあったっていうのは、確実に分かっていたけれど。まさか妄想話、、いや、本人曰くほんとの話をらしいけれど。
「んで?もっと詳しく話を聞く事って出来る?」
私だって人間だ。自分で言うのもなんだが、彩音の親友として、やれることはやりたい。
なにより、彩音が私にこうやって話してくることなんて初めてなので、私も興味があった。
「話したら私の会いたい人、探してくれる?」
私は頷いた。本心だ。確かに面白半分のところもあるけれど。
話を聞き終わった後の彩音は微笑んでいて、けれどどこか悲しげのあるような、そんな顔をした。
そして一部始終を聞いた。
少年についてまとめるとこうだ。
彩音を助けたらしい少年は、突然現れて突然消えた。
その少年はかなり美男子で、年上らしく何かオーラを放っている。
彩音を「おばーちゃん」と呼んだ。
そしてその少年の住んでいる場所や学校、バイト先は分からず、連絡先もない。そもそもバイトやってるかわかんないけど。
「彩音を助けた少年に関しては、勘で探すしかないね。連絡先も場所も分からないようじゃ、。」
「そうなんだよね。事故に遭った?って言うべきなのかな。その場所には毎日行ってるんだけど。」
すごい気持ちだ。人に会いたいがためだけに、毎日同じ場所に行くなんて。私には絶対無理だ。それか、それほどまでに彼に、少年に惹かれたか。
それかこの子が異常なだけだと思うけど。
「じゃあ、次は事故について詳しく話してくれる?」
事故についてはまとめるとこうだ。
学校をまたサボろうと家出したときにおこった。
青信号を渡ろうとした時に轢かれそうになった。
そしたら少しだけ時が戻って、少年が現れ、消えた…。
うまく掴めないし、焦点はここからずれている。学校をサボろうとするのは半年前まで当たり前だったから、家出するのは問題だが、ここはまだ今回の問題点ではない。問題はその次である。
青信号を渡ろうとして轢かれそうになったこと。基本的にこの世界は、そんなことが起こらないように出来ているはずだ。
もし歩道が青信号で、車道が赤信号の場合、車道にいる車やトラックなどの自動車は、強制的に止めさせられるはず。
理由は、車道の端から発せられている電波のせいである。この電波は不思議で、発せられている間人間などは問題なく動けるものの、機械は動かなくなる。
だから歩道が青信号の時に轢かれそうになることは絶対にないと言える。
そのため、ここから話の焦点は合わないと言えるだろう。
つまり、彩音はおかしい。
「ねぇ、彩音、歩道が青信号の時は、自動車は動かないはずでしょ?だから轢かれそうになったのってほんとなの?嘘じゃなくて?」
まず本当のことなら、大きいニュースになっているはずだ。電波を発する機械が壊れたとか、それが原因で事故が起きそうになったとか。
彩音は少し考えるような仕草をして、こう言った。
「ほんとだよ。」
にわかには信じ難いが、彼女は嘘を言っているようには見えなかった。
「気になることがあるんだけどさ」
「うん」
彼女は返事をする。そして私はこう言う。
「その、事故があったところに、連れてってくれない?」
もしこれで電波を出す装置が壊れていたら、電波は発信されず、自動車は信号が赤でも動けるはず。そしたら歩道が青でも轢かれるという可能性がある。
「うっ、」
彩音が心臓を掴んで苦しそうにしている。
彩音はなぜか、たまに苦しそうにして心臓の近くを撫でることがある。半年前から。この世界はショック障害になると、心臓がたまに痛くなるらしい。病院ではこのことは分からない。
だから、トラックに轢かれそうになった時のショックで心臓の痛みを感じるようになっていたなら、少し過去に戻って事故は無くなって、今彩音がここにいる事も頷ける。
電波の装置が壊れたせいで轢かれそうになってショック傷害になり、轢かれる直前に過去に戻る。そしてその記憶があるから、事故がありそうになったところを避ける。だから彩音が轢かれそうになることはない。
私がずっと信じられないと言っていた事故の事も、過去に戻ったという事も、これで辻褄が合うはずだ。
事故があった場所。いや、交差点の電波装置が壊れていたらの話だが。
そこの交差点には、すぐに行く事になった。
第3章.突然の連絡は
この間、やっぱり奏にあの事を話してよかった。最初こそは完全に否定というか、疑われたけれど。結局協力してくれることになった。ちなみに奏は私の唯一の親友…友達で、半年前の家出した日はちょうど彼女の誕生日だった。
奏に話した日、あの日は土曜日で奏の提案で一緒に交差点へ行った。彼女が言うには、電波装置が壊れていたら、車道が赤信号であっても自動車は動けるから、事故に遭いそうになって、過去に戻ったと言う私の話の信憑性が上がるらしい。
こうしてみると、まだ完全には信じてないようで、信じることから始まっただけだ。
まだまだ、あの少年に会えるまでの道のりは長そうである。
「ふぁあああぁあああああああ」
私は家の中で奇声を上げた。家の中には今日も私ひとり。やることがないのだ。
厳密にはやれることがない。と言った方が正しいだろうか。何をしようかな。
テテン。携帯の通知音が音部屋中に響く。
一通のメールが届いていた。
『あやねちゃんへ
今何してる〜?最近は元気?よくやれてる?パパとママは、彩音ちゃんが言っていた通り仲直りするから、もう少し待っててね。
少し大変なんだ。
ママは少し自由で一緒に住んでいた時大変だっただろう?たしかママが遊びに行くときの晩御飯は無いときもあったらしいじゃないか。
それでママが彩音を置いて行ったり、彩音の事を考えてないと思ってパパは少し怒っちゃったんだ。
大事なママと離れさせてごめんね。大丈夫。きっとまた会えるさ。
そうそう、ところで今は10月であとだいたい2ヶ月で冬休みだろう?来年からは3年生で、あんまり遊べなくなるから、旅行を計画してるんだ。どこがいいかな?決まったらメールで送ってください。
勉強とか色々頑張ってね。
パパより』
所々口調がおかしくなったり、ずっとあやねちゃんと書いてあるところを見ると、やはり私は中学2年にもなって子供扱いされているのか。てかパパからメール来たのいつぶり?
