ある日のこと、私はいつもと同じように教室で友達と話をしていたんだ。話題はやっぱり恋バナだった。彼氏が欲しいとか好きな人はいるのかとかそういう話をしたと思う。まあ私も思春期の女の子だからね、そういうことにも興味があるわけですよ。
そんな話をしてると誰かが話しかけてきたんだよね。誰だったっけ?顔は知ってるんだけど名前が思い出せない人なんだけど、とにかく私に声をかけてきたわけね。その人は私の前の席に座るとこう言ったんだ。「なあ、ちょっといいか?」って。それで何の用かと聞くとこんな話をしてきたんだ。それはこんな話だった。「このゲームをクリアした奴はどんな願いも叶えてもらえるらしい」って。もちろん最初は信じなかったよ。そんなゲームなんてあるわけないって笑い飛ばした。そしたらその人、「本当だぞ!」って言うもんだからますます面白くなって笑っちゃったんだよね。
その後で詳しく話を聞いたらなんでもこのゲームにはいくつかの種類があるらしくて、その中の一つであるゲームをクリアすればなんでも願いを叶えてくれるっていう噂を聞いたんだって。
それがさっきのやつだよ。「ゲノムウォーズ0(ゼロ)〜始まりの場所へ〜」ってやつだね。聞いたところによると恋愛シミュレーションとRPGが合わさったようなもので、プレイヤーはとある施設に囚われたヒロイン達を助けて脱出を目指す……という流れらしい。それで、ここからが重要なことなんだけど。
どうやらそれをクリアしてしまえば何でも願いを一つだけ叶えられる権利が得られるみたい。例えば億万長者になりたいだとか、死んだ人を生き返らせてほしいだとか、そんな感じのやつ。ただし条件はいくつかあるみたいだけど、詳しくは教えてくれなかったんだってさ。でもそれを聞いただけでやる気が出てきたから早速始めようかと思った矢先にこんなことになっちゃったんだよねぇ……
突然、教室に入ってきた男の人がいたのね。見た目はどこにでもいそうな普通の人だったかな。ただ、手に物騒なものを持ってたけど。その男は教室に入ってくるなり叫んだのよ。「全員動くな!!」って言って、拳銃を突きつけてきたの。そして私達に向けて言ったわ。「お前らにはこれからゲームをしてもらう」って。意味が分からないでしょう?だから私達はこう聞いたんだ。「どういうこと?ここはどこ?」って。そしたらあの男、「そんなことはどうでもいい!今から説明するから黙って聞いてろ!」なんて言ってきてさぁ。もう頭にきたよね。だって何も知らないままこんなところに連れてこられて説明しろって言われても無理でしょ?なのにあの野郎ときたら何も教えてくれないどころかさっさと始めるように促してきてさー。仕方ないので言われた通りにすることにしたよ。どうせ逃げられないしここで反抗しても殺されるだけだしね。そういうわけで仕方なく従うことにしたの。そうしたら男は嬉しそうに笑いながら話し始めたわ。まず最初に言われたことは……えっと、そうそう、確かこんなことを言ってたっけ。
「これから皆さんにはデス・ゲームに参加してもらいます」
そう言ってたはず。デス・ゲームだなんて随分物騒だよねー、と思ったよ私。しかも参加してくださいって言った割に参加を強制している感じだったから余計に腹が立ったけどまぁとりあえず話を聞いてみようということで黙っていたよ。
すると男は続けてこんなことを言ってきたの。「これからあなた達には様々なゲームを行ってもらいます。その内容は全て皆様に選んでいただきますが、どのゲームの難易度が高いか、どのゲームの内容が難しいかというのはあらかじめこちらで決めさせていただきます」だってさ。なるほど、どうやら拒否権はないみたいだ。そう思った私は黙って話を聞いていたんだけど、次に男が言った言葉で驚かされたよ。何故なら男がこんなことを言い出したからね。「なおこのゲームに失敗した場合に限り、ペナルティを受けていただくことになります」ってね。流石にこれには驚いたよ。なにせ失敗する度にペナルティが与えられるなんて言われたら誰だって警戒するでしょう?だけど男はそれを承知で言っているみたいだった。まるで失敗したところで大したことではないと言わんばかりに淡々と話す男に恐怖を感じつつも話を聞くことに徹したんだよね。それで続きを聞いてみたんだけど、その内容はこうだったんだ。
