病院で偶然再会したその夜に僕は教えてもらった番号へ電話を入れた。菜々恵はすぐに出てくれた。

「無事に治療は終わったの?」

「5時には家へ着いて、一休みして夕食を終えたところです」

「体調は?」

「絶好調とは言えないまでも悪くはないです」

「それはよかった」

「それで、僕の次の診察は2か月後の8月20日になった」

「私は2週毎に通院しているので、日にちが合うといいですね」

「もし、日にちが合えば病院の喫茶でお茶しよう。積もる話があるから」

「そうですね。楽しみにしています」

もう一度会う確認ができた。短い会話だったが、学生時代の電話がなつかしく思い出された。随分前のことだったけど、ほんの少し前のことのようにはっきりと思い出した。

◆ ◆ ◆
病院で会ってから1か月位たったころ、暑い日が続いたので急に菜々恵のことが気になって、夜8時ごろに電話を入れてみた。すぐに電話には出てくれなかった。呼び出し音が続くだけだった。心配になって、小1時間後に再度電話したがやはり出なかった。

翌朝は土曜日だったので、朝寝をしていると電話が入った。菜々恵からだった。

「昨晩、電話をくれたみたいで、出られなくてごめんなさい。治療から帰ってきて疲れていたので早く寝てしまいました」

「あれから1か月ほど経つけど、元気にしているかなと思って。出てくれないので容体が急変したのかと思って心配していた」

「心配してくれてありがとう。大丈夫です。治療は順調に進んでいます」

「そうなの、安心した。これからも時々電話するから。一人で住んでいるの?」

「いいえ、アパートを借りていましたが、がんが見つかってからは、実家に戻っています。母が身の回りの世話をしてくれますので。妹も近くに住んでいて、気にかけてくれていますので心強いです」

「それならよかった。じゃあ、また」

「じゃあ、また」