まず、この世界はゾンビと呼ばれる怪物が存在する。この世界ではゾンビに襲われた者は、感染してしまい死体のように腐った状態になって動き出す。ゾンビの見た目は犬や狼といった生物に似ていることが多いらしく、身体の色は白で頭部には目が存在しないとのことだ。ちなみに中村さんの話だと人間だけでなく、動物も感染しているということだった。それからゾンビになる条件というのが存在しており、その条件というのは身体の一部が損傷していることなのだという。
それから俺は中村さんの方に視線を向ける。
「じゃあ、さっきまで俺が襲っていた人達の中に?」
「えぇ、ゾンビが紛れ込んでいる可能性がありますね」
俺は美佐子の顔を見る。
「まさか、俺の知っている美佐子がゾンビだったとかじゃないよね」
「それはないと思いますよ。さすがに私でもそこまではしないかと。おそらく私の夫だと思われている人でしょう。その人も、ゾンビに襲われてしまったことで感染したのではないでしょうか?」
俺はホッとする。そして、俺達はこの世界を脱出する方法を探し始めることにした。それから数日の間、俺達は中村さんの協力の元で情報収集を行った。だが、特にこれといって有益そうな情報を得ることはできなかった。
そこで俺は美佐子に話しかける。
「これから、どうしようか」
「とにかく、今は情報を少しでも多く集めることが先決かと」
俺は、その言葉を聞いて考える。今の状態では情報が少なすぎるため、どうしても行動が制限されてしまうからだ。
俺が考え事をしていたら、いつの間にか中村さんは姿を消していた。そこで俺は気になることを口にした。
「そういえば、俺達がここに来る前にあった声の主だけど……」
「あの声がどうかされたのですか?」
「実は……」
俺は今まであったことを話す。それを聞いた美佐子は首を傾げる。そして、しばらく黙っていると何かを思い出したのかハッとした様子でこう呟く。
「もしかしたらですけど、以前に訪れた街の人たちが助けを求めていたのでは?」
「それは、あり得るかもしれない」
「それならば納得がいきます」
俺達は街を出ようとしていた理由を思い出す。その理由の一つに俺達が訪れた場所で苦しむ人々を助けたいという願いがあったためである。だから俺は、中村さんを問い詰めようとしたのだ。
それから俺達は外に出ることにした。だが、その前に中村さんの元へ行くことにして話を聞き出そうと試みることにしたのである。そして、再び中村さんに会うと早速本題に入った。
どうすればいいのかを教えてほしいと告げると意外な返答が返ってきたので驚いてしまう。というのもありのままを受け入れて欲しいというのだ。そうしなければ脱出は不可能だということだったので素直に従う。すると彼は笑みを浮かべて嬉しそうにする。それから少し時間が経った後に突然襲いかかって来たかと思うと、首筋に噛み付いてきたので慌てて振りほどこうとするが力が強くて引き剥がせない。そして、そのまま食べられてしまったのだった。それから俺は激しい苦痛に襲われるが次第に意識が薄れていき気を失ってしまった。そして、次に目を覚ました時には元の世界で目が覚めたのだ。
「つまり、この世界に囚われている人々は自らの意思で動くことができなくなっています」
「なるほど」
「でも私達なら……」
美佐子は真剣な眼差しでそう口にする。そして、俺の肩に手を乗せると優しくキスをした。
「愛しています。隆二」
「俺もだよ」
美佐子は照れくさそうに笑うと俺に抱きつく。そんな美佐子の頭を撫でながら、ふと疑問に思ったことがあって聞いてみることにした。
「あの、どうして俺達は元の世界に戻ることができたんだろう?」
「恐らくですが、隆二様がウィルスに抗体を持っているからかもしれません」
「そうなのか」
俺がそう答えると、彼女は笑みを浮かべて俺の頬に触れる。
「そうでなければ困ります。だって、隆二様がいなかったら私は生きていけませんもの」
その言葉で俺の心臓が跳ね上がる。そんな風に言われたら勘違いしてしまうじゃないかと思いながらも美佐子を見つめて俺は思う。
もし仮に俺に抗体があるとして他の人が感染しても俺みたいにならないんじゃないだろうか。
それなら……いや、駄目だ。美佐子を一人だけ残すなんて絶対にできない。俺達は二人で生きていくと決めたのだから……
それから数日後のこと。美佐子はいつも通り料理を作ってくれたり、洗濯をしてくれたりなど家事を率先的にこなしてくれていた。俺はというと美佐子がいない間は掃除をしたりなどのことをする。また買い物に出かける際には美佐子と一緒に行って荷物持ちを行うこともある。そんな感じの日々が続いていたある日のことだった。
美佐子は俺に一枚の手紙を渡してきた。そこには、この街から脱出したいと記されていた。その人物は中村さんだった。彼からの頼み事を引き受けるかどうかを尋ねられる。
「どうされますか?」
「俺は行くつもりだよ」
そう答えて美佐子の方を見ると微笑んでいた。
「では、行きましょう。貴方が行くと言うのであれば私はどこまでもついていきます」
こうして俺と美佐子は、中村さんの元へ会いに行くことに決めたのであった。
俺と美佐子は手紙に書かれていた場所へと向かった。そこは街中にある大きなビルであり、入り口から中へと入ると受付のところまで向かう。そこで、中村さんに会いに来た旨を伝えている時に警備員が現れてきて立ち塞がる。そして、俺達の身体を調べようとしてくる。だが、その時のこと。
――おい、何をしている!この人達を早く案内しろ!! 中村さんの声だ。彼がいる場所は地下にある部屋らしく急いでそこへ向かうことにした。そして、辿り着いた先は手術室のような場所で中村さんは部屋の中央にいた。俺達が来たことに気づくと笑みを浮かべて歓迎してくれる。
「わざわざご足労頂き、ありがとうございます」
中村さんの格好を見た俺は驚きを隠せなかった。というのも、全身がボロボロだったからである。そんな彼に大丈夫なのだろうかと問いかけた。
