─数ヶ月後─
「あ、狩野ちゃんこっち!」
《ごめん、織田くん。待った?》
「全然!今来たとこ。お父さんとご飯やったんやろ?俺との約束は別の日でも良かったのに」
《大丈夫。お父さんも仕事に向かったから》
織田くんと付き合い始めたあと、私は声が出なくなった日のこと、それから両親との関係を話した。
付き合っていく上で、私が織田くんに知っててほしい。そう思ったからだ。
そしたら織田くんは、
「狩野ちゃんが今でもお父さんのことが大好きなんやったら、そのまま今の気持ちを伝えたらいいんちゃう?後悔してるならなおさら」と優しい口調で背中を押してくれた。
その後、両親に自分の想いを伝えた私。
元通りとはいかないが、今では三人で食事に行く日もある。
最近は声を出すための練習も順調で、先生にハミングが上手くなったと褒められた。
また話せる日もそう遠くないはず──。
《私、織田くんと出会って世界が変わったの。自分のことが好きになれた》
私がスマホに打ちこんだ文章を見て、織田くんは「大げさちゃう?」と言って笑う。
《大げさじゃないよ!》
「えー、ほんま?」
保健室を出ても変わらない笑顔がそこにはあった───。
fin.