前回のメールは約3ヶ月前だった。一般的な娘と親のメールのやり取りなんて、こんな頻度なんだろうか。まぁ連絡を取り合ってる人が父親、つまり男で、私が抵抗感を持っていたりするからかも知れないけど。パパはそういうことに敏感だ。そんな事よりも気になることがあった。
「旅行か。」
家族内での旅行という言葉が出てきたのは、4年前に聞いて以降だった。4年前は丁度、私がこちらの地域に引っ越してきた時の事だった。
知らないところで不安だろうと、保護者たちは私のために工夫して散歩などにも誘ってくれたことがあったっけ。旅行はその時、パパが気分転換に行くという目的で、行ったものだった。
こう見ると私って、結構贅沢してたんだな。
いや、私に贅沢をさせたかったんだろうか。それはともかく普通に今回の旅行は楽しみである。場所を自由に決めていい、という事はプランも自由に決めて良いのだろうか。4年ぶりの旅行は実に、充実しそうだ。
もしかしたら、何か出会いもするかもしれない。
そんな期待を寄せて、私は数々の旅行地を調べた。
第4章.親の視点
昨日、娘にメールを送った。私からの、3ヶ月ぶりの今送れる精一杯のメッセージ。
ずっと何年も会えず、あの子は私を嫌っているだろう。
私はあの時、あの子が辛かった時に何もすることが出来なかった。父親なのに。あの子は可哀想な子だ。今も、今までも、そしてきっとここからも。夢も何もない。何年も会ってないから分からないが、内向的な性格はそのままだろう。見た目は本当に可愛い。愛らしい僕の娘。
それなのにも関わらず、今までからかってきたり、馬鹿にしてくるやつが何人いただろう。会社の人間に娘を見せると、何故か笑われる。私はこの、娘を否定してくる会社のやつが嫌いだ。大嫌いだ。そして会社のやつ以外にも、娘を傷つける人間は嫌いだ。そして私はこんな自分が嫌いだ。すべて、私のせいで苦しませてるから。いろんな人間たちを。娘を
いっそあの子のことが嫌いだったらよかったのに。そしたら会社の人も、娘を傷つける人間も、嫌いにならずに済んだし、今まで以上に良い友好関係を築けていただほうに。
私は父親として、何が出来るのか。どういう風にあの子に、娘に、彩音に接するべきなのか。
あの子が小さい頃から、私はあの子に構ってあげられなかった。仕事が忙しかったためだった。朝の6時に家を出て夜の11時まで仕事をして12時帰る。だから休日以外は家族と会う事はなかった。
そんな私のことを妻は呆れたと言った。
「仕事を言い訳にして、私にも娘にも会わないなんて、どうかしてる。」
私は当時、言い返すことも出来なかった。仕事が忙しかったのは事実。だが、会う時間もほとんど無く、家族のために何も出来なかった事も本当の事だったからだ。
ある日、私と妻は大喧嘩をした。妻は私の頭にガラス製のコップや硬い物をひたすらに投げつけたり、首を絞めたりした。私は妻に傷をつけたりはしたくなかった。だけど分からせないといけない。私は暴力は振るわず、言葉を妻に投げつけた。その時娘は恐怖を感じたのか、泣きながら幼稚園の先生を呼んできた。そこから警察まで広がった。大事になってしまった。
それから私達は別居という形で離れることになった。娘は全く会わなかった不孝者の父親よりも、母親を選んだ。
それから妻は、娘を放って夜、遊びに行くようになった。娘の晩御飯は作らず、テーブルに百円を置いて毎日遊びに行く。私は最初、その事を知らなかった。その事を知ったのは、月に一度だけある娘との面会の時だったから。
事を娘から聞いた時、私は怒りでどうにかなりそうだった。目の前のコップを強く置き、私は妻を悲観した。あれほど娘を大事にしないなどと言っていたくせに、大事にしなかったのはあの子の母親の方だったのだ。悲しい以外の言葉で出てくるのは、すべて呆れた言葉だった。
目の前にいるこの子は、母親からその扱いを受けた時、どのように感じたのだろうか。その扱いを受け続けて、母親のことをどう思っているのか。
もう別居どころではなく、離婚するべきではないか。そしてこの子を私が引き取るべきではないか。そう思った。
それから私達は離婚した。しかし、別居の間使っていた部屋は狭かったりして子供を養う基準に満たさないと、親権は母親の方に行ってしまった。
しばらく経ち、元妻は男を連れ込むようになった。それから妻は娘のそばにいることが多くなったが、その男は元妻がいない場所で娘に暴力を振るった。娘は見えないところに傷やアザが出来た。頭皮、服の下、足。いろんなところに、いろんな傷つけ方をされていた。
妻は娘のその異変に気づいていたが、聞こうとはしなかったそうだ。それは娘がよく転ぶと言っていたからだった。男にやられた可能性も考えたらしいが、表面では娘に優しくしている彼を見て、男がやったとは思えなかった。だからすぐ近くにいる男がやったなんて、分かるはずなかった。その虐待はエスカレートし、娘が通っている学校の先生もおかしく思うようになった。日に日に、元気が無くなって、足のアザなども目立って、よく見えるようになっていた為だそうだ。
それから、誰がしてくれたのかは分からないが虐待という名目で警察に通報された。娘は保護された。私はそれを聞いて、警察に土下座して娘を引き取った。
私が言えるのは、話すことが出来るのはここまでだ。
今から、娘がいる実家へと行こうと思う。
第4章:これからは
私は、どうすればいいんだろう。どうして生きているんだろう。
ずっと孤独で、こんな場所にいて。悲しみも何も分からないのに、なんで。
「うぅ…」
胸が締め付けられるように痛む。最近は特に酷い。両目から涙が出てくる。溢れて止まらない。でもこれは悲しみと呼ぶには、辛すぎるだろう。
大丈夫。そう言い聞かせる。私は、よくできる。演技も今まで、順調だった。そう。あの日、私は、愛甲彩音はトラックに轢かれた。
別の世界の私は、助かったようだったみたいだけど。正確には入れ替わった私というべきかもしれない。あの少年は、私の危機を読み取ったのだろう。
