6時にレストランの予約を入れた。それまで時間があるので未希は自分の部屋を整理すると戻って行った。

6時少し前に未希の部屋に寄って一緒に出掛けた。電車で二駅だ。レストランは最後に来た時と全く変わっていなかった。そして最後に座った同じ席に案内された。

料理が運ばれてくる。

未希はもう21歳になっているのでワインを注文して乾杯した。本当は乾杯なんてこんな状況ではできないはずだが、二人とも乾杯したかった。それほど二人は再会が嬉しかったのだと思う。

「自立はいいけど、これからどうする?」

「すぐに離婚します」

「離婚届はどうする。彼は納得して署名してくれるのか?」

「分かりません」

「以前もこういうことがあって、別れると言うともうしないと言ってくれましたが、変わりませんでした」

「もう諦めた?」

「決めましたから」

「次の週末にでも俺が行って話をつけて来てやろうか?」

「また、彼と会うと同じ事を繰り返すので、できればお願いします」

「未希の荷物も引き取らなければならないしね」

「家具などはどうでもいいですが、持って来たいものはあります」

「少し考えさせてくれ。仕事上、弁護士さんとも付き合いがあるから、それとなく、離婚手続きについて聞いてみてあげる。しばらくは未希から彼に連絡を取らない方が良い」

「携帯に留守電やメールが入っていますが、無視しています。いずれ携帯も変えようと思っています」

「仕事はどうする?」

「今のホテルは辞めようと思います。もう、事務には辞めると言ってあります。彼が同じホテルに勤めていますので、もう行きません」

「どうして彼と結婚したのか、それとなぜこういうことになったのか、良ければ聞かせてくれないか?」

未希は話してくれた。未希と夫の山本真一は勤め先のホテルで知り合った。彼は未希の7年先輩でグループのチーフだったので、入ったばかりの未希を指導してくれた。

彼は素直な未希が気に入ったみたいで、熱心に料理を教えてくれたと言う。未希は当然ながら彼を信頼し尊敬するようになっていった。

そのうちに個人的な付き合いが始まり、年末には身体の関係にまで進んで結婚することになったと言う。

未希は独身寮から彼が借りたアパートに引っ越した。結婚して二人の生活が始まったが、ホテルの仕事はシフト制で早番遅番があり、すれ違いの多い生活が続き、お互いに疲れて来て不満を持つようになっていったようだ。

彼は元々ギャンブル好きで遊び人あったし、未希のいないことで酒を飲むことも多くなっていったようだ。未希が疲れて帰って、家事ができないと切れて暴力を振ったという。

未希もはじめは自分が悪いと思っていたが、度重なるとそれに耐えられなくなり、家出を何回かしたようだった。

そのたびに彼が探して謝って連れ戻していた。それを聞いて、きっと彼にはまだ未希に未練があると思った。

「未希の話は分かった。俺は結婚したことはないが、夫婦って互いの短所を認めて補い助け合って生きていかなければならないと思っている。彼だけが悪い訳ではないと思う。未希も至らない点があったのだと思う」

未希は頷いていた。

「私はおじさんとしか生活したことがなかったから、どうしてよいか分からなかった。おじさんは優しくて、私が学校やアルバイトで疲れて家事ができなくても代わりにしてくれたし、何も言わなかった」

「未希が可愛かったから、大事にしたんだ。寝る時以外はね」

「私は男の人は皆そうだと思っていたから、彼が怒るのがなぜだか分からなかった」

「こうなったのは俺にも責任があるということか? だが、こうなったからにはもう元に戻してはやれない。残念だけど別れるしかないだろう」

「私はもう無理だと思っていますから、別れる手伝いをしてください」

「未希、仕事はどうするんだ?」

「明日から仕事を探します。ハローワークへ行って」

「そうか、いい仕事が見つかるといいな。お金は大丈夫か?」

「1か月くらいは大丈夫だと思います」

「そうか、困ったら相談してくれ。お金を貸してあげるから。今度は身体で返せ! なんて言わないから、きちんと借用書を書いてもらって、必ず返してもらうよ」

「ありがとう、困ったらそうさせてください」

二人で楽しく食べるつもりだったが、深刻な話に終始した。今の未希の状況が気になって仕方がなかったからだ。未希も自分だけで悩んでいないで話を聞いてもらってほっとしただろう。

食事を終えて、二人で手を繋いで歩いてアパートまで帰ってきた。

未希を自分のものにしてしまいたい思いが募るが、今はそれをしてはいけないことは良く分かっている。

未希を3階の部屋まで送ってから自分の部屋に戻った。