学校では、背が小さい俺はいじめの対象だった。
 先生も関わるのが面倒臭いのか見て見ぬふりをしていた。
 いじめの理由は、親と血の繋がりが無いのは変だということ、親からも暴力を受けているということだった。最初は口での暴力だった。
 でも守ってくれる人が居ない今、同級生は手を出すようになった。それを助けてくれたのが咲《さき》だ。
 咲は、同じクラスの女の子でよく話しかけてくれた。
 帰り道が一緒の方向で、2人で毎日帰っていた。他の誰にも言えない話も咲には話せた。
 中学校に入り、変わらず2人で帰っていた。
 さすがに中学校に入るといじめてくる人も居なくなり、友達も出来るようになった。それも全部咲のおかげだ。
 ただ、上辺だけの友達にしかなれなかった。そう思っている自分に嫌気がさす。
 家でも変わらず、新しいお父さんは暴力を振るい続けていた。理由をつけては殴られ、背が低い俺は抵抗すら出来なかった。俺の身体には、治りかけの傷と新しい傷が増えていた。家に俺の居場所は無かった。
 そんな中でも生きていられたのは、咲が居たからだ。
 咲も家の事で悩んでいたから、
 似ている環境に居たからこその通じるものがあった。
 咲の家は、俺の家とは逆で過保護の親に育てられた。
 限られた行動を強いられ、自由がなかった。
 中学2年生にあがり、今日も一緒に帰っていた。
 今日は、咲の雰囲気が何処か違って見えた。
 咲の足が止まった。
「どうした?」
 俺もつられ、足を止める。
「私、、、。」
 咲の言葉の先を待つ。
 俺の目を真っ直ぐ見つめ言った。
「…好き。」
「え…」
 思いもしなかった言葉に思考が追いつかなかった。
 咲はずっと俺の目を見てた。俺の言葉を待っていた。
 咲の事を小2からずっと好きだった。
 だから答えは決まっていた。
「俺も、咲の事が好き。」
 咲の目は大きく開き、それでいて嬉しそうに。
 細めた目から涙が溢れた。
 俺はそれを綺麗だと思った。
 俺の目からは涙が零れた。
 泣き止んだ時には空は暗く、手を繋ぎながら帰った。
 それから休みの日は、2人で色んな場所に出かけた。
本屋、ゲーセン、映画館、水族館、遊園地。
 今日のデートが終わりそうな時、1つの雑貨屋さんに入った。そこで2人でお揃いの物を買おうと決めた。
「このピアス良くない!
 この色、似合いそう」
 咲が俺に似合う物を見つけ、俺は咲が似合う物を探した。
「咲は、この色似合う」
 結局、お互いピアスの色違いを買った。
 帰り際、2人で公園に寄ってベンチに座った。
 少し寒くなってきた頃だった。
 ココアを2つ買って1つを咲に渡した。
「ありがとう」
 自然と会話はなくなり、目の前にある噴水を眺めた。
 しばらく眺めていたら、咲が静かに話し始めた。
「今日さ、話したいことがあるんだ。
 聞いてくれる?」
 見たことないぐらい真剣な顔で問いかけられた。
 その表情から良くない話な気がした。
 うるさく鳴る心臓を抑え、俺は頷いた。
「…私さ、余命があと少ししか無いんだ。」
 そう言った咲は、少し震えて見えた。
 それ以上に俺が出した声は震えていた。
「どういう…」
「病気なの。昔から。」
「この前、病院に行ったら余命宣告されて…。
 もう半年も無いって…」
 咲は、申し訳なさそうに俯いたまま話し続けた。
「告白も本当はしないつもりだった。
 でも、やっぱり好きだから…。傍に居たかった。
 好きって言ってくれて、付き合ってくれて、私にとっては本当に奇跡みたいだった。」
 俺もそう思うよ。心の中で言った。
「…明日から入院するんだ。
 最後に付き合えた思い出が欲しくて、、、
 ありがとう」
 真っ直ぐに見つめられ、笑って言われた。
「私と別れてください。」
 そう言うと咲は、立ち上がり俺の方を見て頭を下げた。
 咲の顔は、笑っているのか泣いているのか分からなかった。それは俺の目が涙で濡れていて視界がぼやけていたからだ。
 俺は、立ち去ろうとする咲の手を引いた。
「嫌だ。
 俺は、咲のそばに居たい。ずっと。」
 そう言って抱きしめた。
「なんで…もうすぐ私死んじゃうんだよ。」
「それでも、大好きだから。傍に居させて…」
 それから、お互いを抱きしめ2人で泣きあった。