私には何かの能力がある。あの時入れ替わった私は、そんなこと知らなかっただろうけど、あの子も私も、その能力がある。
時間の能力とは。それはまだ詳しく解明されていない。だが私が経験してきた限りだと、違う世界の私と入れ替わったり、時間を読むことが出来たりできる事は分かった。あと、未来予知の能力だ。これに関してはまだあまりわかっていない。ただ何か悪い事が起こる直前などに、具合が悪くなったり、いろんな人物の未来の姿を見ることができたり、便利な能力だ。だからあの少年が私の何かだと即座に理解する事が出来た。その何かは分からないが。だがその能力は危機に直面しないと発生しない。発生した時のことを覚醒という。
私はトラックに轢かれる時に覚醒した。だがそのまま轢かれて、今私がいる病院に運ばれた。別の世界の助かった私は、きっと助けられたはずだ。あの少年に。私は助けられなかったが。そこでなぜ、私を助けなかったのかと疑問が生まれる。普通、どこの世界も起きていることはほとんど同じだ。ただほんの少しだけズレが生じる事があるが、それ以外の世界が変わる大きい事は、よっぽどのことがない限り変わらないはずだ。そして一つ仮定が生まれる。あの少年は世界を駆けている存在だと。
根拠はある。
本当だったら、別の世界の私とこの世界の私は、機械の故障によりトラックに轢かれるはずだった。これは世界が変わる大きい事だ。機械の故障による自動車事故。ここの近くの世界ではほぼ絶対に起こる事のないことだからだ。
現に私がいるこの世界では私がトラックに轢かれた事で全国的に大きなニュースになっている。きっとこれから事はもっと大きくなり、この世界の方針は変わるだろう。
だからトラックから逃れられるのはここからよっぽど遠い世界であるはず。
だが私が助けられた世界はここの世界ととても近く、変わってる事なんてほとんどない。
つまり?
「?」
頭がこんがらがってきた。まとめようか。
私はトラックに轢かれた。世界はここ以外に沢山あり、ここの世界に近ければ近いほど同じことが起きる。逆に遠ければ遠いほど、こことは違うことが起きる。
簡単に言うと、学校の教室のように世界はまとめられているということだ。教室は沢山あるが、すべて同じ人間がいる。ここら辺の世界では学校と同じように同じ食べ物、行事が行われる。だから基本的にほぼ全ての世界は同じである。
だが、ここと近いはずの世界では私は助かってしまった。しかもここの世界で、分からないうちに一瞬だけ入れ替わった。
そしてその時に能力が覚醒した。
現れた少年は恐らくどの世界とも照らし合われて1人で、助けられた世界の私を助けた。そうでないと私の世界に現れなかった理由がない。彼は何か隠している。
「…!」
また胸が痛くなる。最近は頭が酷くなってきた上、頻繁に起こるようになった。原因は不明。ショック障害と言われているが、何かの代償である可能性が高い。
そう、能力を得た代償。
その代償はきっと私を蝕み殺す。だから私は死ぬ前に後悔しない生き方をする。
例の彼と事故からは助かった私を結ばせる事。そしてその”私”の能力を封印すること。つまり助ける事。
それが私の今の目標となる。実際、この能力はそんな事までできるようなモノではないが。
違う私はどうなんだろうか。すでに代償を払って能力を覚醒させてしまっているだろうか。
そして私は純白のベッドで寝る。
現在時刻午前4時。今日私は早く起きた。
隣で誰かは心配そうな顔で見ていた。
誰なのか分かって私は咄嗟に笑顔を創った。いや、笑顔を創造した。
第5章:代償
事故の日から大体1年が経った。私はあの日、一度しか見ていないにも関わらず少年のコトヲ考えてイル。
ナんでだロうか。キット会エる。そう信ジテいたノにな。
私ハ助かっタ。今だに何故タスカッタノか不明でアる。
「ア、あ、あ、」
私はいつしかカタコトで喋るようになっていた。これについても原因は不明。ずっと変わらず同じ生活をしていたはず。そして私はおばあちゃんに聞いた。全ての元凶は、変化はなんなのか。そして言っていた。答えはここにある。とね。
それから私は親の用事で病院に行くことになった。友達のお見舞いに行くそうだ。私は少し周りを見ることにした。
現在時刻午前4時。私は女の子を見ている。
彼女は唸り声をあげ少し苦しそうに寝ていた。私と似ている雰囲気がある子だった。容姿は全く違った。黒髪ロングの美人。私と違ったタイプで、ザ・清楚系だ。だが私と似ているが似ていない彼女に少し惹かれた。興味が出た。
じろじろ変態のようにずっと見ていた。
そうして彼女が起き上がった。私は彼女の顔を改めて覗き込んだ。やはり思った通りの美人である。でもどこか苦しそうで、でも私を見てなぜか焦った顔をして、目を逸らして、笑顔になった。
心配そうな顔をしていたのか、じろじろ見ていたせいなのか彼女は私の目を見て
「どうかした?」
その一言だけ言われた。
引き攣った笑顔で。
その笑顔は見覚えがあるようだった。絶対に、勘違いではない。
そして私は言う。
「悪夢を見たの?」
「違うよ」
今度はさっきよりも顔が緩んだ笑顔だった。思った。あぁ、私はこの方を知っているのかもしれません。私の直感はそうだと叫んでいる。
彼女の事がまだ気になったが、その後その子はいなかった。トイレから帰ってきたら、誰もいなかったかのようにベッドは空っぽだった。
彼女もあの例の少年のような存在なのだろうか。その瞬間に
ズキ、心臓にそんな痛みが走った。
最近は前よりもっと頻繁に起こっている。
脈も普段から上がるようになった。医者にまた診てもらっても原因不明。ここまで痛みを感じていると言っても原因不明というのは珍しいケースの為、診断結果が出ないのはおかしい。ほんとに痛みがあると言っても信じてもらえない。挙げ句の果て仮病と疑われる始末。
第1章.出会い
おはよう。
今日も聞こえる声。何もないけれど、何かある気がする。
『今日、家出するね。』
「うーん、あまりにもバカすぎる!」
『あんな学校とか家とか自分を認知さえしてくれないところにいるなら、外にいた方がマシ。どうせ追い出すんだから別にいいでしょ。』
