入居者から聞いた話だ。法事などで親戚が集まった際、その中に妙に前髪の長い女がいた。鼻の頭がやっと見えるくらい伸ばしていた。周りの大人は気づかないふりをしていたのか、無関心だったのか判らないが、指摘したりからかったりする者はいなかった。しかし子供というのは大体正直な生き物である。女の髪型について疑問を口に出した。それに答えたのは子供の祖母だった。

「神様に差し上げたんだよ」

 嘘だぁ、どうやって渡すんだと子供は女の顔を下から覗き込んだ。眉と鼻の間に存在するはずの眼球は存在せず、つるりとした白い肌があるのみだった。そんな昔話を端末に打ち込みながら教えてくれた入居者には顔の横についているはずの耳が存在せず、小ぶりな顔が殊更小さく見えた。