「えぇ、何とか平気ですよ。それより……」
中村さんが言いかけたところで俺は口を閉じた。すると、彼は苦笑いをしてから俺達の方に視線を向ける。そして、話を始めた。
「私がこの街を訪れた時は既に多くの人間が感染者となっていて大変な思いをしましたよ」
「やはり、中村さんもこの世界に……?」
「えぇ、気がつけばこの世界に閉じ込められていて。私達は、この世界のルールに従わなければならないのです」
中村さんの言葉を聞いて嫌なことを思い出す。俺達がここに迷い込む直前、俺達は殺し合いをしていたので。
「中村さん、ここは何なんですか?ゾンビだらけの街というのは分かりましたけど、いったいどうやって俺達をこんな場所に?」
「それに関しては後でお話しします。それよりも今は脱出の方法を考えるべきでは」
「それは……」
「実はですね。この街から抜け出す方法が一つだけ存在するんです」
俺は彼の言葉を聞いて驚く。それから、どんな方法なのですかと尋ねると、中村さんはその方法を詳しく教えてくれた。それを聞くと俺が抱いていた懸念事項の一つが解消されることとなった。しかし、同時に俺は疑問に思ってしまう。中村さんの話が本当ならば脱出する手段は確かに存在していたからだ。それなのに中村さんがなぜこの世界に留まっているのかと。そのことを尋ねると彼はこう答えた。
「それは私には愛する家族がいますので」
中村さんの話によると彼の妻は、この街に残って中村さんを探しているのだという。だから俺は思わず言ってしまった。「その人を一緒に連れ出せばいいじゃないですか」
「それができれば苦労はしないでしょうね」
「でも中村さんがここに留まったとしてもいずれは殺されてしまいますよ?」
中村さんは寂しげな表情をした後、何かを思い出したかの様にして話を続ける。
「まぁ、そうならないように努力するつもりです。とりあえず、ここから脱出する方法ですが。この建物の中に地下室がありまして。そこにワクチンが保管されているはずです」
中村さんはそこまで話すと、一息吐いて天井を見上げる。それから少しの間を空けてから再び口を開く。「私の妻もその施設にいるはずなんですよ」
「その施設の場所を知っているなら助けに行ってもいいのではないですか?」
「いいや、もう間に合わない。今頃は死んでいるか、捕まっているだろう。それに……」
「……?」
「私はこの世界にずっといたいと思ってしまった」
俺はそれを聞いた途端に何も言えなくなってしまった。そして、沈黙の時間が流れる。そんなときだった。突然警報が鳴り響くとスピーカーの声が響き渡る。
「これより街で殺し合いを始める。これはゲームである。皆で仲良く殺し合おう」
それを聞いた俺は美佐子の方をチラッと見ると不安そうな顔をしていた。そんな彼女を見て俺が励まさないとと気持ちを引き締めると、ふと美佐子が話しかけてくる。
「ねぇ、隆二さん。もしかしたら中村さんは本当にこの街に残りたいんじゃないかしら?」
「そんなわけがない」
俺は即答した。だってそうだろ。あんなことを言ったら残るしかないじゃないか。そんなことを思っていたら急に中村さんが襲いかかってきた。慌てて避けようとすると美佐子に突き飛ばされて俺は床に転ぶ。その瞬間に首筋に噛まれた感触がしたので慌てて引き剥がそうとするが、今度は彼女が押しのけられて壁にぶつかる。それから俺の首元に痛みが走ったかと思うと血が流れ出した。
それから美佐子は悲鳴を上げて、俺は意識を失った。そして、再び目を覚ますと、そこは街の中だった。どうなっているんだと慌てて首筋に手を当てると、傷はなく服だけが破れていたので俺は美佐子を探す。すると、美佐子は地面に横たわっていた。俺は慌てて彼女の身体を起こす。
「大丈夫か!?」
「はい。隆二さんこそ……」
「あぁ、俺なら平気だよ」
「良かった……」
美佐子は安堵の表情を見せると俺の腕をギュッと掴む。
「怖かった……このまま目を覚まさないんじゃないだろうかって思って」
「大丈夫だよ。それより、俺達もこの街から出るぞ!」
「はい」
そう言って立ち上がると俺達は移動を開始することにした。それから中村さんの姿を探して歩き回ったが見つからない。そして、しばらく歩くと建物の中に入った。そこでは多くの人が集まっている。
「あの……すいません」
俺が声をかけると人々は一斉にこちらに振り向く。その顔からは理性が失われていることが分かる。俺は美佐子を連れて逃げようとしたのだが遅かったようだ。
次々と人々が襲いかかってくる。俺は美佐子を守る為に前に出ると必死に戦った。しかし、相手の方が強くて次第に追い詰められていく。美佐子も抵抗するがすぐに組み伏せられてしまった。その隙に俺も殴られて倒れると首を絞められる。
苦しい……誰か助けてくれ。
そう思った直後だった。ドサッ 俺の視界の端に一人の女性が倒れ込む。それは中村さんだった。彼女は苦しそうに咳き込むと立ち上がって走り出す。俺はそれを追いかけようとしたが、目の前に人が立っていることに気がついて動きを止める。そして、ゆっくりと振り返った先には……中村さんが立っていた。
彼女は俺に向かって銃を向けている。それから、静かに語り始めた。「どうして君が私の邪魔をするんだ?君はここで幸せに生きていけば良いじゃないか」
「違う、俺は美佐子と一緒に生きると決めたんだ。だから、お前と一緒に行くことはできない」
俺がそう言うと中村さんは無言で俺に銃を撃ってきた。それをどうにか避けることができたが、その反動でバランスを崩してしまう。俺は地面へと転倒してしまう。
俺は何とかして起き上がろうとするが、それよりも前に美佐子が駆け寄ってきて抱き抱えられる。そして、そのまま中村さんが去って行くのを見送るしかできなかった。
しばらくしてから俺は立ち上がった。そして、その場から離れようとして気がつく。俺の足元には美佐子の死体があった。
俺はしばらくの間その場で呆然としていた。すると、いつの間にか俺の周りにゾンビが集まり始める。やがて彼らは俺を囲んで攻撃してきた。