失敗の条件は以下の通りです。1つは死亡することで、2つ目はクリアできなかったことです。
つまりゲームオーバーになった場合はその時点で即失格となります。しかしご安心ください。もし途中で死亡したとしてもペナルティを受けることなく何度でも再チャレンジが可能となっております。そして見事、最後まで生き残れば、ご褒美として賞金100万円を差し上げますので頑張ってくださいね。
さて、ここまでが前置きになります。ここからは本題に入りますが、その前に注意事項がありますのでよくお聞きになってください。
それでは一つ目の条件について説明をいたします。
先程お伝えした通り、ゲームを失敗してしまった場合にはペナルティが与えられます。ですがそれは非常に簡単なものなので安心してください。内容は「一定時間の気絶状態に陥る」
というものですのですぐに治まります。とはいえ、痛みを伴うのでその点についてはお気をつけ下さいませ。では次に移ります。
続いて二つ目の条件なのですが、こちらは先程のよりももっと簡単です。こちらに関してはペナルティなどありません。というのも皆さまが既に知っている情報でありますので改めて確認する必要もないでしょうから、省かせていただきました。要するに簡単に言えば次のようになるわけですね。
「一人になるまで終わらない鬼ごっこを行う」
これです。これでわかりましたか?そうです、皆さんは既に知っている内容ですよね?でしたらわざわざ聞く必要もありませんよね?というわけで説明はこのくらいにしておきますね。それでは最後に三つ目と四つ目の条件をお話しますね。最後の二つの条件は非常に簡単ですね。どちらも生き残るために必要なことでもありますので、ぜひ覚えておいてください。
一つ目、このゲームにおいて脱落者が出ることはありません。なぜならこの空間は現実世界とは異なる世界であるからです。その証拠に、窓の外を見てみれば一目瞭然なのではないのでしょうか?そう、この世界は夜になっているはずですが、何故か昼間のように明るくなっていますよ。これは現実ではなく別の世界であるという証明にもなるでしょう。それにもう一つ根拠となる証拠もあるんですよ。こちらをご覧ください。
そういって男が指差したのは窓だった。外を見てみろということらしい。なのでみんなで一緒に窓際に寄ってみると、信じられない光景を目にすることになった。そこにはなんと、大きな満月が見えたのだ。さらに驚くべきはその大きさだった。明らかに地球の大きさを超えていることがわかるくらい大きかったのだ。
まさかと思って私は自分の目を疑ったよ。こんなに大きく見えるはずがないってね。だけど何度見直しても月は大きくて、偽物とは思えなかった。本当に、現実の世界の物とは思えないほどに美しかったんだよ。
それを見ていた私はしばらく見惚れていたんだけど、やがてあることに気がついたんだ。それは、月の光が反射している部分があったってことだよ。よくよく見てみると、それは水たまりだったんだけど、そこから反射しているのが光だってわかったんだよね。それも太陽の光ではなくて月明かりだよ。つまり、ここは本物の宇宙だと言えるわけだね。だけどここが本当の宇宙空間だったら息ができないはずだし、何より体が冷えていくはずだからやっぱりここも違うんだろうって思った。ということはここは宇宙を模した何かの世界ってことなんだろうね。そうなると気になることが出てくるわけなんだけど……
私がそんなことを考え始めた時だったかな、突然、どこからか声が聞こえてきたんだ。
