――泣いてるのか? 俺は一瞬そう思ったが、違った。「俺を殺す気か!」
咄嗟に彼女の腕をねじり、投げ飛ばした。
「いっつ~」と彼女は腰を押さえて痛がっていたが、こちらを見ると不満げな顔を浮かべた。
――いきなり何すんのさ? せっかく人が助けてあげたのにさぁ。
――あのなぁ、殺す気か?じゃねえだろ?危うく殺されるところだったんだぞ?というか、何でそんな物騒なもの持ってるんだよ? と、尋ねると、
「いや、ゾンビ映画観たら欲しくなったじゃん?」と言ってきた。俺は呆れ果てると、深いため息をついた。すると、安藤が話しかけてくる。
――えっと、お取り込み中申し訳ないのですが……
――あっ、すみません。大丈夫です。それで、なんですか?
――はい。まず、確認したいことがあるのですが、
「中村さんですね?」と、安藤が尋ねた。
――えぇ、そうですけど……
と、答えると、「本当にすみませんでした!!」と言って頭を下げられた。
――実は僕たちはあなたを騙していたんです。本当は僕は医者ではなく科学者で、佐藤さんも看護師ではありません。あなたを欺くために嘘をついていました。と謝ってきた。俺はそれを聞いて驚いていた。というのも、先ほどから二人の様子が明らかにおかしかったからだ。
――それで、その嘘というのは? と、聞くと、
「あなたも知っていると思いますが、ウイルスが蔓延したのはここだけではないんです。世界中で同様の事件が起きています。我々はこの事態を収めるべく動き出しました。しかし、同時に我々の命も狙われています」
俺はそれに驚きながらも話を聞くことにした。すると、安藤の口から驚くべき事実が次々と明かされた。彼らはある研究を行っていたのだという。それは"不老不死"の研究である。だが、そのために実験体にされた感染者が脱走してしまったのだそうだ。その後を追った結果、彼らは感染者を追ってこのマンションへと辿り着いたらしい。だが、そこで思わぬことが起きたのだと言う。それが俺が遭遇したような事態だそうで、
「あれは我々が仕組んだものなのです」と、彼は言った。要は罠だったわけだ。どういった理由でそんなことを行ったのかは分からないが、おそらくは逃亡を阻止するためだろう。そして、俺達のように感染した者が現れた場合は速やかに処理するようにと命令されていたようだ。俺はそれに唖然としたが、続けて質問をする。
――その話は本当なのか?
――ええ、そうです。信じられないかもしれませんが……
と、彼は答える。俺は首を横に振ると、信じますと答えた。理由は分からないが、目の前にいる男は信用できると感じたからだ。
「では、あなたも我々に協力してくださいませんか?あなたも殺されたくないでしょう?協力してくれるなら必ず守り抜きます。絶対にあなたを死なせはしません」と、彼は真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。俺はしばらく考えると、答えを出した。
――分かりました。協力します。
――ありがとうございます!
――ただ、一つ条件があるんですがいいでしょうか?
――何でしょう? と、安藤が尋ねてきたので俺は答えた。
――もしも、あなたたちが俺を殺そうとした場合、俺は死に物狂いで抵抗させてもらいますよ?
「分かりました。そうなったときは諦めましょう。ただ、その心配はありませんよ。私にはできません。もし、私がやったのならこうはなりませんからね」
安藤はそう言うと、背後で横たわっている女性の遺体に視線を向けた。
俺達はそれからエレベーターに乗って地上へと向かった。途中、美波が何度も乗り降りしようとしたため、その度に止めた。それから地上へ辿り着くと、駐車場に向かった。そこにはパトカーが何台か止まっており、数人の警察官の姿があった。どうやら、俺達が戻るまで警戒に当たっていたようだ。
「戻りました」と、安藤が言うと、警官の一人が駆け寄ってきた。そして、俺の顔を見ると「生きていたのか!」と驚いた表情を見せた。俺はそれに対して曖昧に微笑むと、そのままパトカーに乗り込んだ。
目的地は警視庁だ。
警察に向かう道中、俺は車内にて様々なことを聞かれた。もちろん、どこへ行っていたのかとか、なぜ戻ってきたのかなどである。だが、本当のことは話さなかった。何故ならば、妻が突然襲いかかってきたから殺して逃げ出したなどと言えるはずがないからだ。
――さて、困ったな……。
と、
「それで、これからどうするの? このままじゃ、私たちは殺されちゃうよ」と、美波が聞いてきた。
――まあ、しばらくは様子を見るしかないんじゃないか? と、言うと、美波は「でも、何もしなければ確実に殺されるよ」と言った。確かにその通りだが、下手に動くのは危険だと思った。俺一人が逃げ出そうとしたところで無駄な労力を消費するだけだからである。それよりもまずは現状を把握するのが先決だ。俺はそう判断した。それからしばらくして俺達は車を止めると、外へ出た。そして、そのまま歩き始める。
「ちょっと待ってよ。どこにいくつもりなの?」と、美波が声をかけてきた。
――えっ? だって、お前が一緒に来いって言うから……
「言ってないじゃん。私はついてこいって言ったんだよ?」と、彼女は言ってくる。俺はそれを聞いて呆れたが、
――いや、お前が一緒に来いって……
「そんなこと言ってないよ」と、彼女は否定してきた。俺はその態度にイラつくと、文句を言った。
――はぁ? じゃあ、お前は一体何をしに来たんだよ?
「いや、だからウイルスについて調べに……」と、彼女は言葉を濁すと、「とにかく違うんだもん!」と、言い出した。
――いや、全然違わないだろ?
「もういいから黙って!」と、彼女は叫んだ。そして、周囲を見渡すと「あっ、あそこ行こう」と、近くのコンビニを指差した。
――えっ? 何で?
