「オプス教授、私達は一体どうすれば良いのでしょうか」
俺がオプスに聞くと、彼女は答えた。「私達は、エリファス様を信じましょう。」オプスがそう言うとディック氏とオプスは俺を見た。
「そうだな、俺が間違っていた。エリファスは俺の妹だ。信じなくてどうする」
「私もエリファスのこと、信じるわ」
俺達はオプスの言葉を聞いて安心した。「では、誰を信じるかという話になりますが…」ディック氏は言いにくそうに切り出した。
「だいたいどこの馬の骨ともわからない匿名の告発を間に受ける方がおかしいですよ」
俺がエリファスを擁護する。何しろ彼女はハルシオンの母親だ。信じる信じない以前の問題だ。
「だけど、添付してあった領収書にはノースの署名が入っていたの。パルスマギメーター機器メーカーと会食した時のものよ。動かぬ証拠だけに頭が痛いわ」とオプスがため息をついた。
「サインは偽造できます。領収書ってそれ、学者カフェのものですよね? だったら真犯人は割と身内にいるかもしれませんよ」
俺はそう指摘した。「すると容疑者がかなり絞られてきます。この中の誰かが嘘をついていることになります。まさか…」
「それはありえない。断固としてありえない」
俺はディック氏を遮った。ハルシオンを疑うなんて愚かなことだ。だいたい、彼女に何のメリットがあるのか。金や名誉とは一切無縁の女だ。
「と、なると、該当者は唯一人しかいない。それを君は受け入れられますか」
ディック氏は苦虫を嚙み潰したような表情で俺を睨んだ。「辛いでしょうから私が代理で申し上げます」とオプスが口を開いた。
「ええ。構いません。口が裂けても俺からはその名前を出せませんよ。大切な人を売ることになるのですからね」
俺は引き裂かれる思いでその名を聞いた。
「あの時、エリファスに嚙みついていた人物といえば、サリーシャ」オプスの口から発せられた言葉に俺は絶句しそうになった。
「ええ、そうです」とディック氏が答える。
「やっぱりそうなんですか?」とオプスが言った。「ええ、間違いありません」
「どうしてそんなことを!」と俺は思わず声を上げた。
「メルクリウス寮の解体はハルシオンが言い出したことです。サリーシャはそこの舎監でした。彼女にとって寮生たちは我が子も同然。計り知れない思い出が詰まった建物です。いくら老朽化で建て替えが必要だと言っても霊的汚染がひどくなったからという理由は納得できないでしょう。もとはと言えば魔導査察機構が幽霊退治を先送りしたのが悪いのです。だから、サリーシャはでっち上げで魔導査察機構に復讐しようとした」
オプスが言った。「だからといって自分の息子やハルシオンまで巻き添えにするでしょうか」
ディック氏は異議を唱えた。そこで俺はサリーシャの気持ちを代弁した。自分の母親だけに手に取るようにわかる。
「サリーシャ――俺の母は俺に対して淡白なところがありました。なにしろ暴力夫の息子ですからね。俺が生まれてすぐに分かれたそうですけど。で、実家よりメルクリウス寮に泊まることが多かった」「でも、あなたはいつも楽しそうだったわよ」とオプスが言う。
「それは母さんのおかげさ」俺はそう言ってから続ける。
「俺が物心つく前に離婚したから、俺の記憶にあるのは母さんの笑顔だけだ。確かに俺の顔はDV夫似ですよ。でも俺は性格までねじくれていない」
「フムン」
ディック氏は首をひねった。「確かに君はまっすぐで一生懸命だ。ハルシオンに相応しい相手だと俺も思ってる。君みたいな立派な息子さんを産む女性がでっち上げなんかするかね」