今、空は、愛犬ミルクが残した子犬の名前を考えていた。
「そうだ!君の名前はハルにしよう。」
ミルクは唯一、一人の空に寄り添ってくれた親友であり家族でもあるからミルクが最期に残してくれた宝物の名前を決めるのは数十分かかったが、何とか名前が決まって空は1日中悩まなくてよかったと思いながらハルの頭をなでた。
翌日からミルクが蘇ったように楽しい毎日が戻った。ハルは、ミルクみたいに無邪気で、元気だからミルクと暮らしていた時とあまり変わらない暮らしを送った。
ある日、空はハルの異変に気が付いた。
その異変は、ボールなどのおもちゃが全く汚れていないのだ。
心配になった空は動物病院に行くと、獣医が、
「犬なんてどこにもいませんよ。他の患者が待っているので申し訳ございませんがお帰り下さい。」
と言われ、空は仕方なく帰った。
しばらくして、ある噂が立ち始めた。
空がハルを連れて散歩していると、他に散歩をしている人が、
「あの人よあの人、毎日、幽霊の犬連れて散歩してさ、幽霊の犬の道連れ探してるんだってさ。最近は物騒な奴がいるね。」
「まあ怖いわね。私も気おつけなくちゃ。」
と会話をしているのが聞こえ、気分が悪くなった空は、
「ハル、早くいこ。」
と言い、いつもより早く散歩を終わらせた。
数日後、その噂が空が住んでいる近所にまで知れ渡り、空は嫌われ者になってしまった。
空が外に出ると、
「近ずくんじゃないよ。うちの息子が道連れにされちゃ困るよ。」
と言われ、水をかけられた。
それから間もなく空は引きこもりになってしまった。
でも、空は寂しくなかった。
ハルがいるからだ。ハルはミルクのように空に寄り添ってくれたのだ。
そんな楽しい毎日を過ごしていたある日、郵便受けに、大学の1カ月前に行われた第1試験通過の手紙が入っていたのだ。
大学の試験は第2試験まで。この試験を通過したら、大学に通えるが、今の空は、今の生活に慣れてしまったので、空はもうあきらめかけていたが、ハルが、状況を察したのか、空の腕を引っ張りながら外に出ようとした。
「やめてよ。いいよ。」
と、空が嫌がるが、仕方なく試験会場に行き、試験を受け、早めに家に帰った。
数日後、郵便受けに、試験合格の通知が届いたのだ。
空はうれしかったが、不安もあった。ハルのことだった。
ふと、ハルのいる方を見ると、ハルがいなかった。
「ハル?」
空がいくら探してもハルは見つからなかった。
きっとどこかに隠れているのだろう。そう思いながら、空は、翌日から、大学に通った。
数年後、空に彼氏ができた。
ある日、大学の帰りに、ミルクとハルのことを話すと、
「ハルは、空に勇気を出して変わってほしかったんじゃないのかな。
それで、空が心配しないように、どこかに行ったんじゃないかな。」
と、彼氏が言ってくれた。
そのとき、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
「えっ。」
空が驚いてその鳴き声のする方を向くと、うり二つの子犬が、遊んでいた。
「ミルク、ハル。」
空が恐る恐る近づくと、二匹の子犬が、走ってきた。
すると、「やっと見つけた。」と、1人の女性が近づいてきて。
「すみませんこの子たちペットショップから逃げ出しちゃって。」
と、言うと、
「この子たち、可愛いけど、買おうとした人にかみついちゃって、だから、どんどん値下がりしちゃって今2匹合わせて1000円なんですよ。困った子たちですよね。」
と言ってペットショップに子犬を連れて帰ろうとしても、子犬が暴れて帰ろうとしないので、空が、
「私がここで買いましょうか。」
と言うと、女性が嬉しそうに、
「ありがとうございます!」
と、何度もお礼をし、ペットショップへ行った。
「いいのか、その犬買って。」
と彼氏が言うと、
「うん。この子たち見てたら、ミルクとハルに見えてきちゃったから。」
と、空は言った。
家に帰って、子犬を家の中に放すと、子犬は嬉しそうにしっぽを振って、家の中を走り回っていた。
「やっぱり名前は、ミルクとハルに似ているから、ミルクとハルかな。」
というと、ミルクとハルはより嬉しそうに家の中を走り回った。
「ミルクとハルは慣れないこともあるけどこれから頑張ろうね。」
と言ったら、ミルクとハルは首を傾げた。
まるで前からこの家に住んでいるように。