「いいから行くの!」と、彼女は強引に俺の手を引くと、そのまま店内に入っていった。
「ねぇ、何食べる? 私はお菓子が食べたい!」と、美波は楽しそうにしている。俺はそれに戸惑いながらも返事をした。
――いや、今そんな場合じゃないだろ? 何でそんなに嬉しそうなんだよ? すると、美波は笑顔を浮かべながら答えた。
「だって、久しぶりに外に出られたんだよ? それに好きなものを食べてもいいんでしょ?」
――ああ、そうだけど……
「じゃあいいじゃん」と言って彼女はレジの方へ向かって歩いて行った。俺はため息をつくと、彼女の後を追った。
その後、彼女は大量のスイーツを購入した。
それから店を後にすると、マンションへ向かった。そして彼女に自殺するよう強く説得した。
「やっぱりお前を生かしちゃおけんわ。死んでほしいんだよ」
百均ショップで買ったばかりの出刃包丁を突きつけて迫る。「なぁ? ここで俺に刺されたいか? それとも自分で頸動脈を切るか? 好きな方を選ばせてやる」
「どうして?」
彼女は目に涙を浮かべて首を振る。
「頼むから。俺に人を殺めさせないでくれ。自分で逝ってくれ」

「なんで? 私が嫌いになったの? なんでこんなことするの? 」
「……」
答えられない。
そんなの決まっている。俺に惚れているから。俺も彼女が好きだから。愛しているから。だから殺す。
「答えろよ」
「なんで? 答えてよ」
「うるさいんだよ!!」
思わず怒鳴ってしまった。
ビクッと身を震わせる彼女。
「お願いだよ。俺が君を殺したことにしてくれよ」
「いやだ」
「じゃあ死ね」
包丁で一気に右胸を突いた。「ギャッ」
彼女は白目を剥いて口から血を流して死んだ。

「はい。ご苦労様でした」
安藤が俺の肩をポンと叩いた。
「いえ。それより本当に良かったんですか?」
「ええ。これで良いのです。これで我々は救われます」
安藤がそう言うと、隣にいた佐藤が頭を下げてきた。
「中村さん。本当にすみませんでした」
「謝らないでください。大丈夫ですから」
俺はそう言うと、美波を担ぐとエレベーターに乗った。そして、そのまま屋上へと向かう。扉を開けて出ると、柵に彼女を寄りかからせた。
「なぁ、知ってるか? ここはな、このマンションで一番眺めが良い場所なんだぜ」
俺は空を見上げながら語りかける。「ここから落ちたらきっと気持ちいいだろうな」
「うん」と、彼女は静かに呟く。
「あの世でまた会おうな」
俺は笑顔で答えると、彼女を後ろから抱きしめた。
それから少しの間、二人で無言のまま夜景を眺めていた。
「じゃあ、行くわ」
俺は立ち上がると、ゆっくりと彼女の背中を押した。
「バイバイ」

「ああ、元気でな」
最後にもう一度だけキスをして別れた。
それから俺はエレベーターで1階へと降りると、駐車場へと向かった。パトカーに乗り込むと、エンジンをかける。それからすぐに発進した。
それからしばらくの間、走り続けた。すると、やがて高速道路へと入った。
「どこに行くんだい?」と、安藤が聞いてきた。
「30円マンを殺しに行く。この事件を仕組んだ張本人だ。そいつを倒せばすべてが終わる」
「どうやって? 君は拳銃を持っていなかったはずだ」
「大丈夫です。俺にはコレがありますから」
そう言うと、俺は懐に隠し持っていたナイフを取り出した。
「それは……?」
「あいつの部屋にあったんです。もしかしたらと思って持ってきたんですよ」
「なるほど」
「それで、これからどうするつもりだい?」
「まずは奴の拠点を探します。そこで、奴を殺す武器を手に入れる」
それから10分ほど走ると、目的地であるラブホテルに到着した。入り口付近にパトカーを止めると、俺達は車から降りた。そして、入口へ向かう。
中に入ると、ロビーの奥にある階段を目指した。一段ずつ上っていく。途中で足を止めて周囲の様子を窺う。誰もいないようだ。安心して再び歩き出す。2階に上がると、一番奥の部屋を目指す。廊下の突き当たりまで来たところでドアを開ける。室内は薄暗く、ベッドとテレビ以外には何も置かれていない簡素な部屋だった。その中心に立つ人影があった。
俺達が入ってきたことに気づくと、その人物は振り返った。
マスクを被った男だ。
目が赤く光っている。
それが30円マンであることはすぐに分かった。ホッケーマスクを被ってホステスといちゃついている。腕には十円玉模様の刺青が3つある。30円マンこと広域暴力団三十路会の組長だ。オレオレ詐欺から殺人まで金のためなら何でもやる極道だ。成敗してやる。俺が銃を構えると、安藤は刀を構えた。
そして、30代マンは言った。
私は、あなたが羨ましい。
私は、ずっと自分の運命を呪っていた。でも、今は違う。
私は、やっと手に入れたのだ。愛する家族を。
私は、ただ幸せになりたかった。それだけなのに……。
30代マンが言った。
私は、ウイルスをばら撒き、世界中を混乱させた。
私は、私にできる精一杯のことをした。
その結果がこれだ。
私は、もうすぐ殺される。でも、後悔はない。
私は、
「この世界を憎んでいたんだ」
その瞬間、
「うおおおぉぉぉーっ!」
雄叫びを上げながら斬りかかってきた。
「うおっ!」
危ない! ギリギリのところで避ける。振り下ろされた刃が床に刺さる。刃が震えている。力を入れ過ぎたようだ。慌てて引き抜くと、俺に向かって構える。その隙に安藤が切りかかる。
「うわっ!」
だが、彼は吹き飛ばされてしまった。壁に打ち付けられる。「ぐはっ!」
吐血する。
まずい。
「死ねやこらあぁっ!!」
怒りに満ちた声を上げて襲い掛かってくる。「おりゃああああっ!!」鋭い蹴りを放つ。それを何とかガードするが、勢いが強くて後ろに下がる。そのまま後退しながら戦うが、徐々に追い詰められていく。まずい。このままではやられる。
安藤も起き上がって応戦しようとするが、彼の相手は30代マンではなかった。
「うおぉっ!!」と、声を上げると飛び掛かる。
安藤の一撃はあっさりと避けられた。「ふん」と、鼻で笑う。そして、そのまま反撃に出る。強烈な拳を腹に叩き込まれた。「げほっ!」
