次の土曜日は東京の案内方々、二人で渋谷まで買い物に出かけた。久恵ちゃんには身の回りの小物や洋服、それに化粧品などを買ってあげることにした。
スクランブル交差点ではあまりの人多さに驚いていた。若い娘向けのショップが多くあるビルに入る。
さすがにここは僕にとっては場違いに思える。娘と父親のショッピングは今時ないと思うし、顔も似ていないので、二人連れだって歩くとどうみても援助交際にしか見えないと思う。
久恵ちゃんが店を見て回るのを少し距離を取って歩いている。店に入っても店の外で待っている。
気に入ったのが見つかったので見てくれと呼びに来た。あれほど呼んではダメと言っておいたのに、僕を「パパ」と呼んだ。それで店員さんからじっと見られた。きっと援助交際のスポンサーと見られたに違いない。
それは白い長袖の薄手のワンピースだった。これからの季節には丁度いい。実際に着てみた方がよいので、店員さんに断って試着させてもらうことになった。しばらくして久恵ちゃんが着替えて出てきた。
とてもよく似合っていたのでOKのサインを出す。久恵ちゃんは小柄だけど色白で白がとてもよく似合う。ただ、足元が気になった。
「靴が合っていないね。せっかくのワンピースが映えない。靴も買ったらどうかな」
「私は靴には無頓着でこのほかにも歩きやすいので気に入っているのが5足ありますから、帰ったら合わせてみます。大丈夫です」
「そういわないで、靴は何足あってもいいから」
そう説得して靴も買うことにした。久恵ちゃんはヒールが高めの白いシューズを選んだ。
久恵ちゃんは小柄だから僕と並ぶと僕の肩までしかない。これを履くと幾分背が高いように感じる。せっかくだから足慣らしのためにもそのまま履いて帰ることにした。
それから、僕のためにシャツを一緒に見てくれた。僕は昔から目立つのが嫌いで、着るものも地味な色やデザインのものがほとんどだった。久恵ちゃんから見ると実際よりも老けて見えるのがいやだったみたい。
「私と一緒に歩くときはもっと若い人が着ているようなものを着てくれないと恥ずかしい」と言って、僕からすると随分派手な色使いのシャツを選んでくれた。当ててみるとそんなに悪くない。
それからズボンも合わせて選んでくれたが、確かに似合っている気がする。それに随分若く見える。確かに久恵ちゃんと一緒に歩くときは若作りしたい気持ちはある。言われるままに買うことにした。
それから、久恵ちゃんに化粧品を数点買ってあげた。売り場の女性に適当なものを選んでもらった。久恵ちゃんは説明を熱心に聞いていた。
久恵ちゃんは薄化粧で、よく見ると化粧しているのが分かる程度だ。若い子は肌がきれいだから薄化粧がいい。母親がそうだったから自然と薄化粧になったとか。母親の娘への影響は大きいようだ。
買い物がひととおり済むと、会社の同じ部の女性に聞いておいた表参道のヘアサロンへ案内した。
久恵ちゃんの髪は肩まである。いつもはそれをポニーテイルにして後ろで束ねている。出かけるときはそれをほどいて肩まで垂らしている。来た時に髪はどうしているのか聞いたら、自分で適当にカットしていると言っていた。
「好きな髪形にしてもらうといいよ」
「思い切ってショートにしてみたいです。学校へ行ったら髪が長いと調理するときに何かと不都合だと思っています」
「そうだね、それがいい。ショートの久恵ちゃんも見てみたい」
離れたところのソファーでカットされているのを見ている。慣れた手つきでどんどんカットが進む。見る見るうちに髪型が整っていく。
久恵ちゃんは小顔で目鼻立ちがはっきりしているのでショートが似合うと思ったが、そのとおり、可愛くて活発に見える。さすがに表参道のヘアサロンはセンスがいい。
「少しは綺麗になった?」
「とってもチャーミングだ」
