A棟に来るまでの間、織田くんとはすれ違わなかった。

帰るならこっちの道を通るはずだから、まだ教室にいるはず。

1組の教室に到着し、後ろのドアから中を覗くと織田くんとミヤくん、それから幸太郎くんの三人が残っていた。



織田くんは私と目が合うと「えっ、狩野ちゃん!?」と口にして勢いよく席を立つ。

「あ、俺こんなとこでゆっくりしてる場合じゃなかった。リアタイしたいテレビあんだよ」

ミヤくんは私にも聞こえるような声でそう言うと鞄を手に取った。

続けて幸太郎くんも「俺も約束あるんだった」と言い席を立つ。

二人は「またな」と織田くんに伝えると私に何やらアイコンタクトして、教室から出て行った。


(も、もしかしてわざと二人きりにしてくれたの……?)


二人の気遣いに感謝しつつ、私は織田くんの元へと歩み寄る。

「ど、どうしたん?」

明らかに動揺している織田くんに私は自分の気持ちを伝えようとする。

……が、ポケットに入っているはずのメモとペンがない。


(あれ?あ、そういえばベッドの上に置いてきたような……)


スマホが入った鞄も保健室。

つまり、私は今自分の想いを伝える術がない。

何か方法はないかと探していると黒板が目に入った。

(そうだ!チョークを使って黒板に書けばいいんだ)


そう思って黒板の前へと移動するが、チョークはゼロ。

欠片さえもない。

1組どうなってるの!?


「狩野ちゃん?」

教室をウロウロする私を見て織田くんは不思議そうな顔をする。

(早く次の手を考えないと!)

そう思って後ろを振り返るとロッカーの上にプラスチック製の落とし物ボックスが置いてあった。

そこには消しゴムとマジックが一本。

(あれなら……)

私はそのボックスからマジックを手に取ると自分の左腕にペンを走らせた。