後輩の春野君はいつもの2次会ではあのこと以外にも面白いことをいろいろ教えてくれた。僕の口が堅いことを知っているからか、元々同じような趣味感覚を持っていると思ったからかもしれない。
たまたまHビデオの話になったときに、購入サイトや購入方法を教えてくれた。春野君はネットで購入して時々気分転換に見ていると言っていた。
教えられたサイトを見て試しに購入手続きをしたら、翌日にはマンションの郵便箱に配達されていた。恥ずかしい思いをして買いに行く必要がない。ネットの普及で随分便利な世の中になったものだと感心した。
僕も春野君と同じでこういうことが嫌いな方ではないので、そうこうしているうちに蔵書でなく蔵DVDが30点ほどになっている。
一人暮らしの時は、誰もマンションに訪ねてこないので本棚に並べてあったが、さすがに今は久恵ちゃんと同居していることもあり、目につかないようにクローゼットの中の棚に後ろ向きに並べてある。例え久恵ちゃんがクローゼットを開いても一見それとは分からないはずだ。
時々目が冴えて眠れないときに、取り出してきて自室のテレビで見ている。夜遅くだから音には特に注意している。ただ、突然、大きな呻き声が出ることがある。
久恵ちゃんが自分の部屋にいる場合は、まずそれでも聞こえないと思うけど、廊下にいると聞こえるかもしれない。
現に、夜中に見ていた時のこと、久恵ちゃんがトイレに出てきたようだった。まさか部屋から出てくるとは思っていなかったので油断していた。
呻き声を聞きつけて「大丈夫?」とドアをノックされた。そして呻き声を心配してのぞいてくれたのだと思う。
すぐにビデオのスイッチを切った。画面が黒く切り替わったのと同時にドアを開けられた。部屋の明かりは元々落としてあったので、布団をかぶって寝たふりをした。
声をかけて僕を起こして、何事もなかったのを確認して、ドアを閉めた。まさか、Hビデオをみていたなんて言える訳もない。そんなことを言ったら嫌われて口を利いてもらえなくなるかもしれない。
その日はそのまま眠ってしまった。次の朝、すぐに取り出してクローゼットの奥に片付けた。しばらくは封印しよう。
◆ ◆ ◆
次の週の半ばに同期会の飲み会の予定が入った。朝、久恵ちゃんには同期会で帰りが遅くなるから食事は不要で、2次会まで行くから帰り時間は11時を過ぎるかもしれないと伝えておいた。
ところが2次会を希望する人が少なかったので、2次会が取りやめになった。もうこの歳になると家族持ちがほとんどで、皆早く家へ帰りたいようだった。
9時ごろ、マンションのエレベーターを降りて廊下を歩いていくと僕の部屋に明かりがついていた。朝、明かりは消したはずだ。玄関のドアを開けると同時に、久恵ちゃんが慌てて僕の部屋から出てきた。
「おかえりなさい。洗濯物を片付けていました」
「ただいま、2次会が中止になったから帰ってきた」
「そうですか、酔いを醒ましてからお風呂に入った方がいいですよ」
「分かった」
僕は自分の部屋に入った。久恵ちゃんの匂いが部屋いっぱいに漂っている。僕はこの匂いに特に敏感だ。部屋で何をしていたんだろう。洗濯ものを片付けていただけではないと思った。残り香が多すぎる。でも机の上は朝、出かけた時のままだった。まあ、いいか。お風呂に入ろう。
今日のお風呂は久恵ちゃんの後だった。いつも彼女は必ず僕の後に入る。どうしてかと聞いたら、兄貴と暮らしているときもいつもお風呂はパパの後にママと一緒に入っていたと言っていた。それを聞いて古風な母娘だと感心したのを覚えている。
ちょっとぬるめだが、飲んだ後は心地よい。それも久恵ちゃんの入った後かと思うと、肌がすべすべになるような気がする。ああ、中年のおじさんはこれだからいやだと言われそう。上機嫌でお風呂から上がった。
「今日はゆっくりでしたね。私の入った後だから、ぬるかったでしょう。ごめんさない」
「い、いや、ゆっくり入れてよかった」
何か後ろめたいことをした後のように、突然声をかけられて驚いた。急いで自室に戻った。
