「ん?何してるん」
背を向ける私に対して、織田くんが言葉を投げかける。
私は返事の代わりに、ピンと伸ばした左腕を見せた。
たった今、書き終わったばかりの言葉。
《私も織田くんのことが好き》
伝えたいことは他にもたくさんあった。
だけど、今私が一番伝えたい言葉はこれだ。
数メートル先、織田くんはその言葉を確認すると
「狩野ちゃん大胆すぎん?それ、油性マジックやで」と言って笑う。
(あ…………)
「それって、俺とおんなじ好きやと捉えていいん?」
織田くんの言葉に強く頷く。
「返事は今度で良いって言うたのに。でも、ありがとう。……これからは保健室以外でも狩野ちゃんの隣におってもええ?」
私は両手で大きな丸を作ると、織田くんの隣へと移動した。
すると、織田くんの右手が私の左手に触れる。
そして、自然と指を絡ませた。
「え、メモとペンがなかった?俺筆記用具とノート持ってたのに」
保健室へと向かう途中、私がメモとペンを持っていなかったことをジェスチャーで伝えると織田くんはそう口にした。
(あっ、そっか。どうして気づかなかったんだろう)
「まぁ、でもおかげで?こんな熱い告白してもらえたもんな」
織田くんの視線の先には私の左腕。
「あーあ、消すん大変や。いいん?」
私はその言葉に何度も頷く。
(そんなの気にならないよ)
「じゃあ、俺が一生責任取らなあかんな」
織田くんはそう言うと再び私の手を取った。
油性マジックだといっても、一生は残らない。
そんなこと織田くんだってわかっているはずだ。
でも、その言葉に私は笑顔を返した──。