「書き方が真面目すぎるな。私は別にこんなこと思ってない」
『反抗期なので家出します』
「もういいやこれで。少し正直というか何というかあれだけど。これかな。これ以上書いてたら埒が明かないし」
私は愛甲彩音。中学2年。女子。
独り言を言いながら置き手紙を書き終え、ペンを机に荒々しく置いた。
今日は四月二十日。
始業式もとっくに終わり、新入生が新しく来た。先輩として話してみたいが、こんな私が話しかけたら先輩が可哀想だ。
無駄にふわふわした憎たらしいくせっ毛に、横にひろいウエスト。少し顔が良いくらいで、大体髪の毛と体型でみんな私を避ける。あと性格か。気が強いとか、この世の全人類がそうだろう。
どうせ避けられるくらいなら関わるのはやめておこう。
そんなことを思いながら荷物をまとめ、時間を確認した。
現在時刻午前4時。まだ保護者たちは寝てるだろう。
家出するにはぴったりの時間だ。
「…」
まだ家を出るには少し早いかも。そう思い椅子に座ってぼーっとする。
家出少女か、
考えるだけで胸が踊る。
外が明るくなってきた。
学校に行きたくないが故に家出をする。だが、別に学校に行きたい気持ちが全くないわけではない。誰だって学校へ行って楽しみたいという気持ちはもっているし、友達と放課後遊んだりしたいとか思うだろう。
友達という存在は、学校生活で大切にするべき宝物。と誰かが言っていた。
私にはいない。いたとしても、偽りだ。きっと。いつも私に笑いかけてくるその顔には、何か違和感がある。その違和感が嘘を表している事は、最初から分かっていた。
私は勘のいいガキだった。小さい頃から酷い親の元で育ち、自分の思考力を高めた。
「テーテン」
音が鳴って、ベッドの上を確認しに行く。携帯の通知音だ。"私の友達"からだろうか。そうだったら結構嬉しかったりもする。
だが通知音の正体はイラストアプリの「いいね!」がついた連絡だった。
今は15いいねついている。
「昨日あげた絵のやつかな。上手く書けてたと思うんだけど」
「あっ!」
時計の針はすでに午前5時を指そうとしていた。移動のことも考えると、本当に急がないといけない。服・マスク・帽子・アクセ・中学生にしては多めのお金・携帯。
「あとは、、、」
そして小さい紙袋を取って鞄に入れた。
「これでいいかな」
荷物を取り、窓から飛び降りようとした。5回ぐらい前に家出した時に部屋を二階に移されたが、こんなの慣れでどうにかなる。ほぼ毎日使っている私の外への玄関だ。
「はぁぁっ!!」
飛び降りた。靴を履きながらいつものルートを歩く。お届け物もしないといけないから今日は早く歩くべきか。途中から何か、、気配を感じたが、気にせず歩いた。
そして今気づいたことがある。
忘れ物をしてしまった。あんなに出ていく前に確認したのに。戻るにしても、今から戻ったら確実に保護者達にバレるだろう。前に釘を刺されたのにこの行動だ。
部屋がまた移行されるかもしれない。ということはその忘れ物は諦めるか、買わないといけない。
「この時間どこも空いてないでしょ、、。」
案の定その予想は当たり、近くのお店はほとんど閉まっていた。そりゃそうだ。まだ午前6時にもなっていないのだから
「お届け物は後に回すべきかなぁ、。今日は絶対届かないといけないけれど。仕方がないしね。」
独り言が多いからだろうか。周りの視線が何故か私に寄ってくる。そう言ってもあんまり人はいないんだけど。恐らく周りの視線の原因は、私の格好によるのもあるのだと思うのだけれど。もう気にならない。
「??」
また気配がした。誰かに見られているような感じだ。
誰かいるのだろうか。少し静かに歩いた。だが私以外の足音や何かの物音は聞こえなかった。
「気のせいだったのかな。」
気にせず歩く。もし誰かに付けられていたら、大体は予想が出来る。
家出の追手か、警察か、
まぁそんなところだろうか。
「今日は時間もあることだし、遠いけど隣町まで行こうかな。そしたら忘れたもの買えるかもしれないし。」
あの子の為に。
唯一私と仲良くしてくれた、あの子の為だけに。あの子だけが、私の光なのだ。いつも友達と呼べる友達がいなかった私の。その愛が偽物だとしても。
やがて歩いていると、交差点が見えてきた。信号が青になり、私は交差点を渡ろうとした。
そこで私の記憶は途切れようとしていた。簡単に言うと気絶、いや、死にそうになっていた。大きなトラックが、こちらに向かっていたのだ。
「死ぬの…?」
命の危機が迫っているのに、私は間抜けなことを小さい声で言った。いつもだったらそんなことは言わなかったと思う。
目覚めた時は、過去だった。椅子に座っていたようだ。状況を理解できないまま、携帯の電源を入れ、現在時刻を確認した。
「午前4時43分…」やはり時が少しだけ戻っている。だが何故?私が見たあの事故は、トラックは、夢だったのだろうか。あまりにリアルすぎた。到底夢とは思えない夢。私は事故に遭った夢を見た時、時が止まったように見えた。周りの人たちが急いで私を助けようとした。トラックが私を引こうとした。まるで絵のようだ。あの夢の中の出来事は、私の心の絵なのかもしれない。だけれどあの時感じた音、感覚、振動。明確に覚えることが出来ている。少し心臓が痛い。木の箸で刺されているような痛み。
「またあるくのか、、」
そして今、目の前には謎の少年がいる。いつの間にいたのだろうか。無駄に顔がいい。髪がサラサラストレートで、なんかウザそう。私の今の機嫌が悪いからウザそうと言うだけで、実際はそうじゃ無いとは思うのだが。身長と大人びた顔を見る限り、年上だろうか。
第一印象は性格が良い、でもウザいイケメン、と言うところだろうか。矛盾しているようだが、なんともそれ以外に言い表せない。
そして少年は私に微笑んだ。目が澄んだいて、偽りのない、異性からの初めての笑顔だった。そしてこう言った。
「おはよう。もう事故に遭わないようにね。おばーちゃん。」
は?何あの子。今私のことをおばーちゃんって言ったの!?あの子私より年上でしょ絶対!!