「うあああっ!!」
俺は無我夢中で戦い続ける。気がついた時には周囲にはゾンビはいなかった。代わりに美佐子の亡骸を抱きしめながら泣き続けていた。
「なんで……こんな目に……」
こうして俺の人生は終了した。そして、目が覚めるとこの世界にいた。
☆ 佐藤刑事が話し終えると私は黙り込んでしまった。というのも、彼が経験したことはあまりにも酷すぎるものだったからである。
「酷いですね……」
私が感想を述べると彼は苦笑いするだけだった。
それから私達は病院へと辿り着いたのだった。そこで私達は中村さんの遺体を発見したのである。その後で黒田さんの遺体を警察署まで運び終えた後、私達のところに一通の手紙が届いた。そこにはある人物が接触してくるという内容が記されていたのだ。それは誰なのか分からないが手紙に書かれた場所に向かうことにするのであった。
手紙に従って訪れた場所は街外れにある一軒家だった。その家に辿り着くと同時にチャイムを鳴らすと玄関が開いて男性が姿を現す。その男性に見覚えはないはずだった。しかしその男性の格好を見ると見覚えがあることに気づく。その人物はスーツ姿ではなく白衣を着用しているものの中村さんだったのだから。私達は彼に挨拶すると部屋に招かれた。
中村さんの部屋には色々な機器が置かれていて薬品などが並べられている。そして、中央に置かれた机の上のパソコンが起動していて、モニターには『ゲーム』と書かれたウィンドウが開かれていた。
「皆さん、来てくれたんですね」
「えぇ」
「それは嬉しいですね」
彼は嬉しそうな表情を浮かべる。
「ところでさっき言っていた"ワクチン"というのは何なんですか?」
私はそう質問すると中村さんは答える。
「この世界から抜け出すための手段です」
中村さんはそう答えてから一呼吸置いた後に話し始める。「この世界には三つのルールが存在しています。一つはこの世界に閉じこめられた人間は、この世界から脱出しようとすること。二つ目が感染した人間は感染者を殺すことによって生き残ることができる。三つ目が感染者に噛まれた人間も同じく感染します。ただし、例外はありますが」
その話を聞いた私達が驚いていると、彼は更に説明を続ける。
まず最初に中村さんは自分のことを話す。彼によるとこの街ではウイルスが蔓延している。それにより人々は理性を失い本能だけで行動する化け物と化していたらしい。そのため人々は殺し合いを続けていたという。しかし、そんな中、中村さんだけは正気を保っており生き延びることができたそうだ。その理由は分からないが。次に中村さんは自分がワクチンを投与されたと言っていたが、それが本当かどうかは不明だということだ。なぜならワクチンの投与方法は知らないと話すからだ。その話を聞くと黒田さんが尋ねる。
「あなたは本当にこの世界で生きているのか?」
その問いに対して彼はこう返答した。
「私は確かにこの世界にいますよ」
それを聞いて美佐子は不安げな様子を見せる。そして、「どうしてそんなことが分かるんですか?」と尋ねられたので、中村さんは少しの間を置いて口を開く。
「実は私にも分からなかったんですが……。最近になってようやく思い出しました。自分の妻の名前を」
そう語る彼の顔はとても穏やかなものになっていた。「妻の名は愛実といいます」
それを聞いた途端に美佐子はハッとしたような表情を見せた。それを見た俺は美佐子に「知っている人か?」と訊ねると彼女は小さく肯く。
それを確認すると中村さんは再び語り始める。
「私がこの世界から脱出する方法を教えましょう」
それから彼が話してくれたことは驚くべき内容だった。どうやら中村さんはこのゲームを終わらせる為の鍵を知っているらしく、それを渡してくれるとのことなのだが……条件はゲームに参加することだと告げてきた。つまりは、誰かが殺されないかぎりは誰も救われないということになる。そんなゲームに参加する気になれず断ろうと思ったのだが、中村さんが真剣に説得してくるものだから、俺は思わず了承してしまった。それから中村さんが俺達に手渡して来たのはあるアイテム。これは「鍵の形をした金属片」と呼ばれており、これを使えば中村さんがいる場所へと向かうことができて、さらにそこから脱出することもできるようだ。ちなみに中村さん自身はもう既に一度使用したことがあったらしい。しかし、中村さんの場合は途中で妨害を受けた為に、再びここに戻ってくることになったとか。
それを聞かされた俺達はすぐに出発することにした。
「そういえば自己紹介がまだでしたよね。私は中村真樹と申します」
「俺は黒田隆二」
「美佐子と言います」
「よろしくお願いします」
中村さんと握手を交わした後、私達は目的地へと向かった。そして、しばらく歩くと大きな建物の中へ入り込む。どうやらそこは研究所だったようで大量の資料が置かれていた。その中には「人体実験について」という題の資料があったので、それを拝借しておく。そして、建物を出て行くと目の前に大きな建物が建っていて、その周りには大勢の人がウロウロとしていた。俺達は警戒しながら建物の中へ入る。
建物の中に入った俺達は奥へと進む。しばらくすると巨大な水槽が視界に入ってくる。その水槽の中に中村さんの妻と思われる人物が入っていた。中村さんはその女性を見て「美優」と呼ぶ。美佐子もその名前に聞き覚えがあったのか驚くと、俺は彼女のことを美優と呼び、二人は感動の再会を果たす。
しかし、その感動的な瞬間はすぐに消え去ることになる。突如、画面には砂嵐が発生し始めたのだ。そして、しばらくした後に、画面には二人の少女の姿が現れた。
「何?これ……。まさか、この子達も感染したってこと?」
「違うわね。これはおそらく、ゾンビになった時の映像を録画したものよ。でも、どうしてわざわざこんなことをしたのかしら?」
「わからないな。だが、今のうちに破壊しておくか?」
と、大河原さんが言った。
