幼稚園の時、お母さんが亡くなった。
 癌だった。
 でも、癌と診断されても、入院していても、俺の前ではずっと笑顔だった。いつも抱きしめてくれて、”大好き”という言葉をくれた。
 だんだんとやせ細っていくお母さんを見ているとこっちが泣きそうになった。それでもお母さんは、笑って迎えてくれた。
 お母さんが入院してからは、幼稚園の送り迎えはお父さんがしてくれた。仕事で忙しいはずなのに、毎日お弁当を作ってくれて、寝る時は傍にいてくれた。
 あの日は、いつもよりも幼稚園が早く終わり、お父さんと一緒に帰っている時だった。お父さんの携帯に病院から電話が来た。俺とお父さんは、タクシーに乗って急いで病院に向かった。病院に着くと医師からの長い説明と注意事項を受けた。当時はよく分からなかったけど、お母さんの状態が良くないことだけは何となく分かった。
 お父さんと病院の椅子に座ってお母さんが出てくるのを待った。
 部屋から出てきたお母さんは、ベットに横たわっていて、肌がいつも以上に白かった。
 お父さんは泣いていて、俺は見てるしか出来なかった。
 この日から、何故か息苦しくなった。