織田くんへの気持ちに気づいてから1週間。
保健室での時間は今まで以上に大切なものになった。
「乙葉ー!次、パソコン室に移動だって」
3限の終わり、里菜ちゃんが筆記用具を持って廊下を指差す。
私はコクリと頷くと里菜ちゃんと一緒に教室を出た。
(パソコン室って確か1組のあるA棟だ)
「ねぇ、どうせなら1組の前通っていこうよ」
《え……?》
「顔、見れたらラッキーじゃない?」
数日前、『やっぱり私の気持ちは恋だった』と伝えた私に里菜ちゃんは「応援するよ」と優しい言葉をかけてくれた。
だけど、そんな里菜ちゃんに私は気持ちを伝えることはしないと宣言。
それは、今の関係を壊したくないから。
私が告白なんかしたら、もう織田くんとのかけがえのない時間は終わってしまうかもしれない。
そんな後ろ向きな思いに里菜ちゃんは、「乙葉の気持ちが一番大切だよ」と言ってくれた。
ただ、
「見るのはありでしょ?」
応援するという姿勢に変化はないらしい。
《見るだけなら……》
「よし、決まり!行こう」
本当は私もパソコン室がA棟にあると気づいた時、真っ先に織田くんの顔を思い浮かべた。
でも、私一人だったら知らない人が多い教室の前をわざわざ通る。なんて選択はしなかっただろう。
私が一歩踏み出せたのは、隣に里菜ちゃんがいるから。
「なんだか嬉しそうだね、乙葉。そんなに織田に会えるのが嬉しい?」
その問いかけに首を横へと振った。
(違うよ。これは里菜ちゃんが友達で私は幸せだっていう笑顔)
……って、そんなの伝わらないよね。
感謝の気持ちは今度改めて手紙にしよう。