どういうことだろう。意味がわからない。不思議に心臓がバクバクと言っている。動きすぎて破裂しそうだ。苦しい。
「どういうこと?バカにしてんの?…あなたは誰なの?私をおばーちゃんなんて言うし、、、」
少年は答えず、街の奥に塗れて消えた。その少年が背を向ける時、私はひとつの絵画を観ているようだった。サラサラの髪、黒いパーカーに少し緩めのジーンズ。普通なら着太りするはずなのに、ユルユルで、スタイルも抜群なのが分かる。とても五月蝿い街を背に、謎のオーラが出ている綺麗な人間の男の子。一際目立って、きっとどこにいてもすぐに見つけられるような気がする。なぜか見惚れてしまった。目が離せなかった。彼が見えなくなった後も、心臓の動きは止まらなかった。とてもうるさい。病気にでもなったのだろうか。
ビルのガラスに自分の姿が映っている。とてもマヌケな顔だ。恥ずかしい。
「…またあの人に、会えたらいいな。」
きっともう会えない。
いくら探しても、絶対に見つからない。そんな気がする。
でも、会いたい。あの人に。これはきっと、恋などではない。ただ少し興味があるだけ。この私に素で笑いかけてくれる人なんて、今までにあの方だけだったから。初めて人に会いたいと思った。またあの笑顔を見てみたい。とりあえず今日はもう終わろう。
あの日から半年が経った。
私は今、事故に遭った、いや遭いそうになった場所へ来ている。私が会いたかった少年はいない。もしかしたら、もしかしたら会えるかもしれないから。私はあの日から、あの少年に会うために毎日ここへ通っている。
でも今日のようにずっとあの少年がいた事はない。あるのはうるさい街の声だけ。あと空を自由に飛ぶ鳥達。まるで私に諦めろと言っているように同じところをずっと飛んでいる。
あれから、あの日からずっと考えていた。あの日のあの事件は、果たして本当の事だったのか。はたまた夢の出来事だったのか。どちらでもあり得ない類の話だとは思うが、この2つしか選択肢がないのだ。他にあるのなら教えてほしい。まぁあるとしても信じられる内容ではないだろう。
未来から来た…とかかな?おばーちゃんとか私のことを呼びやがったし、もしかしたらあるかもしれない。
いや有り得ないけど、
でも未来から来たなんてどうやって来たかも計り知れないし、ただ私のことをからかってるだけかもしれない。
にしてもおばーちゃんはおかしい!好きな人に死にかけのババアって言われた時ぐらい腹が立つ!
興奮していたら心臓に痛みが走った。あの日から時々、キリキリとしたひどい痛みが心臓を襲う。医者に診てもらったが、特に異常は無かった。でも医者は心臓よりも、私の外見に気になっていたみたいだった。私の外見は相変わらずだった。なんなら髪が前よりバサバサしているような…
とにかく気持ち悪い髪だ。生まれつき髪質が悪いわけでは無いのだが。これではいつかパーマをかけたように見える。
だからあの少年は会ってくれないのだろうか。本当にどうしたらいいだろう。
第2章.親友の苦労
今、親友から話を聞いている。
「事故に遭ったけど違ってて、、それでなんかよくわからない美男子に助けてもらった?それで会いたいけど全く会えない?そしてそれが自分の容姿のせいだって思い込んでるの?
あんた何かの病気にでもなったの?」
私は道野奏。彩音と同じ中学2年生で、私は彩音の親友だ。
昔から常連の喫茶店で今、彩音から半年前の妄想を聞いている。ほんとに大丈夫だろうか。明らかにおかしい。まず、事故に遭ったけど違った件。遭ったのに違ったなんて、意味が分からない。
その上彩音は、少年に助けてもらったなんて言っている。助けてもらったんなら事故に遭ったんでしょ!この子どんな妄想してんのよ!