本当はどきっとするほど綺麗になったので見とれた。こんなに可愛いものが手の中にあることに改めて気が付いた。とても嬉しい。父親の気持ち? いや恋人の気持ちだと思う。
◆ ◆ ◆
「こんなに買ってもらってありがとう」と帰りの電車の中で久恵ちゃんから新ためてお礼を言われた。
「久恵ちゃんは『プリティ・ウーマン』という映画見たことある?」
「テレビで見たわ」
「コールガールが若きやり手の実業家の富豪と知り合い、妻になるというシンデレラストーリー。大ヒットしたけど、あの映画は男の目線で作った男のロマンを描いたもの。素質のある女性を自分好みの理想の女性に育てるという。女性に人気があったけど、男性が見ても共感できる。ジュリア・ロバーツが素晴らしい変身を見せていた。映画に出てくるホテルの支配人が今のおじさんだ。おじさんも久恵ちゃんをもっと素敵な女性に育てたい、素敵な男性が見つかるように」
「ありがとう、期待に沿えるか分からないけど」
久恵ちゃんの答えはすこしそっけなかった。
沿線はもう桜が満開に近く咲いている。
「桜がきれいだね」
「お花見がしたい」
「じゃあ、明日、近くの洗足池公園へお花見に行こう。あそこは桜の名所だ」
「朝の天気予報では明日は朝から雨と言っていたと思うけど」
すぐにスマホで天気予報を調べると確かに明日は朝から雨模様となっていた。
「明日、雨が降ると桜が散ってしまうね。来週まではもたないし」
「諦めます」
「それなら今晩、夜桜見物にいかないか?」
「夜桜見物?」
「あそこは夜桜見物もできる。昔、近くの独身寮にいた時に行ったことがあるから」
「夜桜見物に行きましょう」
マンションに戻ると一休み。久恵ちゃんは買ってきたものを部屋で片付けていた。それから駅前で買ってきたお弁当を二人で食べた。
久恵ちゃんは手っ取り早くお味噌汁を作ってくれた。このお味噌汁がとてもうまい。出汁から作ったという。お替りをした。腹ごしらえは完了した。
スクランブル交差点ではあまりの人多さに驚いていた。若い娘向けのショップが多くあるビルに入る。
さすがにここは僕にとっては場違いに思える。娘と父親のショッピングは今時ないと思うし、顔も似ていないので、二人連れだって歩くとどうみても援助交際にしか見えないと思う。
久恵ちゃんが店を見て回るのを少し距離を取って歩いている。店に入っても店の外で待っている。
気に入ったのが見つかったので見てくれと呼びに来た。あれほど呼んではダメと言っておいたのに、僕を「パパ」と呼んだ。それで店員さんからじっと見られた。きっと援助交際のスポンサーと見られたに違いない。
それは白い長袖の薄手のワンピースだった。これからの季節には丁度いい。実際に着てみた方がよいので、店員さんに断って試着させてもらうことになった。しばらくして久恵ちゃんが着替えて出てきた。
とてもよく似合っていたのでOKのサインを出す。久恵ちゃんは小柄だけど色白で白がとてもよく似合う。ただ、足元が気になった。
「靴が合っていないね。せっかくのワンピースが映えない。靴も買ったらどうかな」
「私は靴には無頓着でこのほかにも歩きやすいので気に入っているのが5足ありますから、帰ったら合わせてみます。大丈夫です」
「そういわないで、靴は何足あってもいいから」
そう説得して靴も買うことにした。久恵ちゃんはヒールが高めの白いシューズを選んだ。
久恵ちゃんは小柄だから僕と並ぶと僕の肩までしかない。これを履くと幾分背が高いように感じる。せっかくだから足慣らしのためにもそのまま履いて帰ることにした。
それから、僕のためにシャツを一緒に見てくれた。僕は昔から目立つのが嫌いで、着るものも地味な色やデザインのものがほとんどだった。久恵ちゃんから見ると実際よりも老けて見えるのがいやだったみたい。
