「みんな、どうして学校に通えるの? 通える理由ってある?」
「……通える、理由?」
「そ。わざわざ勉強をさせられて、トラブルが日常茶飯事な場所に通える理由。みんな友達といるのが楽しいから、好きな人に会いたいーとか、そういう答えしかなかったから」

 一体なぜそんなことを聞くのかは分からなかったが、それを聞ける気力は私にはなかった。
 働かない頭を必死に動かしてから、こんな質問にそんな真面目な回答をする必要はないのだということに気付く。

「……ないんじゃない? そんなの」
「え?」

 彼は意表を突かれたような顔をしていたが、私は言葉を挟ませないように一気に話した。

「みんな学校なんか来たくないよ。理由? そんなのあるわけない。来る理由はあるかもだけど、通える理由とか、よくわかんない。通える理由ってどういうこと?」

 自分で言いながら、なにをいっているのか分からなくなってくる。

「多分、みんな通いたいなんて本心から思ってない。絶対、朝靴を履く前に『学校行きたくない』って思うよ。そう思わないなんて、小説に出てくるみたいな青春を過ごしてないと無理じゃん。そういう大それたものはないけど、通わなくちゃいけない理由があるから、通う。なんか、自分でもよくわかんないけど、これだけは言えるから」

 段々と瞼が重くなってくる。抗いようのない睡魔とはこのことなのだろうか。

「みんな、学校なんかきたくないよ……やだよ、こんなところ」

 そこまで言って、私の視界は完璧に真っ暗になった。
 私が目を覚ましたのは十何分かたった頃。母が私を迎えに来た頃だった。

 その時にはもう、先ほどの男の子の姿はなかった。