森を歩いていたら、知らない森に迷い込んでしまった。
森の違いなど素人にわかるものでは無いが、この森は明らかに違う。
なにしろ、木の代わりに月が生えてる。
何を言っているのか分からないと思うが、私にも分からない。
それは森なのか?と言われると少々自信を無くすが、たぶん森だろうなと思った。
大きさも満ち欠け具合もまちまちで、各々トゲトゲの星を実らせている。
月自体は光ってはいないが、星々のおかげで森の中は明るかった。
時折遠くでドス、ドスという音が聞こえるので観察してみたら、その星が落ちてくる音だと気がついた。
トゲトゲの星がそんな重さで落ちて来られるのは怖すぎる。
ので、早々に抜けてしまおうと考えた。
しかし、この時点で随分深くまで踏み込んでしまっていた。
どこも似たりよったりの月が生えていて、どうにも帰れる気がしない。
磁石を取り出すと、近くの月にぺったりくっついた。なるほど、使い物にならない。
仕方ないので、とりあえず真っ直ぐ進んでみることにした。
地面に落ちた星は一様に砕け、砂になってきらきらと光っていた。
手に刺さらないよう気をつけながら生っている星をもいでみると、中がほんのりきらきらチカチカ光っていて綺麗だった。
月の表面にコツコツと軽くぶつけ、角をとろうと試みる。多少真ん中もかけてしまったが、満足のいくものができた。
さらに歩いていると、川があった。キラキラと水色や紫の虹色に光っていた。手をつけてみると、しゃらしゃらと楽しげな音がひんやりとした感触とともに伝わってくる。すくい上げると、虹色越しに自分の手が見えた。飲めるかどうかおおよそ判断がつかなかったので、そっと川に水を戻す。
この川沿いに歩いてみようか。夢見心地のまま、ふらふらと進む。
空を見上げると、随分と暗かった。ところどころ白っぽいものが見えるほか、何もない。
あれはなんだろう。望遠鏡を持ってくればよかった。
目を凝らしていくうちに、星空とは違うなと思った。
それはそうか、だって月も星もみんなここにあるのだから。
不意に、近くの満月がゆらゆらと動き出した。
ギョッとして避けると、その満月は大きく体を揺すって実っていた星をみんな落としてしまった。
ドスドスパリンと景気のいい音を立てて、星が散っていく。
星をみんな落とし終えてやっと一息着いたと思うと、今度はどの星にも負けないほど光だした。
あまりにも眩しかったから、月の方へ手をかざして空を見上げた。
空は、月の光を受けて少し明るくなったように感じる。
(あれ、あの空……)
空というより、何かに似ている。
例えばあの模様、山並みのようにも見える。
(……あれ?)
パチリと目を開くと、地面に寝転がって空を見上げていた。空には満月が昇り、星々が煌めいている。
手元を見ると、握ったままの星があった。
片手を月の方へかざす。さきほどまでいたのはあの辺、だろうか。
その時の星をずっと窓辺に飾っているのだが、この話を信じてくれた人は未だいない。