「……菜、陽菜」

優しく肩を叩かれてハッと我に返る。
目の前は鏡で、ここへ来たときと変化は感じられなかった。

「……あ、えと、静香……」

何か変化があったとしたら、鈴谷さんの構えるカメラがポケットにしまわれたことくらいだ。
ものの捉え方も、温度の感じ方もなにも変わらない。
やっぱりミラーマジックの言い伝えは迷信なんだろう。

「教室行こう。ね?」

そう語りかける鈴谷さんは何かを見たかのような雰囲気を醸し出していた。
……私が感じていないだけで、鈴谷さんは入れ替わりの瞬間を見ていたのか。
でも、でも仮にそうだとしたら……。
本当の私はどっちなんだろう。
もしかしたら今の私は鏡の中の自分なのではないか。
そう思うと、一気に不安ばかりが押し寄せてきた。