今日は快晴、梅雨なのに。きっとお姉ちゃんのライブがあるからだな。お姉ちゃんは晴れ女なのだ。ニュースでも梅雨に快晴は東京ではごく稀だと言っていた。さすがお姉ちゃんだ。
私は今日気合を入れてオシャレしている。いつもはボブだからとそのままの髪を、アイロンでストレートにし、毛先を内に巻いた。服はデニムのオーバーオールに白い半袖パーカー。靴下はアクセントとして緑のくるぶしソックスにした。なんと指先にまで気を使ってトップコートを塗ってある。これはお姉ちゃんの晴れ舞台を見るため、それから東京に行くから。
「美空、もう行くよー。」
「はーい、今行く。」
自分の部屋を出てリビングへ行くと、お母さんもお父さんも先に外へ出ていた。ちょっとぐらい待っててよ、と独り言ちながら急いで靴を履く。
お母さん達もやっぱり今日は気合が入っている。お母さんは白いティーシャツに青緑のロングスカート、上からビックサイズでベージュの薄いカーディガンを羽織っている。お父さんはボタンの黒い白の半袖シャツに濃紺のデニムを合わせている。二人ともオシャレだ。
「琴花ちゃんとは駅で待ち合わせって言ってたよね?時間は大丈夫?」
「うん、ばっちり。今向かえば間に合うよ。」
お母さんてば心配性だな。そんなに遅くないのに。スタスタ歩きながら空の写真やお母さん達の写真を撮る。お父さんは振り返り、カメラに向かってピース。その姿も写すと、笑ってくれた。
「美空は本当に写真が好きだな。いいカメラを買ってよかったな。また写真見せて。笑美に会ったら撮って。笑美(えみ)の顔なかなか見れないから。」
「いいよ。でもお父さんよくお姉ちゃんの写真見てるじゃん。テレビにも映るし。」
「お父さんは今の笑美が見たいんじゃない?それにほら、テレビの笑美って余所行き顔だもん。」
お母さんの言葉にお父さんが何度かうなずく。まあ確かにね。話している間に駅に着いた。たくさんの人でごった返している。待ち合わせのコンビニ前に行くと、琴花が男の人に話しかけられていた。急いで近づき手を振ると、琴花はホッと息をつく。
「あの、友達来たんで。もういいですか?」
「はあ?さっきからツレねえなあ。」
しつこいナンパのようだ。お父さんが颯爽と男の人に話しかける。すると一発で逃げって行った。さすがお父さんだ。イケメンの怒った黒い笑みは怖いのだ。
「大丈夫?ごめんね、待たせて。美空も謝って。」
「ホントごめん。怖かったよね……。」
「大丈夫だよ。愛菜(まな)さんに美空。慣れてるしね、それにしてもしつこい人だったよ。勝大(しょうた)さんありがとうございました。」
「いや?美形はつらいよね。俺も愛菜もよくナンパされてたよ。その時も追っ払ってたけどな。」
お父さんはドヤ顔だ。自分で美形と言ってしまうのが残念だ。琴花も慣れてるってさらっと言ったけどさすがだな。琴花の服装は白地に黄色の小花が散ったひざ丈のワンピースだ。ひらひらしていて琴花にとても似合っている。いつもはポニーテールの髪を今はハーフアップにしている。視線を感じたのか、琴花はふわっと笑顔になった。急いでカメラに収める。いい表情だ。
「よく撮れたから今度渡すね。」
「ありがとー。でも勝手に撮らないでって言ってるじゃん。いい表情だからって言うんだろうけどさ。恥ずかしいよー。」
ごめんごめんと謝ると、ぷくっと膨らませていた頬を緩める。また話しながら歩きだす。ホームに着き、電車を待つ。宇都宮から秋葉原までは約ニ時間。意外とすぐに着くので行きやすい。