「てかなんで半年前の話をするの?その時言えばよかったのに、、」
彩音は別に、、、と言って再び黙り込んだ。
きっと疲れね。最近彩音は学校ちゃんと来てるし、テストでもいい点取ってた。きっと勉強のしすぎかなにかだろう。努力家の友達は疲れるってほんとなんだな。
「ね、あの、さ、、彩音って最近疲れてる、、?それともなにか悩んでて、それで現実逃避でもしてる、、?」
彩音は黙っている。
「もしよかったらなんか話、聞くよ、、?彩音最近頑張りすぎてるし、えと、、」
彩音は我慢できないという顔をしだして、怒り始めた。
「本当にあった事なの!!!そんなに頭ごなしに否定しないでよ!真面目に考えて!!奏ならちゃんと話聞いてくれると思ってたのに!」
あー、彩音、怒っちゃった。この子怒ると大変なんだんよねー、反省。
「ごめんて、だってほんとにありえないし、久しぶりに会えたかと思ってわくわくしてたらなんか、、んーと、、彩音ちょっと変わってるし」
「まぁね」
ほんとに彩音は変わった。半年前から。
今までずっとサボって来なかった学校に来るようになった。勉強も出来るし、運動も球技以外なら出来る。髪の毛はふわふわしていて、これはこれで可愛いと私は思う。まるで犬のトイプードルみたいだ。前会った時よりボサボサしてる気はするけど。でもその髪の毛のせいで会いたい人に会えないなんて、そんなわけないと思う。最近男子からの評判も悪くないし。
まぁ半年前に何かがあったっていうのは、確実に分かっていたけれど。まさか妄想話、、いや、本人曰くほんとの話をらしいけれど。
「んで?もっと詳しく話を聞く事って出来る?」
私だって人間だ。自分で言うのもなんだが、彩音の親友として、やれることはやりたい。
なにより、彩音が私にこうやって話してくることなんて初めてなので、私も興味があった。
「話したら私の会いたい人、探してくれる?」
私は頷いた。本心だ。確かに面白半分のところもあるけれど。
話を聞き終わった後の彩音は微笑んでいて、けれどどこか悲しげのあるような、そんな顔をした。
そして一部始終を聞いた。
少年についてまとめるとこうだ。
彩音を助けたらしい少年は、突然現れて突然消えた。
その少年はかなり美男子で、年上らしく何かオーラを放っている。
彩音を「おばーちゃん」と呼んだ。
そしてその少年の住んでいる場所や学校、バイト先は分からず、連絡先もない。そもそもバイトやってるかわかんないけど。
「彩音を助けた少年に関しては、勘で探すしかないね。連絡先も場所も分からないようじゃ、。」
「そうなんだよね。事故に遭った?って言うべきなのかな。その場所には毎日行ってるんだけど。」
すごい気持ちだ。人に会いたいがためだけに、毎日同じ場所に行くなんて。私には絶対無理だ。それか、それほどまでに彼に、少年に惹かれたか。
それかこの子が異常なだけだと思うけど。
「じゃあ、次は事故について詳しく話してくれる?」
事故についてはまとめるとこうだ。
学校をまたサボろうと家出したときにおこった。
青信号を渡ろうとした時に轢かれそうになった。
そしたら少しだけ時が戻って、少年が現れ、消えた…。
うまく掴めないし、焦点はここからずれている。学校をサボろうとするのは半年前まで当たり前だったから、家出するのは問題だが、ここはまだ今回の問題点ではない。問題はその次である。
青信号を渡ろうとして轢かれそうになったこと。基本的にこの世界は、そんなことが起こらないように出来ているはずだ。
もし歩道が青信号で、車道が赤信号の場合、車道にいる車やトラックなどの自動車は、強制的に止めさせられるはず。
理由は、車道の端から発せられている電波のせいである。この電波は不思議で、発せられている間人間などは問題なく動けるものの、機械は動かなくなる。
だから歩道が青信号の時に轢かれそうになることは絶対にないと言える。
そのため、ここから話の焦点は合わないと言えるだろう。
つまり、彩音はおかしい。
「ねぇ、彩音、歩道が青信号の時は、自動車は動かないはずでしょ?だから轢かれそうになったのってほんとなの?嘘じゃなくて?」
まず本当のことなら、大きいニュースになっているはずだ。電波を発する機械が壊れたとか、それが原因で事故が起きそうになったとか。
彩音は少し考えるような仕草をして、こう言った。
「ほんとだよ。」
にわかには信じ難いが、彼女は嘘を言っているようには見えなかった。
「気になることがあるんだけどさ」
「うん」
彼女は返事をする。そして私はこう言う。
「その、事故があったところに、連れてってくれない?」
もしこれで電波を出す装置が壊れていたら、電波は発信されず、自動車は信号が赤でも動けるはず。そしたら歩道が青でも轢かれるという可能性がある。
「うっ、」
彩音が心臓を掴んで苦しそうにしている。
彩音はなぜか、たまに苦しそうにして心臓の近くを撫でることがある。半年前から。この世界はショック障害になると、心臓がたまに痛くなるらしい。病院ではこのことは分からない。
だから、トラックに轢かれそうになった時のショックで心臓の痛みを感じるようになっていたなら、少し過去に戻って事故は無くなって、今彩音がここにいる事も頷ける。
電波の装置が壊れたせいで轢かれそうになってショック傷害になり、轢かれる直前に過去に戻る。そしてその記憶があるから、事故がありそうになったところを避ける。だから彩音が轢かれそうになることはない。
私がずっと信じられないと言っていた事故の事も、過去に戻ったという事も、これで辻褄が合うはずだ。
事故があった場所。いや、交差点の電波装置が壊れていたらの話だが。
そこの交差点には、すぐに行く事になった。
第3章.突然の連絡は
この間、やっぱり奏にあの事を話してよかった。最初こそは完全に否定というか、疑われたけれど。結局協力してくれることになった。ちなみに奏は私の唯一の親友…友達で、半年前の家出した日はちょうど彼女の誕生日だった。
奏に話した日、あの日は土曜日で奏の提案で一緒に交差点へ行った。彼女が言うには、電波装置が壊れていたら、車道が赤信号であっても自動車は動けるから、事故に遭いそうになって、過去に戻ったと言う私の話の信憑性が上がるらしい。
こうしてみると、まだ完全には信じてないようで、信じることから始まっただけだ。
まだまだ、あの少年に会えるまでの道のりは長そうである。
「ふぁあああぁあああああああ」
私は家の中で奇声を上げた。家の中には今日も私ひとり。やることがないのだ。
厳密にはやれることがない。と言った方が正しいだろうか。何をしようかな。
テテン。携帯の通知音が音部屋中に響く。
一通のメールが届いていた。
『あやねちゃんへ
今何してる〜?最近は元気?よくやれてる?パパとママは、彩音ちゃんが言っていた通り仲直りするから、もう少し待っててね。
少し大変なんだ。
ママは少し自由で一緒に住んでいた時大変だっただろう?たしかママが遊びに行くときの晩御飯は無いときもあったらしいじゃないか。
それでママが彩音を置いて行ったり、彩音の事を考えてないと思ってパパは少し怒っちゃったんだ。
大事なママと離れさせてごめんね。大丈夫。きっとまた会えるさ。
そうそう、ところで今は10月であとだいたい2ヶ月で冬休みだろう?来年からは3年生で、あんまり遊べなくなるから、旅行を計画してるんだ。どこがいいかな?決まったらメールで送ってください。
勉強とか色々頑張ってね。
パパより』
所々口調がおかしくなったり、ずっとあやねちゃんと書いてあるところを見ると、やはり私は中学2年にもなって子供扱いされているのか。てかパパからメール来たのいつぶり?
