それを聞いてオプスは何か閃いたようだ。「あの法具よ!ほら、グルッパに与えたあの魔法具。あの時ハルシオンは何と言ってたか覚えてる?」
俺は翡翠タブレットに駆け寄り、監視カメラ映像の記録を再生した。
「しかし、このペンダントは呪力消費が激しいから注意しろよ。下手すりゃすぐにガス欠になるからな。それと、地縛霊以外のモノに憑依したらすぐバレるからな。あと、憑依された奴にも影響が出るから要注意だ。そこら辺をうまくやってくれ」
彼女はグルッパに向かってそう説明している。
「すぐにガス欠、地縛霊以外の者が憑依?! そうか、魔法具の効力が切れて何か得体の知れない物がグルッパになりかわったんだ!」
俺がそう推理した。
「それよ。私たちを、英国を滅ぼそうとしている悪霊がいるのよ。その手始めに私たちを嵌めて仲たがいさせようと企んでいる!」
オプスが慌てて出かける支度を始めた。悪魔祓いの道具や銀の武器などものものしい。
「何処へ行こうというんだ。心当たりはあるのか?」
ディック氏がおっとり刀で準備する。
「ハルシオンの地下研究室よ。あの子に危険が迫っている。それも敵の術中よ。私達が助けに来ると思ってあの子に何か仕掛ける筈」
「そんなこと、絶対に許さない!」
ヒステリックな声に振り向くとエリファスが青筋を立てていた。「わたしの可愛いハルシオンに何かあったら悪霊だか死神だか知らないけど八つ裂きにしてやるから」「落ち着け。俺達も行く」
俺はエリファスを宥めた。「大丈夫よ。あの子は強いもの。それに、私には最強の守護霊がついているの」
エリファスは胸を張った。「オプス教授も来てくれるのか」とディック氏が訊いた。
「もちろんよ。と、いいたけど、ディック氏はノースとサリーシャを探してほしいの。悪魔祓いは魔道査察官の専門外でしょ?」、とオプス。
「ああ、わかった。セキュリティーポリスに出動を要請しよう。すぐに二人を保護してくれるはずだ」ディック氏はそう言うとノースを呼びに部屋を出て行った。俺達はメルクリウス寮へと急いだ。
メルクリウス寮は相変わらず幽霊屋敷だった。
俺達は寮の中に入ると、まずはエリファスの私室に入った。
エリファスの部屋は片づけが行き届いていて、きちんと整理整頓されている。「ハルシオンがここに来た形跡はないな」
俺がざっと部屋を見回す。
何かを探したり持ち出した形跡はなさそうだ。
次に俺達が向かったのは寮の管理人室だ。
「おお、あんたらか」
現舎監のグスマンが俺達に声をかけてきた。「ここ最近、このあたりをウロチョロしている怪しい男を見かけたことはないかい? 背の高い若い東洋人で、黒ずくめの格好をしている。顔は仮面をつけていてわからない」
俺はそう説明してグスマンの出方を窺った。
「ん~、見たような見なかったような…… あ、そうだ、思い出したぞ。確か数日前、深夜遅くにそいつを見たような気がする」
「本当か!どこでだ?」
俺は思わず身を乗り出して尋ねた。
「ええっと、あれは三日前の夜中だったかなぁ」
グスマンが記憶を辿る。俺達はグスマンの話を聞くことにした。「いや、俺だって最初は変だと思ったよ。だけど、なんかこう、様子がおかしかったからな」
グスマンは頭をポリポリと掻いた。「何しろ、真っ暗なのに電気をつけようとしないし、ずっと独り言をブツブツ呟いているし、なんだか気味が悪くなって、俺は怖くなっちゃって逃げたんだよ」グスマンはそう言って肩を落とした。「だけど、なんでこんなところにいるんだろうね。ここは寮の敷地だし」