銀行へ行った帰り道に洒落たイタリアレストランがあった。Openは6時と書いてあった。まだ3時を少し過ぎたばかりだが、未希に自立できたお祝いにここで夕食をごちそうしてやろうと言うと嬉しそうに頷いていた。店の電話番号を携帯に入れておいた。
ゆっくり歩いてアパートに着くともう4時になっていた。レストランに電話して料理の値段を聞いた。ディナー一人3000円というので、6時に2名予約した。未希が来てから二人での外食はマックを除けばしなかった。二人でゆっくり食事がしたい、今日はそういう気分だった。電車にのって洗足池の2駅向こうの雪谷大塚で降りた。
「今日は自立のお祝いだ。遠慮するな」
「ありがとう」
「礼はいらない。これで心おきなく未希を抱けるから」
小さな声で話す。幸い店にほかの客はいないし窓際の席だ。でも声を落として話をする。
「家出した訳は大体未希の父親から想像できるが、学校はどうして行かなくなったんだ?」
丁度、料理が運ばれて来た。食べながら話をする。
「行けなくなって、止めました」
「いつ止めた?」
「今年の7月ごろから」
「3年生になってからか?」
「4月にお母さんが急死したんです。疲れが溜まっていたんだと思います」
「今年亡くなったのは聞いたが」
「働いているところで倒れて救急車で運ばれたけどだめでした」
「収入がなくなった?」
「お母さんが一生懸命に働いて私を高校へ行かせてくれていました。お父さんは定職につかず仕事をいつも変わっていましたから」
「そんな感じだったな」
「お葬式をして暫くしたら、段々お金が無くなってきたみたいで、毎日の生活費が無くて、私はコンビニでアルバイトを始めました。それでなんとか食べることぐらいはできていました」
「それで」
「11月のお給料日にお父さんがお金を無理やり取り上げて遊びに行ってしまいました。それで」
「それで家出をした?」
未希は頷いたが、泣いていた。
「そういう事情だったのか。未希も苦労しているなあ。あんな親父さんと離れてよかったな」
「私にはどうすることもできませんでした」
「まあ、俺は未希との約束を果たしているだけだから、それより今日はお祝いだ。食べよう」
折角の飯がまずくなる。余計なことを聞いてしまった。未希も気を取りなおしたのか、料理をおいしそうに食べている。それを見ていると、未希がこちらを見て目があった。未希はニコッと笑った。笑った顔を初めて見た。
「学校のこと、差し出がましいようだけど、元の学校の先生に相談したらどうかな?」
「うーん、石田先生なら相談にのってくれるかもしれないけど」
「石田先生って?」
「私の2年生の時の担任で、3年生の時も担任になった」
「俺も付いて行ってやるから、一度会って相談してみたらいい。俺にはどうしたらいいか知恵がない」
「ずっと、行っていないから、相談にのってくれるか分からないけど」
「それなら、俺が頼んでやる。学校名は?」
「都立大田高校です」
「明日、会社から電話して都合を聞いてあげる」
未希は頷いた。可愛い子と外で食事をするのはいいもんだ。こんなことは今まで数えるほどだった。
俺も学生時代から金で苦労して来た。女の子と付き合うのは金がかかるから、付き合いもほどほどにしていた。それより、女が欲しくなれば手っ取り早く金を払えばすむところはいくらでもあった。これまでそうしてきた。
俺も歳をとったのかなと思う。こうして未希の安らかな寝顔を見ていると心が休まる。未希を離したくない。いつまでもそばに置いておきたい。だから、50万円の大金を払った。そして未希には身体で返せと言った。そういう言い方しか思い浮かばなかった。俺はずるい?
