どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しいーーそんな自分が、大嫌いだ。


薄暗い空の下、みんなが笑いながら駆けてゆく。私も駆けてゆく。
みんな輝いている。私も輝いている。
でも、その駆ける足や、輝き方は、私とみんなとで、全く違う。  あの時から。

日常

「おはよー奏!」
「おはよ、茉衣。」
「奏~今日提出の課題できた?私ねーやったんだけどほぼ分かんなくて~もーマジだるい~てか、私今日当てらんないかな?当てられたらマジ最悪なんですけど~。」
彼女は工藤茉衣、高校2年生で、私の一番の友達だ。天真爛漫な性格故に、男子からも女子からもとても人気がある。
、、、まぁ、一部の女子にとっては恋敵だが。
そのとなりにいる私、朝原奏、同じく高校2年。特に何の特長も無いが、それなりに楽しく生きている。
「ね、課題ムズかったよね、私も苦労したよー
一問解くのに10分も掛かっちゃった。」
「えぇー!でも終わったんだ?いーなー頭良くて、奏には一生分かんない人の気持ち分かんないんだろうな~」
「そんなことないよ、ちゃんと授業聞いてたら大丈夫!」
「てか、多分ね、今回の課題、応用問題が多かったから難しいかったんだと思うんだよね。」
「そーなんだー。でも、確かに言われて見れば、、、」
「でしょ、てか、ヤバい!早くいかないと遅刻しちゃう!」
「マジ?急げ~!走れ~!」
私たちは急いで学校へと走る。
でも、私には、やっぱり足の軽さというか、走り方というか、とりあえず、何かが茉衣と、みんなと違う気がする。
「間に合った~!!」
「はぁはぁ、よ、良かった。あ、後3分ある、準備できるよ!」
なんとか学校にたどり着いた。
でも、走った後の姿は、私と彼女とで、全く違う。
それは、物理的にも、心理的にも。