"私はその言葉を聞いた瞬間、思わず叫びそうになった。だけど声が出なかった。
そして私の意識は次第に遠くなっていったのです。私はその場に倒れた。
しかし、私はまだ死んでいなかった。私の身体を何者かが抱えていた。それは……あの女だった。" "私が覚えているのはそこまでだ。それから先、自分がどうなったのかは全く覚えていない。" * 俺は今の状況について考えた。恐らく、ここは病院の地下に存在する隔離施設であろうことは想像できる。何故なら、この建物内に俺たち以外の人間がいる気配が全く感じられないからだ。しかも、俺たちが目覚めた場所は手術室であったのだ。そんな部屋が存在しているというだけで、この病院が普通の病院ではありえないことだけは分かるだろう。更に言えば、ここの看護師たちも感染者なのだと思われる。だからといって特に恐怖を感じることもない。だって、ここにいる奴らは俺を殺すことができないからだ。
つまり、俺は死なずに生き残れる。ならば後は待つだけだ。他の生存者たちが助けに来るまで生き残ることを意識するのみだ。
「大丈夫?」……何が?……そう思いながらも彼女の方を見る。
「うん、私は全然大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
いかん、見つめすぎてしまったようだ。それにしても可愛らしい子だ。こんな子が俺を助けてくれたのかと思うと少し嬉しくなるな。俺は彼女と一緒に行動することにしようと思った。彼女がいれば助かる可能性が上がるかもしれないからだ。それに俺には目的がある。その目的のためにも早くここから脱出しなければならないんだ。
* "僕は何とか彼女を説得することに成功した。
そして彼女と行動を共にすることになったのだが……。……しかし、どうにも先程の出来事が気になって仕方がないんだよ。彼女の腕を見た時に、まるでゾンビみたいに見えたんだけど……まあ気にしないことにするよ。" "僕たちは階段を下って行く。
地下1階に降りたところだった。そこは迷路のようになっていたけど、幸いにして迷うようなことは無かった。なぜならば道の至る所に死体が落ちていたからだ。
「ねぇ、大丈夫? さっきから元気がないみたいだけど……」
そんな僕の様子を見かねたのか心配そうな表情で訊ねてくる彼女。その表情を見た瞬間にドキッとするのを感じたので慌てて目を逸らす。それから僕は「大丈夫だよ」と答えた後で歩き出す。
その時のことだった。突如として天井が崩れ落ちてきたのだ!このままでは潰されてしまうと思ったが……なぜか僕だけが無事だったのだ!?理由はよく分からないがとにかく良かったと思う。僕が安堵したのも束の間、今度は床が崩壊したのだ!僕と彼女はそのまま落下していく。
「きゃああああ!!」という悲鳴と共に落ちていく彼女に手を差し伸べようとしたところで気がつく……手が動かないことに……いや、手だけではない!!足までもが動かなくなっていたのだった!!!
「クソッ!」と言いながら僕は目を閉じることしかできなかったのである…………しばらくして、ようやく目を開けてみると、何故か辺り一面真っ白な空間にいた。そして目の前には見知らぬ男が立っているではないか!その男は僕に語りかけてきたのである。「やぁ、ようこそ"死の空間へ"」と。その不気味な声を聞いて僕は確信したのである……コイツは敵であると……。"
「へぇ〜そんなこともあったんですね〜」と佐藤さんの話を楽しそうに聞いている七瀬さんに対して私は言う。
「……あの、一応言っておきますけど、これってホラーゲームの話ですからね?」と言うと彼は苦笑いを浮かべながら答えた。
「えっ!?そっそうなんですか!?」

「はい、そうです。だからそんなに驚かないでくださいね」と言ってから話を続けることにした。
* その男が言うにはこのゲームをクリアした者には賞金が与えられるという話だった。それを聞いた途端に私と美佐子は顔を見合わせて喜ぶ。これで借金を返すことができるのだから当然の反応と言えるだろう。しかし、それと同時に不安もあった。もしクリアできなかったらどうなるのだろうか?そのことを彼に尋ねてみると、男は笑いながら答える。「そりゃあもちろんゲームオーバーだよ」それを聞いて私は絶望感に襲われると同時に疑問を抱いた。この男の目的は一体何なのだろうか?私達を騙してどうするつもりなのだろう? そう思って男のことを見ていると不意に目が合う。すると突然、
「君達は本当に運が良いよ」と言ってきたのである。その言葉に私は驚きを隠せない。すると男は続けてこう言った。
「実は今ここで起きている出来事は全て夢なんだよ」と……その言葉を聞いても最初は信じられなかったが、徐々に記憶が蘇ってくると、それが本当のことだと理解した。そうだ……全ては夢の中の出来事だったのだ……それなのに私達は現実世界にいるかのように錯覚していただけに過ぎなかったのだ……。その事実に気づいた時、私の意識は遠のいていった…………。それからどれくらいの時間が経過しただろうか?気がついた時にはベッドの上で寝ていた。周りを見ると他にも何人か寝かされている人達がいることに気づいた。そして隣には私と同じように目を覚ましたばかりの七瀬さんがいることに気づく。
「あれ……?ここどこですか……?」
「わかりません……私も気づいたらここにいたんです」と答えるしかなかった。なぜなら私にもここが何処なのか分からなかったからである。
とりあえず私たちは部屋を出てみる事にした。廊下に出るとそこにはたくさんの人々が倒れていた。中には生きている人もいるようだが、ほとんどは既に息絶えているようだ。それを見て私は思わず悲鳴を上げる。どうしてこんな酷いことをするのか理解できなかったからだ。そんな中で私はあることに気がついた。それは倒れている人の中に見覚えのある顔を見つけたからだった。それは中村さんだったのである。彼の姿を見た瞬間に嫌な予感がした。もしかしたら彼も感染してしまったのではないかと思い、急いで駆け寄ると脈を確認する。どうやらまだ息はあるようだったが危険な状態であることに変わりはなかった。