胃液と共に空気を吹き出してその場に崩れ落ちる。そして、さらに顔面を思いっきり蹴られた。
俺は焦った。
「安藤さん!!」「てめぇっ!」
「うるせえっ!」
「ガフッ!」今度は腹パンを食らう。そのまま倒れこむと動かなくなった。気絶したらしい。もうダメだ。俺は覚悟を決めると、「来いっ!」と、叫んだ。
30代マンが嬉しそうに微笑む。
ありがとうございます。私は、とても幸せな人生を送ることができました。
私は、ずっと不幸でした。
誰か助けて。お願いだから、ここから救い出してくれ。
「死ね」と、30代マンが刀を両手で握りしめると大きく振りかぶってきた。「はぁああっ!」
「はぁああああああっ!!!」
渾身の力を込める。
俺も負けじとナイフを振り上げる。
互いの得物がぶつかり合う。
衝撃で体が弾き飛ぶ。壁に激突する。痛みを感じながらも必死で立ち上がった。すると、目の前には血まみれの安藤がいた。「うぅ……」と、苦しそうな表情を浮かべて横たわっている。息はあるみたいだ。よかった。生きていてくれて嬉しいよ。
「よくも安藤さんを……絶対に許さないぞ……!!」俺はそう叫ぶと、
「俺だってお前を許してねぇんだよ」と、俺は言い返した。そして、続けて言った。「だけどな、ここで終わりにしよう」
「ああ」と、安藤は小さく呟いた。
「じゃあ、行くぜ」「ああ」と、俺は言った。それから俺は、懐から拳銃を取り出すと、相手の額に向けて発砲した。
乾いた音が鳴る。「やったか?」と、俺は言った。
だが、何も起こらない。
それどころか傷一つ付いていなかった。「おいおい嘘だろ?」
「無駄ですよ」と、男が言う。
「なんでだよ?」と、俺は聞いた。「なんで弾が効かないんだよ?」
男は答えなかった。代わりに、何かを放り投げてきた。俺は、反射的にキャッチした。見ると、手の中に丸いものがあった。
なんだこれ? 俺が手にしたものを確認すると、安藤が驚きの声を上げた。「そ、それは……」
安藤は目を丸くしていた。
なんだろう? と、思いつつ俺はそれを見た。すると、俺は驚いた。そこには、血塗れの百円玉があった。見覚えがある。これは、俺が持っているものと同じだ。
「な、なんだって?」と、俺は動揺して声を震わせた。
どうして? なぜここに同じものがあるんだ?
「そのナイフを渡しなさい」と、男は言うと手をこちらに伸ばしてきた。「な、何を言っているんだ?」
俺はナイフを後ろに隠すと、距離を取るために後退した。すると、男は「そのナイフは君に必要なものではない」と、言ってきた。俺は首を横に振った。「何を言うかと思えば、ふざけんなよ」と、言うと、再び近づいていく。そして、ナイフを構えると、男に向かって突進していった。
「うおおおおっ!」ナイフを突き刺す。だが、結果は同じだった。ナイフは折れてしまい使い物にならなくなる。俺は、次に懐から取り出した手榴弾を投げようとした。だが、相手が腕を伸ばす方が早かった。次の瞬間、胸に強い痛みを感じた。俺は膝から崩れ落ちた。地面に倒れると、そのまま動けなくなってしまった。
どうなってるんだ一体……。と、混乱した頭で考えていると、安藤が男に向かって歩いて行った。彼は俺のそばまで来ると、しゃがみ込んで顔を覗き込んできた。心配するような口調で言う。「大丈夫かい?」

「はい」と、俺が答えると彼は笑みを見せた。
「よかった」と言ってから立ち上がると、男の方を向く。「さあ、そいつからそのナイフを返してもらいましょうか」と、安藤が言った。
すると、男は言った。「それはできません」と、安藤の方へゆっくりと歩き始めた。
安藤は立ち止まると、静かに問いかけた。「どうしてだい?」
「私はね、ずっとこの日が来るのを待っていたんです」と、男が答える。「私の計画は成功しました」と、続ける。
「ウイルスを使って、世界中の人間を殺し合わせるつもりだったんです」
安藤は何も言わない。黙ったまま立っている。
「私は、ただ家族と一緒に平和に暮らしたかったんです」と、男は続けた。「そのためなら、どんな犠牲もいとわない」と、強く言い放つ。それから少し間を置くと、寂しげに微笑んだ。「でも、結局ダメだった。私のせいで、多くの人間が死にました。家族まで巻き添えにしてしまった」と、言ってうつむいた。
「私の人生は失敗だったんですよ」と、男は再び顔を上げると言った。
「そんなことはない」と、安藤はきっぱりと否定した。「君のしたことは決して許されることではない。でも、間違いを犯したとは思ってほしくないんだ」と、語り掛けるように話す。それから彼は、男に近づいた。刀を構えながら一歩ずつ距離を詰めていく。「私はね、あなたのような人を救いたいと思っていたんだ」と、安藤は優しく微笑んで話を続けた。「あなたには罪を犯してしまったという自覚がある。ならば、それを償うことはできるはずだ。一緒に罪を背負おう。そして、やり直そうじゃないか」と、安藤は言った。そして、刀を構えた。
「ふっ、くだらないですね」「確かにそうだね。僕達は所詮ちっぽけな存在だ。できることなんて限られている」と、安藤は同意するように言った。「でもね、だからこそ自分の人生を生きる価値のあるものにできるんじゃないかと思うんだ」と、続けて言った。そして、刀を振り上げた。「うおぉっ!」
30代マンは身構えると、向かってきた安藤の攻撃を受け止めた。激しい金属音が鳴り響く。両者はしばらく打ち合った後、いったん離れて体勢を立て直すことにした。
「うおぉっ!」と、安藤が叫びながら突っ込む。
「ふんっ!」と、30代マンは気合を入れて応じる。
2人はまた戦いを始めた。
俺は2人の戦いを見ていることしかできなかった。身体を動かすことができないのだ。痛みはないのだが、指一本動かすことができなかった。意識はあるのにまるで金縛りにあったみたいだ。「安藤さん……」俺は声にならない声で彼を呼んだ。だが、聞こえていないようだ。彼は俺を置いて先に進むつもりらしい。俺が動けないことを知ってか知らずか、どんどん遠ざかっていく。このままだと置いて行かれてしまうかもしれない。
