学校には診断書をもらった翌日、母と一緒に伝えに行った。

保健室にもお世話になるかもしれないと思い畑中先生にも。



すると畑中先生は自分も昔、同じ症状を患ったことがあると話してくれた。


その日から常に私を気にかけてくれている。

先生からはたくさんの有り難い言葉をかけてもらい、中でも 

「狩野さんが負担じゃなければ、1日のどこかで先生に顔を見せに来てくれない?」

そう言われた時は涙が頬を伝った。

『学校へ来ていいよ』と言われてるみたいで。 

失声症と診断されてから、私が学校へ来ると皆に迷惑がかかるんじゃないか。そんなことを考えていたからだ。


それから私は毎日、昼食を食べ終えたら保健室へと顔を出すようになった。

いつも少しだけ会話をして教室へと戻る。

休んでる生徒がいない時も決して長居はしない。それがマイルール。

他にも保健室を必要としている人の邪魔にならないために。


今日も軽い世間話を終えて帰ろうとした時だった。

背後からギィィと音を立て開くドア。

それとほぼ同時に聞こえてきた「せんせー」という低い声。


振り向くと一人の男子生徒が肘をテッシュで押さえながら入って来た。

(見たことない顔。同じ赤のネクタイだから同級生だよね……?)


そして、私の方をじっと見つめると「先客?」そう尋ねてくる。


私は瞬時に首を横へと振った。

声を出さなくても答えられる質問だったことに、ほっと胸を撫で下ろす。