「薬も飲んだから大丈夫よ。もう少し寝かせてあげたいんだけど、先生今から職員会議があるの。織田くんを一人で残していくのは心配だから、狩野さんが……」

畑中先生が話す途中、私はペンを走らせた。


《先生が戻ってくるまで、私が代わりにここにいます》


「あら、そう?ありがとう。じゃあ、織田くんのこと任せたわね」


畑中先生はそう言うと、職員室へと向かった。


私はソファに腰を下ろして、織田くんが目を覚ますのを待つ。


(保健室ってこんなに静かだったっけ)

織田くんや畑中先生といるときは気づかなかった。

ただ座って待つのも退屈で、読みかけの小説を手に取る。

だけど、数ページ読んだところで手を止めた。


(だめだ。全く頭に入らない)

次に課題のプリントを取り出して空欄を埋めていく。

これも同じく数分で手を止める。

教科書をめくる音と、シャーペンを走らせる音が思ったよりも大きかったからだ。

結局、私は何もせずただ織田くんを待つことにした。

そこから数十分。

グラウンドから聞こえてきたのはランニングを始めた野球部の声。

窓際へと移動し、その様子を伺っていると視界の隅でカーテンが揺れた。

そして、シャーと音を立て開いたカーテンの隙間から織田くんが顔を出す。

「先生……って狩野ちゃん?」

本来、保健室にいるはずの畑中先生は不在。

代わりに私がいたことに、織田くんは驚いたような表情を見せる。

私はメモを取り出すと、ここに私がいる理由、それから畑中先生がいない理由を書いた。


《ミヤくん達から織田くんが保健室にいるって聞いて来た。畑中先生は職員会議でその間、私がここを任されたの》

《体調は大丈夫?》