再会の夕日

キーンコーンカーンコーン
その後、なんとか準備も済み、ギリギリで授業に間に合った。
それからは、特に何事もなく学校を終えた。
「奏!ごめん!今日、急に部活の振り替えが入っちゃって。一緒に帰れない!ほんと、ごめん!、マジごめん!」
「そっか、ううん、全然いいよ!陸上、頑張って。」
「うん!ありがとう、頑張ってくるね!」
「いってらっしゃい」
「いってきます!!」
と言い、彼女は軽々と廊下を駆けてゆく。
ああ、なんと美しく足を動かすのだろう。
同じ人間のはずなのに。なんだか羨ましく、時に憎く思えてしまう。
「、、、帰るか。」
これ以上、学校にいても特に良いことはないだろうし。
そう思い、通学カバンを手に取り、教室を出る。
すると、教室の外に思いがけない人物の姿があった。
「叶翔~今日さーこの前言った奏って子いるじゃん?あの子のせいで学校遅刻しかけたんだよね~。もーまじだるい。あいつなんなの?調子乗ってる?」
「ちょちょ、言い過ぎだって、茉衣!まぁ、あの子、顔は良いんだけど、ちょっとウザいよね。ま、でも、そんなことがあったんなら、あいつ、ボコしてもいいけど?茉衣のためなら。」
「マジ?やったーありがと!今度あったらってもーらお。」
「おけ!任せといて。てか、早く行かないと時間ヤバい!」
そう言い、焦った様子で彼女たちは玄関の方へ駆けていった。
、、、茉衣、そんなこと思ってたんだ。でも、実際、前から何か反応がおかしいと思っていた。話しかけても乗らない態度で。
まぁ、もういいや、いつもの事だ。
あの時から、私は人との付き合い方も分からなくなっていた。
それが原因で、いろんな子に迷惑をかけて、いろんな子を傷つけて、いろんな子が離れていった。
私が、下手だから。私が、頑張らなきゃ。
拳を握りしめて、茉衣たちがいなくなった玄関に向かった。靴箱から黒色に、白のラインが入ったスニーカーを取り出す。
スニーカーを履き、そのまま校門を出る。
歩いて5分程が過ぎた頃だろうか。
私は、10mほど先の公園のベンチに座っている、ある男の子が目に留まった。
その子は、私より少し背が高めで、おそらく大学生ぐらいだろう。
でも、私はあの子に見覚えがある。
目線に気付いたのか、その子(人?)は不意にこちらをむいた。
ーーーー!
その瞬間、息がとまった。
「…!か、なで?…」
「…紫音君?」
ああ。やっぱりそうだ。
紫音君だ。
紫音君は、私の幼馴染みだ、、、った。
私と彼は、幼稚園卒業以来、一度も会っていない。恐らくもう10年ほどは顔をみていないだろう。
当時、私達はとても仲の良い、親友同士だった。
だから、離れてから、何度もお母さんに、会わせて、一緒に遊ぶ約束をして、って頼み込んだ。
お母さんは、小学3年生ぐらいまでは、ちゃんと誘ってくれていたが、その度に紫音君の予定が被り、会うことが出来なかった。
その事に、私は悲しかったが、仕方の無い事だと思い我慢をしていた。
でも、小学校高学年にもなると、お母さんは諦めたのか、私が時々話を振っても聞き流すだけ。実際に連絡はしていないだろう。
それから、会えない日々が続き、いつの間にか楽しかった日常を忘れ、手や足の動かし方、友達との話し方、それら全てを忘れてしまった。
それから、6年経ち、今に至る。
「っ、、、来るなっ!」
私が紫音君の方へ走り出した瞬間、紫音君は、冷たい、どこか怒り荒いだ声で、そう言い放った。
「ずっと、、、ずっと会いたかった!」
俯いて、立ち上がった紫音君は、その声に驚きピクッと肩を上げ、振り返る。
「なんで、私を突き放すの?なんで、私から逃げるの?今も、昔もそう。紫音君は、私が嫌い?私からそんなに、、、離れたいの?」
「っ、私は!紫音君と離れてから、自分が分からなくなった…。もう、どうやって足を、手を動かしてたのか分からない!どうやって口を動かしてたのか…どうやって生きてたのか···。」
紫音君は、咄嗟に出てしまった心ない、でも、私の本音を聞いて、拳を握って、振り払う。
「俺だって、俺だって、」
泣き崩れながら、駄々っ子のように繰り返す。
「…俺だって!一緒にいたかった!同じ学校に通って、同じ道歩いて、同じ場所行って、同じように卒業したかった!」
その言葉を聞いて、私はとても後悔した。
なんで、さっき私はあんな酷い事を口にしてしまったんだろう。なんで、なんで、、、
でも、それと同時に、とても嬉しかった。紫音君が、私と同じ思いをしていたなんて。
「紫、音君。私も、私もずっとずっとそう思ってた!だから、紫音君が、私と会ってくれなかった事が悲しかった。悔しかった!」
「それは、、、母さんだ。俺の母さんが、奏と会うなって。奏と会ったら嫌われるって。ずっと女の子と居たら嫌われるって、、、それを理由にしちゃいけないけど、言うことを聞くことしか出来なかった、、、」
「奏を、、、奏を、信じてたのに、、、ごめんな、ごめんな、、、あの時俺が、そんなことないって、言い返せれば、、、」
「辛かったよな、ごめんな、、俺、知ってたんだよ、奏が変わったって。高校近いからさ、よく噂回ってきてたんだよ。隣の高校の、2年の女の子の様子がおかしいって、紫音君っ、紫音君って呟いてるって。」
「だから、助けなきゃって、俺のせいで奏がっ、奏がっ、て」
「そんな···」
とても驚いた。まさか、おばさんが私達が会うことを拒否していただなんて。
紫音君に、ばれてたなんて、紫音君にも、迷惑をかけてたなんて、、、
私の中で、それ以上に悲しいことなんてなかった。なのに、、、なのに、、、
「それに、俺と奏は、同じことを思っていないよ。だって、俺は奏の事が、、、好きだったからっ。好きでたまらなかった!でも、奏は、俺の事を、親友だって、よく言ってたから、、、この気持ちは伝えちゃだめだって、、、分かってたから、、、」
そんな、まさか、

本当に、私と同じ気持ちだったなんて、
私も、大好きだった。でも、恥ずかしくて、関係を壊したくなくて、ずっと嘘をついていた。
「私も、、、私も!ずっと好きだった!でも、恥ずかしくて、、、関係を壊したくなくて、伝え方ご分からなくて、ずっと嘘ついてた。ごめん、」
「奏···」
「、、、吐いて良いんだよ?」
「、、、え、?」
「奏、ずっと我慢してたんだよな。もっと、嫌なこと、弱音、吐いて良いんだよ。俺の前だけでも。いや、、、家のぬいぐるみにでも、壁にでも、なんだって良い。ただひとりでかかえこまないでくれ。」


「俺とこれから俺の太陽が沈むまで、一緒にいよう。」
「···うん!」

彼と、10年越しに笑みを交わした瞬間、みんなと同じ足、手、心を持てた気がした。
ああ、やっぱり君は、言い方はへたっぴだけど、いつでも、いつまでも私を太陽の方へ引き寄せてくれる。そんな君が、大好きだ。
君といると、少しだけ息がしやすくなった気がした。