「大丈夫ですか?」と声をかけると彼は小さく頷いた後で口を開く。
「君たちは……無事だったのか……」
そう言って微笑む彼を見て安心したのか、涙がこぼれ落ちてきた。そしてそれを見た彼が私を慰めてくれたおかげで冷静さを取り戻すことができたのだ。その後、美佐子や美波さんたちとも合流することができて、全員で外に出ることになった。しかし、建物から出たところで私たちを待っていたのは地獄のような光景であった。
そこら中に血塗れの死体が転がっていたり、建物の壁には大きな爪痕が残っていたりと悲惨な状況になっていたのだ。その光景を見た私達は言葉を失ってしまった。だが、いつまでもこうして立ち止まっていても仕方がないと思い、再び歩き始めることにした。
「これからどうしますか?やっぱり病院に戻るべきでしょうか?」と私が訊ねると彼は首を横に振った後にこう答えた。
「いや、このまま先に進もう」と言う彼の言葉に従って先へ進むと病院が見えてきたので中に入ることにする。院内にも大量の死体があったが特に気にすることもなく進んでいくと診察室に到着した。そこで目にしたのは変わり果てた姿の妻の姿であった……。その瞬間、私の頭の中で何かが弾け飛んだような気がした。気がつくと私は妻の亡骸を抱き抱えて泣いていたのだ……そして心の中で誓ったのである。必ず復讐してやると……たとえ相手が誰であろうと容赦はしないということを……。" * それからしばらくして落ち着いた後、私は今後について話し合うことにした。
「まずはこの病院から脱出することを考えないといけませんね」と言った後、改めて周囲を見回すと壁にある張り紙が目に入った。その内容を読んでみたところ、この建物は研究所だったらしいことが分かった。つまりは人体実験が行われていた場所ということのようだが……一体どんな実験をしていたのかまでは分からないらしいが、おそらくロクでもない内容だったのだろうなということは想像できるな。そんなことを思いながらも脱出方法を模索することにしたのだが……今のところは何も良い案が思いつかないな。やはりこの建物内を探索するしかないのだろうが、その前に休憩をとることにしようと思う。正直言ってかなり疲れてしまったからな。それに腹が減ってしまったし……そういえば食料はまだ残っていたよな?
「えぇ、まだありますよ」
そうか、それなら良かったぜ!よし、それじゃあ飯にしようじゃないか!ということで俺たちは食事を取ることにしたのだった。
* 食事をしながら今後のことについて話し合った結果、二手に分かれて行動することになった。俺と明久は地下1階に向かうことになり、大河原さん達は2階に行ってみるようだ。ちなみに残りのメンバーは3階に残って待機することになるみたいだな。まあ、その方が安全だろうから妥当だと思うけどな。話し合いが終わると早速出発することにした。さて、それでは行くとするか! まず最初に向かったのは手術室だ。ここに何か役立つものがないか探してみることにする。部屋の中に入るとそこはまるで野戦病院のようであったが、設備自体はしっかりと整っているように感じた。それからしばらく探し回っていると棚の中から鍵を発見したのでそれを使って扉を開けることにした。中に入ってみるとそこにあったのは注射器などの医療器具が大量に保管されていた。その中には輸血パックも置かれていることに気がつく。これを使えば血液を入手することができるかもしれないと思った俺はすぐにそれを回収することに決めたのだった。その後も色々と漁ってみたものの目ぼしいものは見つからなかったため、諦めて別の場所を探すことにした。次は実験室に行くとしようと思う。その部屋は一見するとただの研究室に見えるかもしれないが、机の上に置いてある資料に目を向けてみるとそこにはとんでもない内容が書かれていたのである。それはなんと人の死体を解剖して研究しているという内容だったのだ!!しかもそれだけではなく、生きた人間を使った実験も行われているということが判明したのだ!そのことに驚いた俺が思わず叫んでしまうと近くにいた警備員たちが一斉に駆けつけてきたので慌てて逃げ出したというわけである。その後はなんとか見つからずに逃げ切ることに成功したというわけだ。
次にやって来たのは食堂だった。ここには食材が大量に保管されているようで、冷蔵庫の中には肉や野菜などが入っていたのだ。他には調味料なども置いてあったので助かったよ。これで料理を作ることもできるだろうからな。そんなわけで調理を開始することにしたんだが、さすがにこれだけの量を消費するとなると大変だなと思いながらも何とか作り終えることができたぞ。完成した料理をテーブルの上に並べていくとあっという間にテーブルの上が埋め尽くされてしまったが気にしないことにしよう。それにしても美味そうだなと思っていると突然、後ろから声をかけられたんだ。驚いて振り返るとそこにいたのは白衣を着た男が立っていたのである。その男は俺の姿を見るなり嬉しそうな表情を浮かべながら話しかけてくる。
「やあ、こんにちは!」と言いながら握手を求めてきたのでそれに応えると男はさらに嬉しそうに笑う。どうやらこの男は俺に会うためにわざわざここまでやってきたようなのだ。そんな奴に対して警戒していると奴は自己紹介を始めた。
「僕は中村誠治といいます」と言って頭を下げる男につられて俺も自分の名前を名乗ると彼は満足そうな顔をしていたよ。それからしばらくの間、世間話をした後で本題に入ることにした。
「実は君にお願いしたいことがあるのですが聞いてもらえませんか?」と言う彼に頷いてみせると、ホッとした表情を浮かべると共にこう言ったのだ。
「ありがとうございます!ではさっそく説明させていただきますね!!」