「ようこそ、私の箱庭へ」ってね。それが誰の声なのかはわからなかったけど、確かに聞いたよ。あれは間違いなく女の声だったと思う。その声が聞こえた途端、みんなの顔つきが変わったのがわかったよ。みんながみんな同じ方向を向いていたからね。私もつられてそっちを向いたらいつの間にか見知らぬ女の人が立っていたんだ。彼女は微笑みながらこちらを見ていて、こう言ったのさ。
「あなたたちは私の大切な子供達。だから死なせるわけにはいかないの。だから……」そこで一度言葉を切った後、私たちを見回してから続けたわ。「これから、ゲームを行います。このゲームは全部で7つあります。それぞれにテーマがあるので、そのテーマに合ったものをクリアしていってください。全てクリアすれば晴れて自由の身となります。そしてここからはちょっとした補足説明をしますね」
そう言って彼女が話し始めたことを簡潔にまとめると、こんな感じだったかな。
「この施設は、かつて私たちが暮らしていた場所であり、今も残っている唯一の施設でもある。ここでは子供たちに教育を施している。教育といっても普通の勉強ではなく、戦闘訓練や暗殺術などを教えているが、基本的には武器の扱い方や人を殺すことの大切さを学ぶことを目的としている。ちなみに言っておくが、ここの子たちは決して悪い子ではないしむしろいい子達ばかりだから仲良くしてあげてほしい」
それから彼女はまた私達の方を見てから話を続けたよ。
「ここで生活するにあたり、君たちには3つの選択肢がある。
1つはこのままここで暮らし続けること。
もう1つはここから出ていくこと。
3つめは自分の生まれた家に帰ること。以上が私からの提案になるが、どれを選択するかは全て君たちの自由だ。好きな物を選ぶといい」そう言って微笑んだ後で言ったんだよね。
さて、それじゃあそろそろ始めましょうか?ってね。
彼女のその言葉に反応するように突然部屋中にサイレンが鳴り響いてアナウンスが流れ始めたんだ。
これからゲームを開始する……ってね。
「さあ、ゲームを始めようか」
そんな声が聞こえた瞬間、目の前が真っ白になったんだ。それと同時に激しい目眩に襲われて立っていられなくなったのを覚えてるよ。そのまま地面に倒れて意識が薄れていく中で、こんな声を聞いたような気がする。それは確かこんな感じだったっけなぁ……
「……おや?もう終わりかい?……つまらないねぇ……もう少し楽しませてもらえると思ったんだが……期待外れだったようだね……」
そんな感じのことを言ってたよ。正直何を言ってるのか聞き取れなかったんだけどね。でもまぁ、なんとなく馬鹿にされてるってことはわかったかな。とにかくイラッとしたよ。だって折角いいところだったのに邪魔されたんだもん。そりゃ誰だって怒るでしょう?そんなわけで何とかしようと立ち上がろうとしたんだけれど力が入らなくてね、全く動けなかったんだ。だから悔しかったんだけど何もできなくて諦めてたんだ。そんな私を見て彼女は笑っていたよ。馬鹿にするような声で笑い続けていたんだよ。本当にムカついたんだけどどうすることもできなかったからさ、ただじっと耐えることしかできなかったんだよね。
しばらくしてからようやく動けるようになったんだけどまだ視界がぐらついてたせいでまっすぐ歩くことすらままならなかったんだ。フラフラとしながら壁にもたれかかっていた時に気づいたんだよ。あれ?こんな所にボタンがある。
「世界の崩壊。全ての終わりの終わり」と書いてある。何だろう、よくわからないが少なくともこの日常にうんざりしていたので押した。するとあちこちで「緊急地震速報です♪」という合唱が始まった。どうやらこの建物全体が揺れているらしい。一体何が起こっているのだろうと思って辺りを見渡してみると天井に亀裂が入っていることに気づいた。まさか崩れるのだろうかと思っていると天井が崩壊し始めたではないか。慌ててその場から離れようとしたのだけれど思うように体が動かないので逃げ遅れてしまったようだ。気がつけば床が崩れて落下している途中であった。落ちている最中に意識を失ってしまったようで、気がついた時には病院のベッドで横になっていたというわけだ。聞いた話によると私は倒壊した建物の下敷きになりそうになったのだが、偶然近くを通りかかった通行人によって救出されたのだという。命の恩人というやつだな。