一息ついたあと、ニュースを見ようとテレビのスイッチを入れた。画面がビデオの画面になっていた。あれ! そうだったのか! ピンときた。僕のHビデオを見ていたのかもしれない。
DVDレコーダーの中を確認するが、何も入っていなかった。ただ、クローゼットの中がお風呂に入る前に着替えを出した時とは違っているような気がした。お風呂に入っているうちに片付けた? でもテレビの切り替えを忘れている。
すぐにテレビを消した。画面もそのままにしておいた。気が付かなかったことにしよう。久恵ちゃんを恥ずかしがらせることは絶対にしたくない。
久恵ちゃんは僕がHビデオを持っていることには一切触れてこなかったし、まして非難もしなかった。彼女も僕を恥ずかしがらせることはしなかった。これはお互いに知らないことにしておくに限る。
それにしても、久恵ちゃんがHビデオをどんな様子で見ていたのだろう。今夜は目が冴えて眠れそうもない。
◆ ◆ ◆
次の日、帰宅してから、そっと自分の部屋のテレビを点けたら、ビデオの画面ではなくなっていて、すぐに番組が映った。推理が当たっていたことを確信した。
それが分かってからは帰るときはメールを入れるようにしている。特に帰り時間が予定よりも早くなる時には必ずメールを入れる。久恵ちゃんも帰るときにはメールを入れてと言っている。
とはいうものの、どんなものを見ているか父親代わりの保護者としては知っておく必要がある。これは決して興味本位ではない。父親代わりの義務だと自分に言い聞かせる。
思うに久恵ちゃんには男性経験はないと思う。直感的にそう思っている。だとしたら、映像を見て経験しておいた方が後々のためには良いだろうと思った。興味本位で変な男と関わり合いを持ってほしくないからだ。
30巻の中にはソフトなものから非常に過激なものまでいろんなタイプのものがそろっている。どれを見たか分かるようにディスクに一定の傾きをつけてケースにしまっておいた。
予定どおり帰りが遅くなった時にはHビデオの状況を確認した。見た痕跡があった日もなかった日もあった。ただ、だんだん過激なものが見られている。
実際に経験してみたいなどとは思わないでほしい。それが心配の種だ。世の父親って皆そうだろう。
たまたまHビデオの話になったときに、購入サイトや購入方法を教えてくれた。春野君はネットで購入して時々気分転換に見ていると言っていた。
教えられたサイトを見て試しに購入手続きをしたら、翌日にはマンションの郵便箱に配達されていた。恥ずかしい思いをして買いに行く必要がない。ネットの普及で随分便利な世の中になったものだと感心した。
僕も春野君と同じでこういうことが嫌いな方ではないので、そうこうしているうちに蔵書でなく蔵DVDが30点ほどになっている。
一人暮らしの時は、誰もマンションに訪ねてこないので本棚に並べてあったが、さすがに今は久恵ちゃんと同居していることもあり、目につかないようにクローゼットの中の棚に後ろ向きに並べてある。例え久恵ちゃんがクローゼットを開いても一見それとは分からないはずだ。
時々目が冴えて眠れないときに、取り出してきて自室のテレビで見ている。夜遅くだから音には特に注意している。ただ、突然、大きな呻き声が出ることがある。
久恵ちゃんが自分の部屋にいる場合は、まずそれでも聞こえないと思うけど、廊下にいると聞こえるかもしれない。
現に、夜中に見ていた時のこと、久恵ちゃんがトイレに出てきたようだった。まさか部屋から出てくるとは思っていなかったので油断していた。
呻き声を聞きつけて「大丈夫?」とドアをノックされた。そして呻き声を心配してのぞいてくれたのだと思う。
すぐにビデオのスイッチを切った。画面が黒く切り替わったのと同時にドアを開けられた。部屋の明かりは元々落としてあったので、布団をかぶって寝たふりをした。
声をかけて僕を起こして、何事もなかったのを確認して、ドアを閉めた。まさか、Hビデオをみていたなんて言える訳もない。そんなことを言ったら嫌われて口を利いてもらえなくなるかもしれない。
その日はそのまま眠ってしまった。次の朝、すぐに取り出してクローゼットの奥に片付けた。しばらくは封印しよう。