「待ってくれ」と俺は必死で叫んだ。だが、声は出なかった。それでも何とかして伝えたいと思い、「頼む、聞いてくれ」と、繰り返し叫んだ。「俺を一人にしないでくれ」
すると、安藤は足を止めた。振り返るとこちらを見て微笑んだ。優しい表情を浮かべている。よかった。彼の耳に届いていたようだ。安心していると、彼の唇が動くのが見えて思わず息を飲んだ。
「僕はね、君のことを愛していたよ」
彼の目からは涙が流れていて、とても綺麗に見えた。
ありがとうございます。私は、幸せ者です。
俺は安藤さんを追いかけた。彼は走り去ってしまった。早くしないと追いつけなくなってしまう。
走るたびに足から血が流れる。「くっ」
止まれ、と言い聞かせても血は流れ続けている。「うっ、くぅ」
痛くて歩くことすらできない。「うぐぅ」俺はその場に倒れた。
「ああ……」俺は絶望した。もう終わりだ。もう何もかも終わりだ。
「助けてくれ」俺は涙を流して呟いた。「助けてくれ」
「助けてくれ」と俺は呟いた。だが、助けは来なかった。「ああ……」
俺の視界は霞んできた。
もういいか……。俺はもう諦めていた。「助け……」俺は、力なくそう言うと目を閉じた。
俺が目を覚ますと知らない場所にいた。
とても狭い場所だ。まるで箱の中だ。だんだん熱くなってきた。「てか、棺桶じゃねえかよ」

「え……」「おい……」「うわぁぁぁぁぁ!」「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は地獄の業火に焼かれていた。「それが報いだ。お前は30円マンを殺した」
そんな責め苦がどこからともなく聞こえて来た。
そうか。報いか。なら仕方がないな。このまま逝こう。
終わり。

「はいどーも」と声がする。どこかから聞こえる。
「ん……?」と、俺は声の主を探した。だが、見つからない。「ここだよ」と言われたので足元を見ると小さな男の子がいた。「こんにちは」
俺はびっくりした。「君は……誰だい?」俺は尋ねる。「俺は君と同じさ」と少年は答えた。そして、続けて言う。
「君は今までいろんなことをやってきた。だから、こんな風に地獄に落ちることになった」
「そうだね」俺は肯定した。
すると、少年はニヤリと笑って言った。「だけど、君はここで終わらない。まだ死んでいないから」
「どういうことだ?」俺は尋ねた。
すると、少年は「俺は君の魂だ」と、答えてきた。「なんだって?」
「今のままじゃダメなんだ」「それはどうしてだ?」
すると、彼はため息を吐いてから言った。「それは、俺が死神だって言う理由にもなるんだが」
死神?「それはどういう意味だ?」と、俺は尋ねた。すると、少年は答えてくれた。
俺は夢を見ていた。あの頃の思い出を見ている。楽しかった頃の記憶だ。俺は、父と一緒に暮らしていた。父は警察官で、よく俺に色々と話をしてくれた。
『人の生命を救うってことは素晴らしいことだ』と父が話してくれることが好きだった。俺も、そんな大人になりたいと思った。「うん、僕もその通りだと思うよ」
すると、父は笑顔になって言う。「そうだろ? でもな、世の中にはもっと大事なことがあるんだよ」
父の話は面白かった。俺の世界は広がった。でも、俺はある時、知ってしまう。父の話していた正義は間違っているということに。俺は、父のようになりたかった。でも、どうすればそうなれるのか分からなかった。俺は悩んでいた。「俺は一体何が正しいのか分からないんだ」と、俺は父と二人きりの時に話しをした。「俺はどうしたらいいんだろう」と、悩みを打ち明ける。だが、父は困ったような顔をした。そして、しばらくしてから俺の肩に手を置いた。「大丈夫、心配しなくていいんだ」と言ってくれたが、その言葉を信じられなかった。俺は父に相談を持ちかけたこと自体後悔した。やっぱり、俺なんかに聞くんじゃなかったと落ち込んでいた時だった。「俺がなんとかしてやるから、大丈夫だ」と、父が俺を励ましてくれる。「本当に?」と俺は尋ね返した。
すると、父は「本当さ」と、言って俺に笑いかけてくれた。
俺にとってそれは救いの言葉だった。「ありがとう」と俺はお礼を言った。すると、父は少し照れた様子で笑みを見せた。そして、話を続けた。「いいかい? 人は皆、自分の人生という舞台の上で生きなくてはならない」
俺は真剣な顔で話を聞いた。そして、父は言葉を続ける。「この舞台の上を、自分が主役となって生きていくんだ」
そう言ってから、「でもな、人は皆いつか必ず死を迎える」と続ける。
「つまりな、この世に生きている限り誰かの人生の一部になるんだ。そして、自分も他の人の舞台の上では主人公なのさ」と父は言った。
「そういうことだったんだね」「そうだよ」
その時、ようやく分かった気がした。この世の中は残酷だ。誰もが幸せになれるわけではない。でも、どんなに辛いことがあっても乗り越えていけるはずだと教えてくれていたことに。俺は救われていたのだ。「ありがとう」「いいんだ。ところでお前の名前はなんだったかな?」「僕の名前はね……」俺は名前を告げた。
それからしばらくした後のことだった。俺は父の命を奪うことになってしまったのだ。
俺達は走っていた。俺は、ずっと前を走る安藤さんに呼びかける。「待ってくれ! 置いていかないでくれ!」と叫んだが聞こえていないようだ。彼は走り続けていく。
やがて体力の限界を迎え、俺達は同時に倒れ込んだ。
安藤さんは立ち上がろうとするのだが、力が入らないようだ。「頼む……」と安藤さんは呟いたあと気絶してしまったようだが、「はあ……」と言うと息を吹き返し、「頼むよ」と言ったあと立ち上がったので、「大丈夫ですか」と声を掛けて手を差し伸べたが、「うるさい」と言われて振り払われてしまったのである。「ええっ」と俺は思わず言ってしまったのだが、その後、安藤さんは何も言わずに歩いて行ったのであった。