「私と一緒に歩くときはもっと若い人が着ているようなものを着てくれないと恥ずかしい」と言って、僕からすると随分派手な色使いのシャツを選んでくれた。当ててみるとそんなに悪くない。
それからズボンも合わせて選んでくれたが、確かに似合っている気がする。それに随分若く見える。確かに久恵ちゃんと一緒に歩くときは若作りしたい気持ちはある。言われるままに買うことにした。
それから、久恵ちゃんに化粧品を数点買ってあげた。売り場の女性に適当なものを選んでもらった。久恵ちゃんは説明を熱心に聞いていた。
久恵ちゃんは薄化粧で、よく見ると化粧しているのが分かる程度だ。若い子は肌がきれいだから薄化粧がいい。母親がそうだったから自然と薄化粧になったとか。母親の娘への影響は大きいようだ。
買い物がひととおり済むと、会社の同じ部の女性に聞いておいた表参道のヘアサロンへ案内した。
久恵ちゃんの髪は肩まである。いつもはそれをポニーテイルにして後ろで束ねている。出かけるときはそれをほどいて肩まで垂らしている。来た時に髪はどうしているのか聞いたら、自分で適当にカットしていると言っていた。
「好きな髪形にしてもらうといいよ」
「思い切ってショートにしてみたいです。学校へ行ったら髪が長いと調理するときに何かと不都合だと思っています」
「そうだね、それがいい。ショートの久恵ちゃんも見てみたい」
離れたところのソファーでカットされているのを見ている。慣れた手つきでどんどんカットが進む。見る見るうちに髪型が整っていく。
久恵ちゃんは小顔で目鼻立ちがはっきりしているのでショートが似合うと思ったが、そのとおり、可愛くて活発に見える。さすがに表参道のヘアサロンはセンスがいい。
「少しは綺麗になった?」
「とってもチャーミングだ」
本当はどきっとするほど綺麗になったので見とれた。こんなに可愛いものが手の中にあることに改めて気が付いた。とても嬉しい。父親の気持ち? いや恋人の気持ちだと思う。
◆ ◆ ◆
「こんなに買ってもらってありがとう」と帰りの電車の中で久恵ちゃんから新ためてお礼を言われた。
「久恵ちゃんは『プリティ・ウーマン』という映画見たことある?」
「テレビで見たわ」
「コールガールが若きやり手の実業家の富豪と知り合い、妻になるというシンデレラストーリー。大ヒットしたけど、あの映画は男の目線で作った男のロマンを描いたもの。素質のある女性を自分好みの理想の女性に育てるという。女性に人気があったけど、男性が見ても共感できる。ジュリア・ロバーツが素晴らしい変身を見せていた。映画に出てくるホテルの支配人が今のおじさんだ。おじさんも久恵ちゃんをもっと素敵な女性に育てたい、素敵な男性が見つかるように」
「ありがとう、期待に沿えるか分からないけど」
久恵ちゃんの答えはすこしそっけなかった。
沿線はもう桜が満開に近く咲いている。
「桜がきれいだね」
「お花見がしたい」
「じゃあ、明日、近くの洗足池公園へお花見に行こう。あそこは桜の名所だ」
「朝の天気予報では明日は朝から雨と言っていたと思うけど」
すぐにスマホで天気予報を調べると確かに明日は朝から雨模様となっていた。
「明日、雨が降ると桜が散ってしまうね。来週まではもたないし」
「諦めます」
「それなら今晩、夜桜見物にいかないか?」
「夜桜見物?」
「あそこは夜桜見物もできる。昔、近くの独身寮にいた時に行ったことがあるから」
「夜桜見物に行きましょう」
マンションに戻ると一休み。久恵ちゃんは買ってきたものを部屋で片付けていた。それから駅前で買ってきたお弁当を二人で食べた。
久恵ちゃんは手っ取り早くお味噌汁を作ってくれた。このお味噌汁がとてもうまい。出汁から作ったという。お替りをした。腹ごしらえは完了した。