「やばいやばい!混んじゃう!」

バタバタと足音がして、数人の女の子が一斉にこの狭い空間に入ってきた。
この後部活があるのか、もう既にユニフォームに着替えている彼女たちは少し慌ただしい。
もうあとは帰るだけの私があと少しと粘るのは気が引けて、櫛を胸ポケットに差し込んだ。
何となく手だけ洗おうと思い立ち、鏡の前にポケットから取り出したハンカチを置いてすぐ、背中に軽い衝撃が走った。

「あ、ごめん」

「いえ、大丈夫です」

つい鏡に手をついてしまった。
手を離すと、鏡面に薄く白い指紋の跡が残る。
このままだと恥ずかしいからとハンカチで拭うも、それは広がるだけだったから、結局そのまま名称通り手だけ洗ってお手洗いを出た。