大宮篝火が姪孫の藤野ヒカルと初めて出会ったのは、二回目の離婚が済んだ頃だった。庭の池で溺れた彼女を助けてお礼を言われた時、篝火の優先順位は彼女の事で固定された。
 癖のある黒髪と同色でまあるい形の瞳。相手を警戒させない、卵のようにつるんとした輪郭。つんと若干上向きの鼻。ぽてっとした小さな唇。体重もスリーサイズも平均。特別整っている容姿でもなければ、凄まじく不細工というわけでもない。良くも悪くも目立たない中庸な容姿。
 好きな小説はミステリとジャパンホラー。好きな色は寒色系統。得意料理は肉じゃが。好物はラーメン。可愛い雑貨屋を梯子したり、パンケーキやカフェオレをお供に読書するのが、至福の時間だとSNSで語っている。
 性格は一途で素直。誰とでも仲良くなれる事はないが、常に人見知りする方でもない。音痴ではないが、運動神経が特別秀でているわけではない。両親祖父母共に健在で弟が一人いる、ごく普通の家庭で育った。
 正直、世間にいくらでも存在する今時の女性だろう。それでも篝火からすればヒカルは猥雑とした世間から浮き出したようにはっきりと見えた。彼女の隣に居て、彼女の望む事は全てを叶えてあげたい。彼女の見えない手足になって煩わしい事は、全部自分が引き受けてあげたい。彼女のためなら、何だって出来る。
 そう思える程に、篝火はヒカルに傾倒していた。その思慕は、半ば崇拝に近いようなモノでもあった。できる事ならこの命が尽きるまで、彼女の隣にいたい。篝火は熱く激しい、泣きたくなるような恋を二十年以上経った今でも灯し続けてきた。