俺は彼女の目に焦点を合わせ、その表情を目に焼き付けてみた。
「なんだよ、その微妙な表情は……」
「いや、君には特別な研究について話しているところで……」
俺はそこでハルシオンの話が気に食わないことを理解した。この研究、ハルシオンの興味は俺の研究だけで、彼女の興味はこちらではないということだ。
「何、言ってるんだよ」
ハルシオンは俺の声を遮るように話し出す。
「研究は君のものでしょ? 誰かに聞いたって教えてはくれない、それは君のはずだと思って……」
ハルシオンはそこまで言ったが、俺には彼女が話すのを待っているように思えた。
すると、ハルシオンは何か考えた後、俺に告げた。
「お母さんに相談しない?」
「え?」
ハルシオンはそれから、こう続けた。
「『お母さん、もし君がお腹の赤ちゃんに危害を加えられたらどうする? 』何て普通、訊くか?その時の反応でだいたいわかるでしょ」
俺は彼女によって俺の研究のことを聞かされたのに、その後も研究について話したり、母親の反応について話すと、ハルシオンに突っ込まれるというのは初めてであった。
「僕にも教えてくれ。僕はどうしたら良いかな?」
「そうね……」
彼女は少し悩んだ後、真剣な表情をして
俺を見つめ、こういった。
「あなたの子供には、幸せになって欲しい」
「それは、あなたの研究を認めることにつながる」
俺は、
「そうだね、きっと君は研究を続けるでしょう」
そう答えると楽になった。
ハルシオンの母親は娘の研究に反対するどころか期待していた。
ただ、ハルシオンは俺の付き合いを優先してくれる。
それが何より嬉しかった。
それが本意でなくても嬉しかった。
俺達はロンドンからマンチェスターに移動して母親に連絡をとった。というのも公私混同の強制というか少々、個人的に込み入った状態になるからだ。
俺の新しい仕事場は寮付きでオプス先生の研究室に併設される。すると法的にややこしい問題が発生する。
メッセンジャーが中立性を侵して魔導通信工学者の研究室に住む必要がある場合は、その親族を含めたセキュリティ審査に合格しなければならない。
魔導査察機構は魔法省庁と独立した第三者機関で召喚魔法、千里眼、サイコメトリーなど魔法とプライバシー保護の両立をはかっている。
ハルシオンの研究は特に人間の情動を扱うデリケートな分野だ。家族関係も影響する。
だから俺はハルシオンの母親と会う羽目になるのだ。
何だかドキドキするなあ。
エリファス・エイヴァリーは娘より快活明朗だった。
俺たちは早速彼女の自宅へと向かった。
エリファス・エヴァンズは娘とは違い、大柄な体型をしていた。
ハルもかなり体格が良い方だがそれ以上だ。
俺達を応接室へ通すと、紅茶やお菓子などを準備してくれた。
彼女は自分の仕事が終わったらしく、すぐに娘の元へ戻ると言って立ち去った。
俺とハルシオンは二人きりになったのを見てお互い顔を合わせ苦笑いをするしかできなかった。
ハルシオンは何とも言えない空気の中で口を開いた。
「ねえ……あの子には私から伝えるわ。
それで、大丈夫かしら」
ハルシオンは自分の研究を認めてもらえないのではないかという恐れを感じているようだった。
確かに、認めてもらえないということは今まで経験したことがなかったかもしれない。何しろ年頃の娘が男と住むのだ。
しかしハルシオンは、自分の母親から認めてもらえないということを恐れていた。
それもそのはずで、自分よりも研究を優先することを知っているからだ。
だから、ハルシオンが自分の研究成果を認めてもらおうとするのは至極当然のことである。
「なんだよ、その微妙な表情は……」
「いや、君には特別な研究について話しているところで……」
俺はそこでハルシオンの話が気に食わないことを理解した。この研究、ハルシオンの興味は俺の研究だけで、彼女の興味はこちらではないということだ。
「何、言ってるんだよ」
ハルシオンは俺の声を遮るように話し出す。
「研究は君のものでしょ? 誰かに聞いたって教えてはくれない、それは君のはずだと思って……」
ハルシオンはそこまで言ったが、俺には彼女が話すのを待っているように思えた。
すると、ハルシオンは何か考えた後、俺に告げた。
「お母さんに相談しない?」
「え?」
ハルシオンはそれから、こう続けた。
「『お母さん、もし君がお腹の赤ちゃんに危害を加えられたらどうする? 』何て普通、訊くか?その時の反応でだいたいわかるでしょ」
俺は彼女によって俺の研究のことを聞かされたのに、その後も研究について話したり、母親の反応について話すと、ハルシオンに突っ込まれるというのは初めてであった。
「僕にも教えてくれ。僕はどうしたら良いかな?」
「そうね……」
彼女は少し悩んだ後、真剣な表情をして
俺を見つめ、こういった。
「あなたの子供には、幸せになって欲しい」
「それは、あなたの研究を認めることにつながる」
俺は、
「そうだね、きっと君は研究を続けるでしょう」
そう答えると楽になった。
ハルシオンの母親は娘の研究に反対するどころか期待していた。
ただ、ハルシオンは俺の付き合いを優先してくれる。
それが何より嬉しかった。
それが本意でなくても嬉しかった。
俺達はロンドンからマンチェスターに移動して母親に連絡をとった。というのも公私混同の強制というか少々、個人的に込み入った状態になるからだ。
俺の新しい仕事場は寮付きでオプス先生の研究室に併設される。すると法的にややこしい問題が発生する。
メッセンジャーが中立性を侵して魔導通信工学者の研究室に住む必要がある場合は、その親族を含めたセキュリティ審査に合格しなければならない。
魔導査察機構は魔法省庁と独立した第三者機関で召喚魔法、千里眼、サイコメトリーなど魔法とプライバシー保護の両立をはかっている。
ハルシオンの研究は特に人間の情動を扱うデリケートな分野だ。家族関係も影響する。
だから俺はハルシオンの母親と会う羽目になるのだ。
何だかドキドキするなあ。
エリファス・エイヴァリーは娘より快活明朗だった。
俺たちは早速彼女の自宅へと向かった。
エリファス・エヴァンズは娘とは違い、大柄な体型をしていた。
ハルもかなり体格が良い方だがそれ以上だ。
俺達を応接室へ通すと、紅茶やお菓子などを準備してくれた。
彼女は自分の仕事が終わったらしく、すぐに娘の元へ戻ると言って立ち去った。
俺とハルシオンは二人きりになったのを見てお互い顔を合わせ苦笑いをするしかできなかった。
ハルシオンは何とも言えない空気の中で口を開いた。
「ねえ……あの子には私から伝えるわ。
それで、大丈夫かしら」
ハルシオンは自分の研究を認めてもらえないのではないかという恐れを感じているようだった。
確かに、認めてもらえないということは今まで経験したことがなかったかもしれない。何しろ年頃の娘が男と住むのだ。
しかしハルシオンは、自分の母親から認めてもらえないということを恐れていた。
それもそのはずで、自分よりも研究を優先することを知っているからだ。
だから、ハルシオンが自分の研究成果を認めてもらおうとするのは至極当然のことである。