あの散骨の日以来、俺は未希を抱けなくなった。つまり性的不能に陥った。両親の祟りかとも思ったが、そんなことがあるはずがない。未希が口で試みてくれたがだめだった、

相手が変わるとできるかも知れないと風俗店にも行ってみた。でもやはりだめだった。女の身体を見ると未希を思い出してしまう。そうなるともう駄目だった。今までに欲望のすべてを、一生分を未希に吐き出してしまったからかとも思う。

「ありがとう。でもだめなんだ。あの散骨の日から」

「このままだと私は身体で返せません」

「できなくても、腕の中でおとなしく抱かれていろ」

語気を荒めてしまった。自分でもいらいらしているのが分かる。

「いいんだ。しばらくはこうして抱かれていることで返してもらえばいい」

「分かった。それでいいなら」

俺はそう言って未希を安心させたかった。未希は俺の腕に抱かれて眠った。未希の身体は温かく、俺の沈み込んだ心を温めてくれている。

今まで未希には同居させることを条件に俺の欲望をぶつけてきた。未希は同居させてもらいたい一心でそれを受け止めていた。もっと優しくできたはずだったし、優しくしてやれたはずだった。それが欲望に負けてできなかった。それでも未希は俺を必死で受け止めてくれていた。

こうして未希をただ抱いているだけでも心が安らかになる。仕事に疲れていても心地よく眠れる。俺の心を癒してくれている。

未希はどんな気持ちで獣のような俺を受け入れていたのだろう。聞いてみたいが聞くのが怖い。未希をこのまま手元に置いておきたい。俺には出した金を身体で返してもらうと言うしか思いつかない。

でも未希はいつか俺の元を去っていくだろう。その時のことを思うと、母親を失った未希の父親の気持ちが痛いほど分かる。

「未希はどうして俺にやりたい放題されても同居しているんだ?」

「おじさんは約束を守ってくれるから」

「約束?」

「私を自由にする代わりに同居させてくれている」

「それは当たり前だ。約束は守る」

「食事代もきちんとくれたし、残ったお金も私にくれた。着るものも買ってくれた。学校まで行かせてくれた」

「そんなの当然だ、同居させるとは面倒も見るということだ」

「だから安心して一緒に住める。私にはもうどこへも行くところがないから」

「俺は未希の弱みに付け込んで未希をおもちゃにした」

「それは約束だから」

「もっといい条件を出すと言う男がいたら、その男と同居するか?」

「分からない」

「このままここにいるのか?」

「身体でお金を返さなければならないから」

「こうして俺に抱かれて眠ることも身体で返していると思っていい」

「それなら気が楽です」

「借りを返し終えたら、ここをでていくのか?」

「分かりません」

ずっとここにいてくれとは言えなかった。その代わり俺は未希を抱き締めた。未希も抱き付いて来た。これでいいんだ。未希も今はこのままでと思いたかったのだろう。