安藤さんの後を追うようにして歩いていると、いつの間にか洞窟の中に入り込んでしまったのである。安藤さんの姿は見えない。迷ってしまったのだろうか。辺りは真っ暗で何も見えなかったので、仕方なく引き返そうとしたときだった。安藤さんの叫び声が聞こえた。俺は、安藤さんが助けを求めているのではないかと思い、急いで安藤さんの元へ駆けつけることにした。「安藤さん!」と叫びながら駆け寄ったが返事はない。「どこに居るんですか!」と叫んでみたがやはり返答はなかった。安藤さんを探すべく、歩き回ってみると壁が血だらけになっていた。さらに、床にも血が飛び散っていたのだ。「うう……」といううめき声のような音が聞こえる。俺はその音の方に向かって行ってみたが誰もいなかった。だがしかし、「うう……」と今度は別の方からうめき声のようなものが聞こえるのでそっちに行ってみると、「やめてくれぇ……」という悲鳴に近いようなものが聞こえると同時に、壁に血飛沫がついたのだ。俺はその方向に進んで行くことにしたのであるが、「ああああああ」と言う断末魔のような恐ろしい絶叫を聞いた後、「くぅぅぅぅ」という苦しむような声がしたのでそこに急ぐと、地面に倒れて絶命している安藤さんを見つけた。俺は安藤さんを揺り起こそうと試みたのであったが、反応がないばかりか息すらしていなかった。安藤さんは死んだのだ。俺は悲しみに打ちひしがれていたが、気がつくと血が固まっていたのであった。
血は固まり始めていた。まるで何かで拭き取ったみたいに。俺はそれを不気味に感じたので、早くこの場所を離れようと思い出口を探した。だが、道順は覚えていなかった。だから適当に進むしかないと決めた。そして、歩き回っているうちに洞窟を抜けて外に出ることができた。だが、そこには見渡す限りの海が広がっているだけで他には何もなかった。ただ、海だけが広がっていた。そして、遠くから地響きのようなものを感じる。これは、地震だろうかと思い始めた時、大きな波が現れたのである。俺は驚いて逃げ出したが、逃げ切れず津波に襲われてしまう。俺は意識を失ってしまったのであった。
私は夢を見た。とても怖い悪夢だ。
私の目の前には私とそっくりの顔をした少女が立っている。私は恐怖を感じて逃げ出すのだが、すぐに追いつかれてしまい首を絞められてしまう。息ができない。苦しい。私はこのまま死んでしまうのかと思っていたら、突然、背後で誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。すると、彼女は驚いた表情をして振り返るとそのまま去って行ってしまい、私は助かった。いったい何が起こったのかよく分からない。だが、私はとにかく彼女を追いかけようとして追いかけた。そして、彼女に何とか追いつくことができた。だが、彼女はなぜか怯えた顔をしていてこちらを振り向いた後、いきなり襲いかかってきた。だが、またもや声が聞こえると彼女の動きは止まったのだった。すると、彼女の体が少しずつ変化していき最後には全身から白い煙が立ち上りそして消えていったのだ。私はそれを見てほっとした気持ちになった後に目を覚ました。目が覚めるとそこは病院の中であった。私は助かったのかと思ったのだが、看護師が部屋に入って来た。そして、医者と思われる人物がやって来ると、私が目覚める前に起こった出来事について話してくれたのだった。それによると私は奇跡的に助かり、今は意識を取り戻したところらしいということだった。それから数日後のことだったが、病室に警察官がやって来て私にこう言ったのだ。「君はどうしてあの場所に居たんだい?」
と尋ねてきた。「あの場所とは?」と、私は質問してみると、警察官は「ほら、あの災害が起きた時に避難するべき避難所だよ」と答えた。「えっ? どういうことですか? あれは自然災害じゃなかったんですか? それに、何があったんですか?」と、私は疑問に思って尋ねると、その警察官はとても困った顔をして答えてくれた。「実はね、あれは自然災害ではなくテロ行為だったんだよ」という衝撃的な事実を教えられたのだ。「ええっ? テロ? 一体誰がそんなことをしたんですか? 犯人はどうなったのですか」と聞いてみると、警察は「残念だけど……」と言って口をつぐんでしまうのであった。そして、私は警察によって事情聴取されたのちに解放されることとなったのである。そして、解放されたあとは、家に帰ってゆっくりと休むことにしたのであった。
だが、それからしばらくして再び警察の人達から話を聞かれることとなってしまったのである。そして、警察署に呼び出された。その呼び出しの内容は、例のテロ事件に関することだったので驚きはしなかったが、まさかまたテロリストを捕まえることになるなんて想像だにできなかったので、何だか妙な気分になる。だが、事件の詳細を聞くと、どうやらそのテロリストが、安藤さんが失踪していた間行動を共にしていた人物であることが分かったのだ。「それで?」と尋ねてくる警察官に、「いえ、それだけです」と答えておくことにする。
そうすると、警察官は不思議そうな顔をして私に「それで終わりなのか? 何か他には情報はないのか? どんな些細なことでもいいんだが……」と言ってきたが、「いえ、ありません」と、はっきり答える。「そうかい……」と、納得のいかない様子の警官はどこかへ行ってしまったので、俺は安心して家に帰ったのであった。そして、次の日のことである。「もしもし、君かね?」と、電話がかかってくる。「はい」と俺は答えた。「昨日のことについて話を聞きたいんだけど」と言われてしまったので、仕方なく俺は「話せる範囲内のことなら……」と言う。そして、話せる範囲内のことを全て話すと、「そうかい、分かった」と言って警察官は俺の電話を切った。そして、俺は一抹の不安を覚えるのであった。それからしばらくの間は何事もなく平和な日々が続いていたのである。ところが、ある日のことだ。ニュースを見ているとこんなことが放送されていたのであった。「今日未明、都内で殺人事件が発生しました。殺された被害者は女性でした」という内容で報道されている。その女性は行方不明になっていた安藤さんの妻であった。
