匂宮は面白いモノでも見るような目つきで窓際に居る腐れ縁に近付いた。

「ズイブン惚れてるじゃないか」
「まぁ、それなりに」
「…………」
「…………」
「今のは聞かなかった事にした方がいいか?」
「ん?」

 見開いた篝火は、自らの言葉に思い当たる節があったのか「あぁ、いやいや別にそういう意味じゃないよ」と軽く肩を竦めてみせた。

「彼女に惚れてるっていうのは、家族として、そして人間性というか……とにかく君が想像した意味じゃなくて。私はあの()が気の毒なだけさ」
「ふぅん」

 匂宮はじとりとした目つきで依然、篝火を観察している。

「けどよ、ヒカルちゃんがいなくなったら困るのはアンタだろ。あの娘っ子くらいだぞ、甲斐甲斐しくあんたの世話焼いてくれるの」
「いやいや、自分の面倒くらい自分で見られるよ、独り身になって長いのでね。でもまぁ、そうだねぇ……本当にあの娘までいなくなったら寂しいと思うんだろうな、きっと」

 彼女の隣は居心地が良い。できれば手放したくはない。しかし、それと同時にこうも思う。ああ、彼女だけは呆気なく死なせちゃならない、五体満足で心健やかに過ごしてほしい。

「心底惚れてんだなぁ」
「だからそうだって言ってるだろう」

 完全に背を背けてしまった。その視線は、未だキャッキャとバドミントンで遊んでいる若者二人の背中に注がれている。