水曜日、会社に着くとすぐに未希の高校へ電話をかける。美崎未希の保護者だと言うと石田先生と話しができた。石田先生は女の先生だった。
未希の学業のことで相談にのってもらいたいと言うと、二人で来てくれとのことだった。年内ならば、25日(月)の午後4時なら1時間くらい時間が取れると言われたのでお願いした。
俺はなぜ未希のことがこんなに気になるのだろう。こんなおせっかいなことまでした。まあ、乗りかかった船だ。でもこれは未希を手元においておくこととは関係ない余分なことだ。俺はこのごろ未希のこととなると少し変だ。
8時過ぎにアパートに帰った。未希はテレビを見ていた。
「食事は済んだのか?」
「うん、おじさんは?」
「これから食べるところだ。お湯を沸かしてくれないか?」
「いいよ」
「石田先生と連絡が付いた。25日月曜日の午後4時に会って相談にのってくれるそうだ。行くだろう? 俺から後でオーナーに電話で理由を話して、来週の月曜日の3時以降は休ませてもらえるように頼んでやろう」
「分かった。一緒に行ってくれるの?」
「俺が付いて行って聞いてやるから、その方がいい」
「ありがとう」
「それから、大事なことだから言っておくが、俺と未希には身体の関係はないことにしておく。そういうことにしておかないと面倒なことになるから、いいね」
「分かっている。そんなことになったら私も困る」
ゆっくり歩いてアパートに着くともう4時になっていた。レストランに電話して料理の値段を聞いた。ディナー一人3000円というので、6時に2名予約した。未希が来てから二人での外食はマックを除けばしなかった。二人でゆっくり食事がしたい、今日はそういう気分だった。電車にのって洗足池の2駅向こうの雪谷大塚で降りた。
「今日は自立のお祝いだ。遠慮するな」
「ありがとう」
「礼はいらない。これで心おきなく未希を抱けるから」
小さな声で話す。幸い店にほかの客はいないし窓際の席だ。でも声を落として話をする。
「家出した訳は大体未希の父親から想像できるが、学校はどうして行かなくなったんだ?」
丁度、料理が運ばれて来た。食べながら話をする。
「行けなくなって、止めました」
「いつ止めた?」
「今年の7月ごろから」
「3年生になってからか?」
「4月にお母さんが急死したんです。疲れが溜まっていたんだと思います」
「今年亡くなったのは聞いたが」
「働いているところで倒れて救急車で運ばれたけどだめでした」
「収入がなくなった?」
「お母さんが一生懸命に働いて私を高校へ行かせてくれていました。お父さんは定職につかず仕事をいつも変わっていましたから」
「そんな感じだったな」
「お葬式をして暫くしたら、段々お金が無くなってきたみたいで、毎日の生活費が無くて、私はコンビニでアルバイトを始めました。それでなんとか食べることぐらいはできていました」
「それで」
「11月のお給料日にお父さんがお金を無理やり取り上げて遊びに行ってしまいました。それで」
「それで家出をした?」
未希は頷いたが、泣いていた。
「そういう事情だったのか。未希も苦労しているなあ。あんな親父さんと離れてよかったな」
「私にはどうすることもできませんでした」
「まあ、俺は未希との約束を果たしているだけだから、それより今日はお祝いだ。食べよう」
折角の飯がまずくなる。余計なことを聞いてしまった。未希も気を取りなおしたのか、料理をおいしそうに食べている。それを見ていると、未希がこちらを見て目があった。未希はニコッと笑った。笑った顔を初めて見た。
「学校のこと、差し出がましいようだけど、元の学校の先生に相談したらどうかな?」
「うーん、石田先生なら相談にのってくれるかもしれないけど」
「石田先生って?」
「私の2年生の時の担任で、3年生の時も担任になった」
「俺も付いて行ってやるから、一度会って相談してみたらいい。俺にはどうしたらいいか知恵がない」
「ずっと、行っていないから、相談にのってくれるか分からないけど」
「それなら、俺が頼んでやる。学校名は?」
「都立大田高校です」
「明日、会社から電話して都合を聞いてあげる」
未希は頷いた。可愛い子と外で食事をするのはいいもんだ。こんなことは今まで数えるほどだった。
俺も学生時代から金で苦労して来た。女の子と付き合うのは金がかかるから、付き合いもほどほどにしていた。それより、女が欲しくなれば手っ取り早く金を払えばすむところはいくらでもあった。これまでそうしてきた。
俺も歳をとったのかなと思う。こうして未希の安らかな寝顔を見ていると心が休まる。未希を離したくない。いつまでもそばに置いておきたい。だから、50万円の大金を払った。そして未希には身体で返せと言った。そういう言い方しか思い浮かばなかった。俺はずるい?
水曜日、会社に着くとすぐに未希の高校へ電話をかける。美崎未希の保護者だと言うと石田先生と話しができた。石田先生は女の先生だった。
未希の学業のことで相談にのってもらいたいと言うと、二人で来てくれとのことだった。年内ならば、25日(月)の午後4時なら1時間くらい時間が取れると言われたのでお願いした。
俺はなぜ未希のことがこんなに気になるのだろう。こんなおせっかいなことまでした。まあ、乗りかかった船だ。でもこれは未希を手元においておくこととは関係ない余分なことだ。俺はこのごろ未希のこととなると少し変だ。
8時過ぎにアパートに帰った。未希はテレビを見ていた。
「食事は済んだのか?」
「うん、おじさんは?」
「これから食べるところだ。お湯を沸かしてくれないか?」
「いいよ」
「石田先生と連絡が付いた。25日月曜日の午後4時に会って相談にのってくれるそうだ。行くだろう? 俺から後でオーナーに電話で理由を話して、来週の月曜日の3時以降は休ませてもらえるように頼んでやろう」
「分かった。一緒に行ってくれるの?」
「俺が付いて行って聞いてやるから、その方がいい」
「ありがとう」
「それから、大事なことだから言っておくが、俺と未希には身体の関係はないことにしておく。そういうことにしておかないと面倒なことになるから、いいね」
「分かっている。そんなことになったら私も困る」