◆ ◆ ◆
次の週の半ばに同期会の飲み会の予定が入った。朝、久恵ちゃんには同期会で帰りが遅くなるから食事は不要で、2次会まで行くから帰り時間は11時を過ぎるかもしれないと伝えておいた。
ところが2次会を希望する人が少なかったので、2次会が取りやめになった。もうこの歳になると家族持ちがほとんどで、皆早く家へ帰りたいようだった。
9時ごろ、マンションのエレベーターを降りて廊下を歩いていくと僕の部屋に明かりがついていた。朝、明かりは消したはずだ。玄関のドアを開けると同時に、久恵ちゃんが慌てて僕の部屋から出てきた。
「おかえりなさい。洗濯物を片付けていました」
「ただいま、2次会が中止になったから帰ってきた」
「そうですか、酔いを醒ましてからお風呂に入った方がいいですよ」
「分かった」
僕は自分の部屋に入った。久恵ちゃんの匂いが部屋いっぱいに漂っている。僕はこの匂いに特に敏感だ。部屋で何をしていたんだろう。洗濯ものを片付けていただけではないと思った。残り香が多すぎる。でも机の上は朝、出かけた時のままだった。まあ、いいか。お風呂に入ろう。
今日のお風呂は久恵ちゃんの後だった。いつも彼女は必ず僕の後に入る。どうしてかと聞いたら、兄貴と暮らしているときもいつもお風呂はパパの後にママと一緒に入っていたと言っていた。それを聞いて古風な母娘だと感心したのを覚えている。
ちょっとぬるめだが、飲んだ後は心地よい。それも久恵ちゃんの入った後かと思うと、肌がすべすべになるような気がする。ああ、中年のおじさんはこれだからいやだと言われそう。上機嫌でお風呂から上がった。
「今日はゆっくりでしたね。私の入った後だから、ぬるかったでしょう。ごめんさない」
「い、いや、ゆっくり入れてよかった」
何か後ろめたいことをした後のように、突然声をかけられて驚いた。急いで自室に戻った。
一息ついたあと、ニュースを見ようとテレビのスイッチを入れた。画面がビデオの画面になっていた。あれ! そうだったのか! ピンときた。僕のHビデオを見ていたのかもしれない。
DVDレコーダーの中を確認するが、何も入っていなかった。ただ、クローゼットの中がお風呂に入る前に着替えを出した時とは違っているような気がした。お風呂に入っているうちに片付けた? でもテレビの切り替えを忘れている。
すぐにテレビを消した。画面もそのままにしておいた。気が付かなかったことにしよう。久恵ちゃんを恥ずかしがらせることは絶対にしたくない。
久恵ちゃんは僕がHビデオを持っていることには一切触れてこなかったし、まして非難もしなかった。彼女も僕を恥ずかしがらせることはしなかった。これはお互いに知らないことにしておくに限る。
それにしても、久恵ちゃんがHビデオをどんな様子で見ていたのだろう。今夜は目が冴えて眠れそうもない。
◆ ◆ ◆
次の日、帰宅してから、そっと自分の部屋のテレビを点けたら、ビデオの画面ではなくなっていて、すぐに番組が映った。推理が当たっていたことを確信した。
それが分かってからは帰るときはメールを入れるようにしている。特に帰り時間が予定よりも早くなる時には必ずメールを入れる。久恵ちゃんも帰るときにはメールを入れてと言っている。
とはいうものの、どんなものを見ているか父親代わりの保護者としては知っておく必要がある。これは決して興味本位ではない。父親代わりの義務だと自分に言い聞かせる。
思うに久恵ちゃんには男性経験はないと思う。直感的にそう思っている。だとしたら、映像を見て経験しておいた方が後々のためには良いだろうと思った。興味本位で変な男と関わり合いを持ってほしくないからだ。
30巻の中にはソフトなものから非常に過激なものまでいろんなタイプのものがそろっている。どれを見たか分かるようにディスクに一定の傾きをつけてケースにしまっておいた。
予定どおり帰りが遅くなった時にはHビデオの状況を確認した。見た痕跡があった日もなかった日もあった。ただ、だんだん過激なものが見られている。
実際に経験してみたいなどとは思わないでほしい。それが心配の種だ。世の父親って皆そうだろう。