それから彼が語った内容は驚くべきものだった……まさかこんなことが起きるなんて……信じられねぇ……これは現実なのか?だとしたら酷すぎるだろ!? あまりのショックで言葉を失っていると中村さんは申し訳なさそうに頭を下げていた。そんな彼に向かって「気にすんなよ」と言うと少しだけ表情が明るくなったような気がした。その後、詳しい話を聞くことにしたのである……。
* 「……というわけでお願いします」と言って頭を下げたままの彼を見て俺は覚悟を決めた。何故なら彼には世話になった恩があるからだ。だから協力することにした。もちろん他の奴らにも話をして了承を得た上での行動である。こうして俺達は一致団結してゲームに挑むことになったわけだ。
「よっしゃあ!やったるでぇー!!!」と気合いを入れる俺に同調するようにみんなも声を上げたのだ。そしていよいよ作戦を実行する時が来た。中村さんの話ではこの施設には複数の隠し通路が存在するらしく、そこからなら外へ出ることができるというのだ。ただし、問題もある。それは俺達が無事に逃げ切れるかどうかということだ……。もしも途中で見つかってしまえばゲームオーバーになってしまうのだから慎重に行動するべきだろう。とりあえず最初は全員で移動することにするが、もし敵に見つかった場合はバラバラになって逃げることになっている。そして、その際に重要な役割を果たすのが夢幻さんなのである。彼女は特殊な能力を持っているそうで、その力を使って敵の注意を引きつけることで囮となってくれるそうだ。そのため、彼女が捕まらない限りは大丈夫だと思うのだが油断はできない……とにかく今は進むしかないだろう……そう思いながら一歩ずつ前に進んでいくのだった。
あれからしばらく歩いているうちに目的地に到着することができたのだが……そこに広がっていたのは予想外の光景であった。どうやらここは地下駐車場のようだが、車が一台もない上に人の気配すら感じられなかったのだ。だが、それでも諦めるわけにはいかないと思い、先に進んで行くことにした。しかし、いくら探してみても出口らしきものは見つからない……それどころかどんどん奥の方へ進んでいるような気がするのだ。嫌な予感を感じながらも進んでいくとようやく行き止まりまで辿り着いたので引き返そうとしたその時だった。突然、背後から足音が聞こえてきたので振り返ってみるとそこには黒いスーツを着た男達が立っていたのだ。彼らは無言のまま近づいてくると手に持っていた拳銃を向けてきたのだが、
「おい、ちょっと待てよ!話を聞いてくれ!!」
そう言って必死に訴えかけるが誰も聞く耳を持たずに引き金を引いてきたのである。俺は咄嗟に避けることが出来たのだが、明久は間に合わずに撃たれてしまったようだ……くそったれがぁ!!!絶対に許さねえからな!!!!そう思った瞬間、怒りが込み上げてきて無意識のうちに殴りかかっていたのだ。その結果、相手は気絶してしまったようだがそんなことはどうでもいい……それよりも早くここから脱出しなければ!!そう思い急いで走り出そうとしたのだが、
「おっと、どこに行くつもりだい?」という声が聞こえたかと思うと首筋に冷たい感触を感じたと同時に動きを止めてしまったのだ。恐る恐る振り向くとそこにいたのは見覚えのある顔であった。そう、それは以前、出会ったことのある人物であり、この施設の所長を務めている男だということに気がつく。
どうしてこいつがここにいるのかは気になるが、それ以上にこの状況は非常にまずい状況だと言えるだろう……なぜならこの男から感じる威圧感のようなものを感じ取ってしまったからである。おそらくこいつは只者ではないのだろう。もしかしたら銃の扱いにも慣れているのかもしれないな……。そんなことを思っていると男が話しかけてきた。
「久しぶりだね、元気してたかい?」
そう言いながら笑みを浮かべる男を睨みつけていると、彼はやれやれといった様子で首を振る。そして、再び口を開いたかと思えばこんなことを言ってきたのである。
「そんなに怖い顔をしないでくれよ。別に君を取って食おうってわけじゃないんだからさ」
その言葉を聞いた俺は思わず舌打ちしてしまうと男は苦笑しながらこう続ける。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。今日はちょっとお願いがあって来ただけなんだからね」
「お願いだと……?」
一体どんな内容なのだろうかと考えていると彼は真剣な表情をしながら答える。
「うん、そうだよ。実は君達に協力してもらいたいことがあるんだよね」
「協力だって?いったい何をさせるつもりなんだ?」
「うーん、そうだね……簡単に言えばゲームをしてほしいんだよ」
「……ゲームだと?」
「ああ、そうだとも。ただ一つだけ問題があるんだけど、それが何か分かるかな?」
「……分からないな」
「それはね、君の隣にいる彼女だよ」
その言葉に俺はドキッとする。やはりそうか、そういうことだったのか……!俺が感じていた違和感の正体はこれだったんだ!!コイツらは最初から俺たちを騙していたんだ!きっとあのウイルスに感染させて同士討ちでもさせようと企んでいるに違いないぜ!!くそぉおおおお!!!騙されてたとは情けねぇ……!!だが、もう手遅れだ。こうなったら戦うしか無いだろうな……それにこいつらは俺の大切な仲間を傷つけやがったんだからな、許せるわけねぇだろ!?そう思って身構えると奴は笑いながら言う。
「まあ、落ち着きなよ。何も今すぐ戦えって言っている訳じゃないからさ」
「……どういうことだ?」
「簡単なことだよ。これから一週間の間だけ大人しくしていてくれれば何もしないってことさ」
「……本当にそれだけなんだな?」
「ああ、約束するよ」
「……」
その言葉を聞いてもなお、警戒している俺を見て奴は溜息をつくと続けてこう言った。
「はぁ……仕方ないなぁ……それじゃあ特別に教えてあげようじゃないか!」
そう言うと男はニヤリと笑ってみせた後、衝撃的なことを口にしたのだ。それを聞いた俺は驚きのあまり言葉を失ってしまった。何故ならその方法というのが『全員の心臓を止める』というものであったからだ。つまり、俺の目の前にいる男を殺す必要があるということである。