ちなみにその後の話なのだが……結局あの施設には戻ることができなかったな。いや、正確に言うと戻ったのだが、その時には既に建物は崩れ落ちていて瓦礫の山となっていたのだ。中を調べようと思ったがあまりにも危険だったので断念せざるを得なくなったというのが正しいだろう。だが、一つだけ気になることがあるんだよな。あの時に聞いた女性の声の主は一体誰だったのだろうか……?もしかするとこの一連の出来事には何か裏がありそうだな。そう思ったのでいろいろと調べてみたのだがやはりどこにも手がかりになりそうなものはなかった。仕方なく諦めかけたその時、一枚の写真を見つけたんだ。そこに写っていたのはある少女の姿だったのだが、その顔を見た瞬間に何かを思い出した気がしたんだ。そういえばどこかで見たことがあるような……と記憶を辿ったところで思い出したよ。あの時の少女の顔だ!そう、間違いない!!これは絶対に何かあるぞ……!ということでさっそく調査することにしたのだ。とりあえず思いつく限りのことは全部やってみたがなかなか見つからないものでな、少し疲れてきたところだったんだ。だがその時だっただろうか、私の目の前に謎の少女が現れたのは……。
いきなりのことで驚いてしまったのだが、よく見るとこの子に見覚えがあったことを思い出したのだ。あぁそうだ、そうだった!あの時の少女じゃないか!何でこんなところにいるんだ!?などと心の中で叫んでいるうちに彼女は私に近づいてきてこう言ったんだよ。「お久しぶりですね、私のこと覚えていますか?」ってね。もちろん覚えていたさ。忘れるわけがないだろう?だって私は君のことが好きだったんだから。だからこそこうして再会できたことが嬉しかったんだ。たとえこれが夢であってもかまわないくらいだよ。そう思っていたら彼女の方から話しかけてきたよ。
「突然ですが、貴方は院長の遺産相続人に選ばれました。私、司法書士の前川清子です。脳病院のヴェルニッケ・下田氏は死ななきゃ治らない脳の難病を患って余命いくばくもない状態です。そこで強欲な親族から病院の運転資金を守るために血縁者でない貴方を養子に迎え全てを譲ることにしました。しかし、納得のいかない相続人たちがあなたを精神錯乱状態に陥れようとあの手この手の演出で貴方を惑わせたのです。安心してください。ヴェルニッケ・下田氏は息を引き取る直前に成年後見人として私を選任しました。ハゲタカ親族どもは今は刑務所にいます。どうぞ全額お受け取りください」その言葉を聞いた途端、目の前が真っ暗になったよ。確かに私には前科があるんだが、何故それを知っているんだ?そう思って思わず身構えてしまったんだが彼女は笑いながらこう言ったんだ。
「心配いりません。この会話は全て録音されていますし録画もしています。私がその気になれば貴方の悪事を全て暴露することもできますが、今回は特別にやめておきましょう。それでは失礼します」と言って立ち去った後に残された私は呆然と立ち尽くすしかなかったよ。だが、これスッキリした。のどに餅を詰まらせて死んだカメラマンというのはヴェルニッケ・下田氏のことだったのだ。そして遺産相続手続きを進めるためにわざわざやって来た司法書士の彼女が私のところにやってきて色々と説明してくれたのだ。といってもほとんどが事務的な話ばかりだったがね。特に印象に残っていることは一つだ。彼女はこう言っていたんだよ。「実はですね、貴方がここに来る前からずっと待っていたんですよ。いつかきっと現れるって信じていましたから」という言葉を残して去っていった時の笑顔はとても素敵だったな。そんな彼女に惹かれていった私は思い切って彼女に告白したのだよ。
「一緒に暮らさないか」、と。