俺はこの放送を聞いて唖然としてしまう。なぜだ? どうして、妻が殺されなければならないんだ! 俺は急いで警察に通報することにしたのだが、警察からは連絡がなかった。それからしばらくした後のことになるのだが、安藤さんが失踪していたことが発覚したのであった。そして、俺が「あの、安藤さんはどうしたのですか」と尋ねてみると、警察官から「それは……、その……」と言いづらそうにしている様子が感じ取れた。そして、「安藤さんについては現在捜索中なのですが、発見することができませんでした」という答えが返ってくる。「安藤さんは、生きているんでしょうか」と聞くと、「今のところは不明です」と返ってきて、さらに続けて「もし何か分かり次第お伝えしますので、それまで待っていてください」と言われた。
俺は、安藤さんが生きていて欲しいという願いを抱きながら待つことに決めて、安藤さんが無事であることを願う。だが、いくら経っても安藤さんは発見されなかったのだった。そこで俺は考えた末に一つの結論に達したのだ。安藤さんが生存している可能性はゼロに等しい。つまり、安藤さんは死んでいるのだ、と。俺は悲しかったが安藤さんのためにできることをしてあげることにした。それが、安藤さんの墓参りだ。だが、どこにあるのかが分からなかったために探すのは大変だったが、どうにか見つけ出すことができたのである。安藤さんのお墓の前に行くと俺は手を合わせた後に祈りを捧げた。「安藤さん、あなたのことは忘れません。どうか安らかに眠って下さい。いつまでもずっと」と言ったのである。そして、その後すぐに安藤さんの遺族に連絡を取ったのだが、誰も安藤さんの行方を知らないということで捜査を打ち切るしかなかったのだ。だが、俺はあきらめるつもりはなかった。なぜなら、安藤さんが最後に会った人物こそが事件の真相を知っている可能性があるからである。俺はそう思い立ち、安藤さんの最後の行動を調べ始めた。
俺は安藤さんが最後の行動を調査するために、安藤さんと一緒に行動していたという女性の所へ向かう。
「すみません、安藤さんの件について教えてほしいのですが……」
「安藤さんの件?」
「はい、安藤さんが亡くなった日に一緒にいた人というのは誰だったんですか?」
「えっ? 私よ」
「ええっ!? あなたが……」
「ええ、そうだけど」
と彼女は言った。俺は驚いているが冷静になって考えてみれば、彼女が安藤さんの居場所を知ることのできる唯一の人物であったから驚く必要などないことに気がつく。俺は「あー、良かった。これで解決だ」と言って安堵する。そして、すぐに彼女の方を向いて感謝の言葉を述べる。だが、彼女は急に表情を変えてしまうとこちらを睨みつけてきたのだ。いったいどういうことなんだ? そして「あんたのせいで……」と吐き捨てるように言うとその場を走り去って行ってしまう。追いかけようとしたがすでに見失ってしまった後だったので追いかけるのは諦めるしかなかった。それから数日経ったが、俺は未だに犯人を見つけることができずにいた。俺は犯人を見つけ出そうと躍起になっていた。すると、俺の携帯に電話がかかってきたのである。俺は嫌な予感がしながらも電話に出ると、その相手はなんと警察からであった。
「もしもし」
「もしかして君は、あの時の男じゃないか?」
「えっ? どうして、それを?」
「実はあの時話したことを覚えていないかな? あの時、君には事情聴取をさせてもらっただろう? そのときに聞いたんだ」
「ああ、そのことですか。覚えていますよ」
「その時に話したと思うのだが、君が助けたという女の子は君の実の娘だって言っていたよね?」
「はい、言いましたけど……
いったい何の話をしているんですか? もしかして何か事件でも起きたのですか?」
「その通りだ。実はね、その事件がようやく犯人逮捕に繋がったんだよ。それで、是非とも君にその話を伝えようと思って電話をしたわけだ」
「そうだったのですね。それはとてもめでたいことです。お疲れ様です」
「それで、その少女なのだが今は病院にいるそうだ。だから、会ってみてはどうだろうか。病院の場所を教えるのでそこに行ってくれ。ちなみに面会時間は限られているが、まぁ大丈夫だろ」
「はい、分かりました。では、早速向かいます」
「うん、よろしく頼むぞ」
と言って電話は切れてしまった。さて、行こうか。そう思って立ち上がったのだが、ふと違和感を覚える。
何なのだろう。何かおかしいような気がする。だが、特におかしなことはない。
きっと気のせいか。そう思うと出かけることにした。
病室に入っていくと娘が私に気づいて声をかけてきた。「お母さん! やっと来てくれたんだね」と言って私の元に寄ってきた。私は「ごめんね、なかなか行けなくて……」と謝った。
すると、「いいんだよ、全然気にしてない」と笑顔で言うと私の手を引っ張って「早く行こっ!」と言ってくる。
「分かった、行くわ」
そして、私は手を繋いだまま歩き出した。
だが、私はこの時妙なことが起こっていたことを感じていたのだ。そう、それはまるで時間が止まっているかのように全てがスローモーションで動いていた。そして、そのことに気づいた瞬間のことだった。目の前にあった窓ガラスを突き破って人が入ってきたのだ。その男は手に銃を持っていた。おそらくどこかのテロ組織のメンバーか何かなのだろう。そいつは「死にたくなければ俺の指示に従え」と言う。
「何をするつもりなの?」
私がそう聞くと、その男は「この研究所を破壊しに行く」と答えた。そして、「おい、お前らついてこい」と部下たちに命令した。それを聞いた部下たちは、「はい」と言ってその男の後に続いた。
だが、一人だけその場に残った奴がいたのだ。
「ちょっと待てよ」
「何だ?」
「一つ聞きたいことがあるんだが、その前に名前を名乗ってくれないか?」
と、俺は尋ねてみると、「名前は教えられんな」と答える。
「じゃあ質問を変える。何が目的だ?」
と俺は聞いてみると、「この研究所の機密情報を奪えば多額の報酬金が出ることになっている。そして、その情報を売れば俺達は一生暮らしていけるだけの金を貰えるんだ」と答える。