だが、俺にはできない!確かにこいつのことは憎いし、殺したいという気持ちはあるが、だからと言って殺すことなんてできるはずがないだろ!?そう思っていると男は呆れたように言った。
「君は甘いねぇ……まあいいや、とりあえずチャンスをあげるとしよう」
そう言った後でポケットから取り出した注射器を見せつけてくる。中には透明な液体が入っており、怪しげな光を放っていた。それを見た俺はすぐに理解したよ。あれはヤバい薬なんだとな!だから逃げようと思ったんだが、すでに遅かったみたいだ。いつの間にか背後に回り込んでいた男に羽交い締めにされてしまい、身動きが取れなくなってしまう。その間にも注射針はゆっくりと近づいてきているのだが、俺は恐怖のあまり叫ぶことしかできなかったのだ。そしてついにその時が来てしまう……腕にチクッとした痛みが走ったかと思うと何かが体内に注入されていくような感覚があった。それと同時に頭がボーッとしてきて意識が遠のいていくのを感じたが、なんとか堪えることができたので安心したのだが、それも束の間の出来事だった。次の瞬間には激しい頭痛に襲われたのだ。あまりの痛みに耐えきれなくなった俺はそのまま意識を失ってしまいそうになるのだが、ギリギリのところで耐えることができたらしい。その証拠にまだ生きていることがわかったからな。しかし、だからといって安心することはできない。何故なら既に手遅れの状態になっている可能性が高いからだ。現にさっきから全身が熱くなってきたうえに呼吸も荒くなっている気がするしな……このままいけば間違いなく死に至ることになるだろう。そうなる前に何とかしなければならないと思っていると今度は強烈な眠気に襲われてしまう。どうやらこれも副作用の一つのようだ……くそったれがぁ!!こんなことになるなら初めから引き受けるんじゃあなかったぜ!!今更後悔しても遅いことは分かっているけど、どうしても考えてしまうんだよな……。そんなことを考えながらも必死に耐え続けているとやがて症状は治まっていったようだ。これで一先ずは助かったと思い安堵したのだが、その直後に再び激痛に襲われることになったのである。原因は恐らく出血によるものと思われる。このままだとマズイことになりそうだがどうすることもできないまま時間が過ぎていった。それからしばらくして痛みが引いてきた頃にふと気がつくと目の前には中村さんが立っていた。そして俺に向かって声をかけてきたのだ。
「大丈夫ですか?」と言う彼に頷き返すと、さらに質問してきた。
「今の状況を説明してくれますか?」と言われたので正直に答えたところ、どうやら納得してくれたようで頷いてくれた後にこう言ったのである。
「分かりました……それではそろそろ行きましょうか」と言って手を差し伸べてきたため、それを掴んで立ち上がると歩き始めたのだが、その際に違和感を感じたので見てみるとなんと自分の手が血だらけになっていたことに気がついた。おそらくさっきの戦闘で怪我をしたのだろうと思いつつも気にせずに歩き続けた結果、無事に外に出ることができたのである。しかし、外に出た瞬間、凄まじい吐き気に襲われたので慌てて建物の陰に隠れて嘔吐したのだが、なかなか収まらない上にどんどん酷くなっていくような気がした。これは本格的にまずいかもしれないと思いながら呼吸を整えていると誰かが近づいてきたような気配を感じ取ったため顔を上げるとそこには夢幻さんが立っていた。彼女は心配そうな表情をしながら話しかけてきた。
「大丈夫?」と聞いてきたので大丈夫だと答えるとホッとした様子で胸を撫で下ろしているのが見えた。そんな姿を見て可愛いなと思うと同時に罪悪感が込み上げてきたが、それを振り払うように首を振ってから立ち上がることにした。そして改めて周りを見渡すと施設全体が廃墟のような状態になっており、人の気配が全く感じられなかったのだ。どうやら俺達以外は全滅してしまったようだと思い落胆していると不意に声をかけられたので振り返るとそこには明久の姿があったのである。
「無事だったみたいだな」と言いながら近付いてくる彼に対して頷くとお互いに見つめ合った後で同時に吹き出したことで緊張が解けた気がしたので思わずホッとしてしまう。そして俺達は笑い合いながら再会できたことを喜びあったのだった。その後、これからどうするか話し合った結果、まずはこの場所から脱出することに決めたのである。
そこでまず最初に向かった場所は地下駐車場である。その理由は簡単だ。出口を探すためである。幸いにも鍵が開いていたので中に入ってみると一台の車が放置されていることに気がつく。しかもよく見るとガソリンが入っているではないか!!これはラッキーだと思った俺達はさっそく乗り込んでエンジンをかけるとアクセルを踏んで発進させた。すると問題なく動くことが分かったのでそのまま車を走らせていると前方に人影を見つけたので一旦車を停めて様子を見ることにした。しばらくすると数人の男女が現れたのだが、その中の一人に見覚えがあることに気づいたのである。それは以前、出会ったことのある女性であり、名前は確か……山田花子さんだったはずだ。そんな彼女を見て驚いていると突然、発砲されたために咄嗟に横に跳ぶようにして避けることに成功したのだが、今のは危なかったぞ!?危うく当たるところだったじゃねえか!!そう思った俺は怒りに任せて怒鳴り声を上げたのだ。
