畑中先生は「狩野さんのことが気になってるんじゃない?」なんて言うけれど、それは違うと思う。

確かに、もう織田くんがここへ興味本位で来ているとは思わない。

この数週間で織田くんが優しくて、人を好きなのがよくわかった。


そんな優しい彼は、きっと私を放っておけないのだろう。

「乙葉おかえり〜。……って、今日もアイツ来たの?えっーとなんだっけ?織田?」

教室へ戻ると机の上に置いてあった飴を見て里菜ちゃんがそう口にした。


私はその問いかけに頷く。


「毎日来てるんでしょ?迷惑なら私から言おうか?」

里菜ちゃんはお姉ちゃんのようで、時々お母さんのようだ。

里菜ちゃんや畑中先生、それから織田くん。

私の周りには優しい人がたくさんいて、すごく恵まれた環境にいるんだなと思う。


《ありがとう。でも、大丈夫だよ。それに、織田くんと話してると楽しいの》

里菜ちゃんはメモに書いてある文章を読み終えると、そっと私に耳打ちした。

「もしかして織田のこと好きになったとか?」

思いもよらぬ言葉に一瞬、思考が停止する。

好き……?


私が織田くんのことを……。


その言葉を聞いて脳裏に浮かんだのは、いつも楽しそうに話す織田くんの笑顔。

私はそれをかき消すかのように、ブンブンと首を横に振った。


「あれっ違うの?」

《違うよ!》

今度は紙に書いて見せる。

織田くんとの時間が楽しい。

それは事実で、私はいつの間にかその時間を楽しみにしている。

だけど、これは恋ではない。

織田くんもきっと同じ思いだろう。