「そういうことなのか。だが、残念だったな。もうここにはそんな情報はないぜ」
「それは嘘かもしれない」
「なぜ分かる?」
「それは、俺たちがここへ来る前に通った道が一本しかないからだ」
「そうなのか……」
「だからここには何もないはずだ」
「なるほど。だが、俺達のやることは変わらない」
「はい」
と言って一斉に俺の方へ走ってくる。そして、俺に向かって発砲してくるが、弾が当たらない。そして、逆に俺が攻撃しようとしたその時、俺の動きが止まる。「あれ、体が動かない……」と俺は思わず口に出してしまう。「今のうちにやるぞ」と言ってその男が襲いかかってくる。そして、ナイフで俺の心臓を刺そうとしたが、「うぐっ」と言うと俺から離れていく。その様子を見ていると、俺はだんだんと自分の意識が遠くなっていくことに気がついた。そして、そのまま気を失ってしまったのであった。
気が付くと俺はベッドの上に寝ていた。「ここはどこだ?」と思ったがすぐに気づく。ここは病室のようだ。俺が起き上がると看護婦さんが「目が覚めたみたいですね」と話しかけてくる。
「はい、ところでどうしてこんな所に居るんでしょうか? 確か僕は殺されたはずなんですが……」
「殺された? はて……?……ああ、あなたは自殺されたのですよ」と言い出すのだ。俺は訳がわからず「自殺? 僕がですか?」と聞くとその女はこう続ける。
「ええ、そうですけど……。どうしました?」と心配そうな顔をしていたので慌てて首を振った後、「あー、いえなんでもありません」と言った。いったいどういうことなんだと思いながら考える。そしてしばらくして思いつく。きっとこれは夢だなと思ってもう一度眠ることにした。だが、どれだけ待っても起きることができなかったのだ。仕方ないので俺は諦めると外に出たのだ。だが、なぜか建物内の様子が変わっていたのだ。どう見ても病院ではないしそもそも建物の構造自体が違う。それに見たこともない生物がウロウロとしている。そしてしばらくすると「おい、君! 大丈夫かい!?」と誰かに肩を掴まれてしまう。
「あっはい」と返事をした後「どちら様でしょう? あと、いったいどこなんですか? ここ……」と俺は聞いたのだ。すると、「私は警察官だよ。どこと言われても警察署だけど?それと君のことは知っている。あの時は本当に助かったよ。ありがとう」と言われる。
そこで俺は思い出した。そう、あの時のことを……。「えっとあの時とは?」と恐る恐る尋ねると「覚えていないのかい? ほら安藤さんが亡くなった日だよ」と答えられた。そこでようやく思いだす。安藤さんが亡くなった事件のことだ。「そうだったんですか……」と少し暗い声でそう言うと、彼は「そうだったのか……君も被害者だったんだね。実は犯人を捕まえたのは君だったんだ」と続けて言ったのである。それから俺は警察署の中で事情聴取をされることとなった。
「まず最初に名前を聞かせてくれ」
「はい、僕は斎藤拓哉といいます」
「そうか、じゃあ次。あの時君はどうやって犯人を捕らえたんだい?」
「それがよく分からないんです。ただ犯人を殴りつけて捕まえたような記憶はあります」
「なるほど、他には何か覚えていることはある?」
「えーと、そう言えば……犯人に捕まったときに何かを飲まされたことだけは分かりましたね。でも何の薬かは分かりません」
「ふむ、そうか。では次に犯人の特徴について教えてくれるかな?」
「はい。見た目は全身黒タイツみたいな格好をしていました。顔には仮面のようなものをつけていたのではっきりとはわかりませんでしたが身長はそれほど高くはありませんでした」
「なるほど、ありがとう。では最後に確認する。君は犯人に何を渡されたんだっけ?」
「確か……変な色の錠剤でしたね」
全員細菌兵器によるバイオテロで死ぬ。
「なるほど。それじゃあ、今日はこれで終了にしようか」と言われた。
それから一週間が経ちようやく退院できるとなった。すると、安藤さんのお見舞いに行きたい気持ちが強くなった。だから、お礼を言わなくてはいけないなと考えて会いに行くことにした。だが、受付に行っても「申し訳ございませんが面会はお断りしております」と言われてしまって、会わせてもらえなかったのである。仕方なく俺は帰ることにしたのだが、その途中、美佐子を見つけたのだ。そして、話しかけようとしたが躊躇ってしまった。彼女はとても悲しげな表情をしていたからである。そのことがとても印象的であった。
そしてその次の日からまたいつも通りの日常が始まるのだった。
ただいま絶賛混乱中なのですがとりあえず状況を整理していきたいと思います! 私は、友達に「面白いものを見せてあげる!」といわれてついて行ったのですが、気がつくと周りは真っ白な世界になっていたのです。それで私が困惑していると突然声をかけられて「君の名前は何というのかね?」と聞かれたので答えたところで目の前の神様と名乗る人物が「そうか、分かった。でわ、これから能力について説明するぞ。まず、スキルというのは大きく分けて3つあるのだ。1つはユニーク系だな、そして2つ目は特殊系だ。そして、最後がノーマルだな。これらの説明は後にするとして、さて、ここで質問だ! どのスキルを選びたい?」
私は、「それなら、私は魔法が使いたいです」と素直な気持ちを伝えると、「そうなのか。それならば、【魔法使い】を選ぶがよい!」と言ってくれたので私は喜んで選ぶと決めた。
そして、ついに私は念願の職業につくことができたのだ。
すると、目の前の神様は私に向かって「では、次はステータスの説明をするから、心して聞いてくれ。いいか、よく聞くのだぞ?」と言ってきたので私はしっかりと耳を傾けました。