ふざけるなよ!!いきなり撃ってくるとはどういう了見なんだ!!お前らのせいで怪我をするところだったんだぞ!!もし、避けられなかったらどうするつもりだったんだ!!まさかとは思うが、そんなことも考えずにやったのか?だとしたら大問題だな!!下手したら死んでいたかもしれないってのにどうしてくれるんだよ!? そこまで言うと俺は睨みつけるようにして相手を威嚇する。その様子を見た奴らは少し怯えた様子を見せていたのだが、それでも引くつもりはないようで再び銃を構えようとしていたのを見て俺は溜息をつく。ったく……仕方がないなぁ……。こうなったら実力行使しかないようだな!!そう判断して一気に駆け出すと、勢いをつけて殴りかかる。だが、残念ながら受け止められてしまったようだ。そのことに驚いてしまった俺は目を見開いてしまう。まさか受け止めるとは思ってもいなかったからな……それにかなり力が強いみたいだし驚いたぜ! だけど俺だって負けちゃいないんだぜ!?今度は蹴りを放つと腹部に命中させることには成功したもののダメージはあまり無さそうであったので、すぐに後ろに下がって距離を離すことにしたのだ。するとそれを見た連中は追撃をせずに様子を窺っているようだったが、俺は気にすることなく攻め続けることにしていた。その結果、少しずつだがダメージを与えることに成功していたのである。このままいけばいけると思っていた矢先のことだった。背後から何者かの気配を感じたと思ったら首に腕を回されると共に首を絞められてしまったのだ!それにより呼吸ができなくなり苦しみ悶えることになった俺はなんとか逃れようとするのだが上手くいかないばかりか徐々に力が強まっていき、このままでは死んでしまうと思い必死になって抵抗すると少しだけ緩めることができたので必死に息を吸うことで回復することができたのである。それからしばらくは動けずにいたのだが、なんとか持ち直すと振り返って拘束していた奴の顔を見るなり愕然としてしまった。なぜならそこに立っていたのは俺の仲間だったからだ!つまり、今、俺の首を締め上げているのは敵ということを意味するわけで……そう思うと急に恐ろしくなってきた俺は震えながら後退りしていくのだが、そんな俺に声をかけてきた奴がいた。そいつは微笑みながら話しかけてくる。「ねえ……もう終わりにしないかい?」そう言ってきたのは山田さんだった。彼女の言葉に戸惑ってしまうが、それでも何とか抵抗しようとしたがすぐに口を塞がれてしまう。そして耳元でこう囁かれたのだ。
「このままじゃあ君も死んでしまうことになるんだけど、いいの?」そんなことを言われた俺は迷った末に降参することにした。
俺が手を上げると満足そうに頷いた後にようやく解放してくれたわけだが……一体何が目的だったんだ?そう思っていると、後ろから声が聞こえてきたので振り向いてみるとそこには美波が立っていたのだが、その手にはナイフが握られていたのに気づいた瞬間に血の気が引いていったのがわかった。それを見た山田さんは笑みを浮かべながら言った。
「さあ、早くトドメを刺してあげて」
と言われたことで覚悟を決めたのかナイフを構える美波。それに対して俺は命乞いを始めたが、彼女は全く聞く耳を持ってくれない。そして遂に覚悟が決まったらしくナイフを振り上げたところで目が覚めたのさ。
目を覚ました後もしばらくの間、呆然としていたが徐々に落ち着きを取り戻していくうちに冷静さを取り戻すことができた俺は周囲を見渡してみることにした。するとここは俺の部屋であることがわかった。そこで安堵の息を漏らした後で時計を確認してみることにする。現在時刻は深夜の二時を少し過ぎた頃だったようだが、特に変わった様子はなかったので安心した俺はそのままベッドに横たわろうとした時に違和感を覚えたので自分の腕を確認しようとしたところで気がついたのだ。なんと、腕に注射器のような物が刺さっているではないか!!それを見て驚きながら慌てて引き抜こうとしたのだが、どういうわけか抜くことができない。どうやら何かが接着剤のようにくっついているようだった。さらに傷口からは血が流れていることもわかったため、とりあえず包帯を巻いた後にガーゼを当てることで応急処置を済ませてから寝ることにするのだった。翌日、登校してから教室に入ると中村さんの姿が見当たらないことに気がついた俺は近くにいた女子に話しかけることにした。
「なあ、聞きたいことがあるんだが……」と話しかけたら不思議そうに首を傾げてきた後でもちゃんと答えてくれたので感謝しつつ、質問をしてみることにしたんだ。
「昨日、休んだみたいなんだが何か知らないか?」
と聞いてみると彼女は首を横に振った後で教えてくれたよ。何でも、体調が悪いみたいで早退したみたいだとのことなので納得した俺はそれ以上は何も聞かずに黙って頷くと自分の席に戻ることにしたのさ。その後、授業が始まるまでの間、ボーッとしながら過ごした後に放課後になるといつものようにバイトに向かうことにした。今日は土曜日だったので普段より客が多かったこともあり忙しかったが、何とか無事に仕事をこなすことができたため少しホッとしていると高橋がやってきたのが見えたので声をかけたんだよ。「調子はどうだ?」と聞くと彼は親指を立てて見せた後でニヤリと笑ってみせる。
「悪いもどうも俺達とっくに死んでんだぜ」
「なっ?!」
「驚くのはこっちの方さ。何、お前まだ自分が生きてると思ってるの? 『調子はどうだ』じゃなくて『腐り具合はどうだ』だろ?」
「ま、待て、俺は本当に」
「あ、やば」
ドサリ、と倒れたのは俺の方だった。……な、なん、だ、これは。視界が、ぐらつく。体に力が入らない。一体、何が……いや、そうか。俺こそが感染していたんだな。
薄れゆく意識の中、最後に見えたのは高橋の顔と、そいつが握っている小さな小瓶だった。* ──ああ、最悪だ。
私は心の中でそう呟いた。目の前に広がる凄惨な光景。あちこちに倒れているクラスメイト達の亡骸を見てため息をつく。
ああ、また、間に合わなかった。
もう何度目かもわからないこのループは、いつになったら終わるのだろう?私が何をしたというのだろう?何度やり直せばいいの?何回死ねば解放される?どうすればみんなと一緒に帰れるの? そもそもどうしてこうなったんだっけ……?確か……
そうだ、確か最初は……。***
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