前回のメールは約3ヶ月前だった。一般的な娘と親のメールのやり取りなんて、こんな頻度なんだろうか。まぁ連絡を取り合ってる人が父親、つまり男で、私が抵抗感を持っていたりするからかも知れないけど。パパはそういうことに敏感だ。そんな事よりも気になることがあった。
「旅行か。」
家族内での旅行という言葉が出てきたのは、4年前に聞いて以降だった。4年前は丁度、私がこちらの地域に引っ越してきた時の事だった。
知らないところで不安だろうと、保護者たちは私のために工夫して散歩などにも誘ってくれたことがあったっけ。旅行はその時、パパが気分転換に行くという目的で、行ったものだった。
こう見ると私って、結構贅沢してたんだな。
いや、私に贅沢をさせたかったんだろうか。それはともかく普通に今回の旅行は楽しみである。場所を自由に決めていい、という事はプランも自由に決めて良いのだろうか。4年ぶりの旅行は実に、充実しそうだ。
もしかしたら、何か出会いもするかもしれない。
そんな期待を寄せて、私は数々の旅行地を調べた。
第4章.親の視点
昨日、娘にメールを送った。私からの、3ヶ月ぶりの今送れる精一杯のメッセージ。
ずっと何年も会えず、あの子は私を嫌っているだろう。
私はあの時、あの子が辛かった時に何もすることが出来なかった。父親なのに。あの子は可哀想な子だ。今も、今までも、そしてきっとここからも。夢も何もない。何年も会ってないから分からないが、内向的な性格はそのままだろう。見た目は本当に可愛い。愛らしい僕の娘。
それなのにも関わらず、今までからかってきたり、馬鹿にしてくるやつが何人いただろう。会社の人間に娘を見せると、何故か笑われる。私はこの、娘を否定してくる会社のやつが嫌いだ。大嫌いだ。そして会社のやつ以外にも、娘を傷つける人間は嫌いだ。そして私はこんな自分が嫌いだ。すべて、私のせいで苦しませてるから。いろんな人間たちを。娘を
いっそあの子のことが嫌いだったらよかったのに。そしたら会社の人も、娘を傷つける人間も、嫌いにならずに済んだし、今まで以上に良い友好関係を築けていただほうに。
私は父親として、何が出来るのか。どういう風にあの子に、娘に、彩音に接するべきなのか。
あの子が小さい頃から、私はあの子に構ってあげられなかった。仕事が忙しかったためだった。朝の6時に家を出て夜の11時まで仕事をして12時帰る。だから休日以外は家族と会う事はなかった。
そんな私のことを妻は呆れたと言った。
「仕事を言い訳にして、私にも娘にも会わないなんて、どうかしてる。」
私は当時、言い返すことも出来なかった。仕事が忙しかったのは事実。だが、会う時間もほとんど無く、家族のために何も出来なかった事も本当の事だったからだ。
ある日、私と妻は大喧嘩をした。妻は私の頭にガラス製のコップや硬い物をひたすらに投げつけたり、首を絞めたりした。私は妻に傷をつけたりはしたくなかった。だけど分からせないといけない。私は暴力は振るわず、言葉を妻に投げつけた。その時娘は恐怖を感じたのか、泣きながら幼稚園の先生を呼んできた。そこから警察まで広がった。大事になってしまった。
それから私達は別居という形で離れることになった。娘は全く会わなかった不孝者の父親よりも、母親を選んだ。
それから妻は、娘を放って夜、遊びに行くようになった。娘の晩御飯は作らず、テーブルに百円を置いて毎日遊びに行く。私は最初、その事を知らなかった。その事を知ったのは、月に一度だけある娘との面会の時だったから。
事を娘から聞いた時、私は怒りでどうにかなりそうだった。目の前のコップを強く置き、私は妻を悲観した。あれほど娘を大事にしないなどと言っていたくせに、大事にしなかったのはあの子の母親の方だったのだ。悲しい以外の言葉で出てくるのは、すべて呆れた言葉だった。
目の前にいるこの子は、母親からその扱いを受けた時、どのように感じたのだろうか。その扱いを受け続けて、母親のことをどう思っているのか。
もう別居どころではなく、離婚するべきではないか。そしてこの子を私が引き取るべきではないか。そう思った。
それから私達は離婚した。しかし、別居の間使っていた部屋は狭かったりして子供を養う基準に満たさないと、親権は母親の方に行ってしまった。
しばらく経ち、元妻は男を連れ込むようになった。それから妻は娘のそばにいることが多くなったが、その男は元妻がいない場所で娘に暴力を振るった。娘は見えないところに傷やアザが出来た。頭皮、服の下、足。いろんなところに、いろんな傷つけ方をされていた。
妻は娘のその異変に気づいていたが、聞こうとはしなかったそうだ。それは娘がよく転ぶと言っていたからだった。男にやられた可能性も考えたらしいが、表面では娘に優しくしている彼を見て、男がやったとは思えなかった。だからすぐ近くにいる男がやったなんて、分かるはずなかった。その虐待はエスカレートし、娘が通っている学校の先生もおかしく思うようになった。日に日に、元気が無くなって、足のアザなども目立って、よく見えるようになっていた為だそうだ。
それから、誰がしてくれたのかは分からないが虐待という名目で警察に通報された。娘は保護された。私はそれを聞いて、警察に土下座して娘を引き取った。
私が言えるのは、話すことが出来るのはここまでだ。
今から、娘がいる実家へと行こうと思う。
第4章:これからは
私は、どうすればいいんだろう。どうして生きているんだろう。
ずっと孤独で、こんな場所にいて。悲しみも何も分からないのに、なんで。
「うぅ…」
胸が締め付けられるように痛む。最近は特に酷い。両目から涙が出てくる。溢れて止まらない。でもこれは悲しみと呼ぶには、辛すぎるだろう。
大丈夫。そう言い聞かせる。私は、よくできる。演技も今まで、順調だった。そう。あの日、私は、愛甲彩音はトラックに轢かれた。