「まず、レベルだがこれは、簡単に説明すると敵を倒すことであがるのだ。そして、レベルを上げることによって様々な恩恵を得ることができるようになる。たとえば、身体能力の強化とか魔力量の増加とかだな。そして、最大が100で最低が1なのだ。さらに、レベルが上がるごとにポイントが与えられてその数値を使って自由に割り振ることができるのだ。例えばだが、力を強化したければその分体力を消費しなければならないが筋力を強化すれば力は強くなるといった感じだな。ちなみにレベルの上限は無いのだ。ただし、限界を超えることはできないのだ」
そして、「そしてここからが本題だ」と言って真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「この世界の全ての人間はレベルが99になることができない。なぜならこの世界で死んだ者は魂ごと消滅してしまうからだ。つまり、いくら敵を倒そうともレベルアップすることはできない。しかし、例外がある。それは異世界転生者だ。この者たちはこの世界でも死んでも元の世界に戻ってこられるのだ。もちろんレベルが99になることはないがな。だが、異世界から召喚されるということはすなわち神の使徒であることに変わりないのだ。だから、その者の経験値は全て自分に入ってきて、なおかつ成長スピードも段違いとなるのだ。さらにもう一つ特典があり、これは神が選んだ人物にしか与えないものだ。その内容は『無限収納』と呼ばれるアイテムボックスのことだ。これはどんな大きさのものだろうと重さだろうと全て入れることのできる代物だ。しかも入れたものは時間が止まっているので腐ったりしないし劣化したりもしないので非常に便利だ。それとついでだが言語理解と文字変換の技能を与えよう。これがあれば言葉の問題は解決するだろう」と言ってくれる。だから、
「神様、本当に色々とありがとうございます」と言って深々と頭を下げた。すると、「良いのだ。気にすることなど無い。それより早く行くが良い」と言われてしまったので、急いで転移門を開くと飛び込んだのであった。
するとそこは草原のような場所だったので少しホッとした。ただ周りには何もなくて少し寂しい気はするが……。
そんなことを思いながら、辺りを観察していると突如モンスターが現れたので、慌てて構えるといきなり襲われるのだった。そして私は咄嵯に避けるとその攻撃をしてきた相手をじっくりと見るとスライムだとわかった。なので、落ち着いてから剣を構えると斬りかかるが、避けられてしまう。そこで、私は「避けれると思ってるのかしら?」と小さく呟くと一気に距離を詰めると首をはねるのに成功した。すると、光の粒子となって消えたので、私は驚いたものの冷静になるとドロップアイテムを確認してからその場を後にしたのだった。
こうして初めての戦闘を終えた後、私は街を目指して歩いていくのだった。
街に向かっている最中にモンスターと何度か遭遇したものの問題無く対処できたので安心した。それにしてもここはどこなんだろうか? 全く知らない場所に一人でいることは少し怖いなと考えていると、前方で悲鳴が上がった。慌てて向かうと、そこには巨大なオークがいたのだった。そして、その周囲には血まみれで倒れている人たちが何人もいたのだ。それを見た私は急いで助けなければと思ったのだが、どう考えてもあの化け物に勝てるイメージがわかなかった。そのため、まずは応援を呼ぶことに決め、ギルドカードを取り出すと通信機能を使用するために魔導具を操作すると、「プルルルル」という音とともに相手が応答したので私は「こちら冒険者です! 至急応援お願いします!」と言うと、しばらくして「わかりました。すぐに向かわせます」と返事が来たので、そこで通信を切った。それから待つこと5分ほどすると「今、そちらへ向かいます」と言われたため、再び通信で連絡をしてから待機することにした。
すると間もなくして大勢の人がやって来たので、私は彼らに「助太刀に来た! お前たち下がっていろ!」と指示を出すと彼らは私の言う通りに動いてくれた。それを確認すると私は「よし、これで思う存分戦えるな」と言ってからオークに向かって駆け出した。
俺は今、美佐子と二人で買い物をしている。そして、その途中で美佐子がトイレに行きたいというので近くのコンビニに入ることにした。すると中に入った瞬間、何か違和感を感じたのだが、それが何かは分からなかった。なので、とりあえず無視して美佐子の用事を済ませて外へ出ると再び先程の感覚に襲われる。そこで俺はハッとする。これは前にもあったあの感覚だ。そして思い出す。安藤さんが亡くなった時のことを。俺はすぐに店を出ると走って警察署へと向かった。
すると署の前にはパトカーが何台か止まっていたので近寄って話を聞いてみると、なんでも強盗が入ったらしい。そして今は犯人を追跡中であるようだ。
それを聞いた俺は焦った。なぜなら、もしもここで強盗が逃げれば細菌兵器を使ったバイオテロが行われるからだ。だから一刻も早く捕まえる必要があると思い俺達も協力を申し出たのだがあっさりと断られてしまった。それでも諦めきれなかったので、しつこく食い下がったところ渋々了承してもらえたので早速俺たちは動き出すことにした。そしてまず最初に手分けをして周辺の住民に警戒を促すように伝えた。
すると、それから数分も経たないうちに遠くの方から銃声のようなものが聞こえてきた。
そして次の瞬間、「キャー」
という女性の悲鳴が響き渡った。
それを聞くと俺は、安藤さんの声に似ているなと感じたが、おそらく違う人であろうと考えた。だって彼女がこの世にいるはずがないから。そう思ってから気を取り直すと急いで現場に向かった。そして、到着した時に目にしたのは地獄絵図だった。
警察官の死体や怪我を負って倒れている人達が大勢いてとても悲惨な光景が広がっていた。
すると、さらに追い打ちをかけるかのように今度は銀行へと押し入った。
そして中にいる人間を次々と襲っていく。だが、その中には若い女性も含まれていたので思わず見入ってしまった。だが次の瞬間、突然女性が苦しみ始めたので、すぐに女性のもとへ向かうと首筋を見てみたら小さな斑点が現れていたので、これは不味いと思い、すぐさま病院へ運ぶように指示を飛ばすと同時に俺はその女性を抱え上げて全速力で走りだしたのだった。