「狩野ちゃんおはよー!」

保健室に到着すると、織田くんはいつもと同じように声をかけてくれる。

それだけで、泣きたくなるぐらい嬉しい。

そっか私、不安だったんだ。

いつもと違う織田くんを見て。

急に遠い人のように感じて。


そんな私に織田くんは、

「そういえば狩野ちゃん、さっき1組の前通った?」と口にした。


(……き、気づいてたんだ)


《うん。パソコン室に向かう途中だったから一瞬だけど》

「一瞬でも気づくって。前に言うたやん。俺は狩野ちゃんやったらどこにおっても見つけられるって」

それってあの場のノリで出た言葉じゃなかったんだ。

《織田くん友達と話してたから気づいてないと思ってた》

「俺が気づいた時にはもう通り過ぎる時やってん。手振ってくれたら良かったのに」

織田くんは続けて「保健室以外で会う機会なんて滅多にないからもったいないやん」そう口にした。

手を振っても良かったんだ。


自分からアクションを起こすことなんてこれっぽっちも考えなかった。

それどころか、織田くんの方から気づいてくれないかな。そんな甘い考えを持っていた。


《今度、織田くんを見かけたら手を振ってもいい?》

「当たり前やん。俺も狩野ちゃん見かけたら全力で手振るから、無視せんとってな」


織田くんの言葉で心の霧が、スッキリと晴れていく。

遠い人だなんて勝手に決めつけて、落ち込んでいた自分がバカみたいだ。


《無視なんかしないよ》

「約束やで?あ、そういえば俺今日ミヤ達と学食やってんけど、狩野ちゃんって学食のお好み焼き食べたことある?」

《学食、行ったことがない。お好み焼きもあるの?》


「珍しいよな?今度いっ……機会があったら食べてみて」

《わかった!教えてくれてありがとう》


「なんかお好み焼きの話してたら、無性にソース味のもんが恋しなってきた」

織田くんはそう言いながらソファに飴を並べる。


私は今日もそこから2つの飴を貰った。