別の世界の私は、助かったようだったみたいだけど。正確には入れ替わった私というべきかもしれない。あの少年は、私の危機を読み取ったのだろう。
私には何かの能力がある。あの時入れ替わった私は、そんなこと知らなかっただろうけど、あの子も私も、その能力がある。
時間の能力とは。それはまだ詳しく解明されていない。だが私が経験してきた限りだと、違う世界の私と入れ替わったり、時間を読むことが出来たりできる事は分かった。あと、未来予知の能力だ。これに関してはまだあまりわかっていない。ただ何か悪い事が起こる直前などに、具合が悪くなったり、いろんな人物の未来の姿を見ることができたり、便利な能力だ。だからあの少年が私の何かだと即座に理解する事が出来た。その何かは分からないが。だがその能力は危機に直面しないと発生しない。発生した時のことを覚醒という。
私はトラックに轢かれる時に覚醒した。だがそのまま轢かれて、今私がいる病院に運ばれた。別の世界の助かった私は、きっと助けられたはずだ。あの少年に。私は助けられなかったが。そこでなぜ、私を助けなかったのかと疑問が生まれる。普通、どこの世界も起きていることはほとんど同じだ。ただほんの少しだけズレが生じる事があるが、それ以外の世界が変わる大きい事は、よっぽどのことがない限り変わらないはずだ。そして一つ仮定が生まれる。あの少年は世界を駆けている存在だと。
根拠はある。
本当だったら、別の世界の私とこの世界の私は、機械の故障によりトラックに轢かれるはずだった。これは世界が変わる大きい事だ。機械の故障による自動車事故。ここの近くの世界ではほぼ絶対に起こる事のないことだからだ。
現に私がいるこの世界では私がトラックに轢かれた事で全国的に大きなニュースになっている。きっとこれから事はもっと大きくなり、この世界の方針は変わるだろう。
だからトラックから逃れられるのはここからよっぽど遠い世界であるはず。
だが私が助けられた世界はここの世界ととても近く、変わってる事なんてほとんどない。
つまり?
「?」
頭がこんがらがってきた。まとめようか。
私はトラックに轢かれた。世界はここ以外に沢山あり、ここの世界に近ければ近いほど同じことが起きる。逆に遠ければ遠いほど、こことは違うことが起きる。
簡単に言うと、学校の教室のように世界はまとめられているということだ。教室は沢山あるが、すべて同じ人間がいる。ここら辺の世界では学校と同じように同じ食べ物、行事が行われる。だから基本的にほぼ全ての世界は同じである。
だが、ここと近いはずの世界では私は助かってしまった。しかもここの世界で、分からないうちに一瞬だけ入れ替わった。
そしてその時に能力が覚醒した。
現れた少年は恐らくどの世界とも照らし合われて1人で、助けられた世界の私を助けた。そうでないと私の世界に現れなかった理由がない。彼は何か隠している。
「…!」
また胸が痛くなる。最近は頭が酷くなってきた上、頻繁に起こるようになった。原因は不明。ショック障害と言われているが、何かの代償である可能性が高い。
そう、能力を得た代償。
その代償はきっと私を蝕み殺す。だから私は死ぬ前に後悔しない生き方をする。
例の彼と事故からは助かった私を結ばせる事。そしてその”私”の能力を封印すること。つまり助ける事。
それが私の今の目標となる。実際、この能力はそんな事までできるようなモノではないが。
違う私はどうなんだろうか。すでに代償を払って能力を覚醒させてしまっているだろうか。
そして私は純白のベッドで寝る。
現在時刻午前4時。今日私は早く起きた。
隣で誰かは心配そうな顔で見ていた。
誰なのか分かって私は咄嗟に笑顔を創った。いや、笑顔を創造した。
第5章:代償
事故の日から大体1年が経った。私はあの日、一度しか見ていないにも関わらず少年のコトヲ考えてイル。
ナんでだロうか。キット会エる。そう信ジテいたノにな。
私ハ助かっタ。今だに何故タスカッタノか不明でアる。
「ア、あ、あ、」
私はいつしかカタコトで喋るようになっていた。これについても原因は不明。ずっと変わらず同じ生活をしていたはず。そして私はおばあちゃんに聞いた。全ての元凶は、変化はなんなのか。そして言っていた。答えはここにある。とね。
それから私は親の用事で病院に行くことになった。友達のお見舞いに行くそうだ。私は少し周りを見ることにした。
現在時刻午前4時。私は女の子を見ている。
彼女は唸り声をあげ少し苦しそうに寝ていた。私と似ている雰囲気がある子だった。容姿は全く違った。黒髪ロングの美人。私と違ったタイプで、ザ・清楚系だ。だが私と似ているが似ていない彼女に少し惹かれた。興味が出た。
じろじろ変態のようにずっと見ていた。
そうして彼女が起き上がった。私は彼女の顔を改めて覗き込んだ。やはり思った通りの美人である。でもどこか苦しそうで、でも私を見てなぜか焦った顔をして、目を逸らして、笑顔になった。
心配そうな顔をしていたのか、じろじろ見ていたせいなのか彼女は私の目を見て
「どうかした?」
その一言だけ言われた。
引き攣った笑顔で。
その笑顔は見覚えがあるようだった。絶対に、勘違いではない。
そして私は言う。
「悪夢を見たの?」
「違うよ」
今度はさっきよりも顔が緩んだ笑顔だった。思った。あぁ、私はこの方を知っているのかもしれません。私の直感はそうだと叫んでいる。
彼女の事がまだ気になったが、その後その子はいなかった。トイレから帰ってきたら、誰もいなかったかのようにベッドは空っぽだった。
彼女もあの例の少年のような存在なのだろうか。その瞬間に
ズキ、心臓にそんな痛みが走った。
最近は前よりもっと頻繁に起こっている。
脈も普段から上がるようになった。医者にまた診てもらっても原因不明。ここまで痛みを感じていると言っても原因不明というのは珍しいケースの為、診断結果が出ないのはおかしい。ほんとに痛みがあると言っても信じてもらえない。挙げ句の果て仮病と疑われる始末。