一 現在

 カシャッ。
 雨が降っている。傘に落ちた雨が、ぼつぼつ音を立てる。傘越しに見える青空には水滴が光る。珍しい光景に笑みが浮かぶ。空って色んな表情を浮かべるな。私は空が好きだ。その時その時にしかない色や、雲、光の加減があり、飽きが来ない。
「おまたせ、美空(みそら)ちゃん。晴れてたのに雨降ってきてびっくりしちゃった。せっかく久々の晴れなのになー。せっかく髪セットしたのにはねっちゃった。」
「おはよう。確かに髪跳ねやすいよね。でも見て、きれいじゃない?」
 撮ったばかりの写真を見せる。ほうっと息をつき、笑顔になった。こういうところが琴花(ことか)の良さの一つだ。少しのいいことさえあればいつでも笑ってくれる。笑うとえくぼができて可愛い。笑わなくても可愛いけど。
「うん、きれい。美空ちゃんホントに写真うまいね。」
「ありがと。写真好きだから嬉しい。」
 琴花と話しながら、高校への道を歩き出した。時折肌にまとわりつくようなぬるい風が吹く。だんだん同じ制服の人ばかりになってくる。雨音と人の話すにぎやかな声に包まれる。