部屋に戻ると僕は菜々恵を抱き締めたくなった。でも僕らしくないことを思いついた。

「ねえ、一緒にお風呂に入らないか? 背中を流してあげたい」

菜々恵は一瞬驚いたように僕の顔を見た。きっと予想していなかったのだと思う。いや、自分が提案しようと思っていた? そうかもしれない。今日の菜々恵ならありえることだ。

「いいわ。先に入っていて、私が洗ってあげる」

僕は着替えと浴衣を持って先にお風呂場へ入った。そこは小さいながら湖畔が見通せる温泉かけ流しの露天風呂になっていた。最高の部屋と言っていただけのことはある。

湯加減は熱からず温からず丁度良い。湯船に浸かって湖畔を見ているとドアが開いて菜々恵が入ってきた。綺麗な白い裸身だ。さっきしっかり見ていたはずだが、とても新鮮に見えた。真っすぐに見られないので横目で見ている。

「さっき見たでしょう。恥ずかしいから見ないで」

「さっきは夢中でよく見ていなかった」

本当に夢中でよく見ていなかった。菜々恵は掛湯をすると僕の隣に入ってきた。

「湯加減が丁度良くて気持ちいい。温泉はやっぱりいいわ、極楽、極楽」

菜々恵の明るさにホッとしている。まあ、あまり恥かしがられてもこちらが困るだけだ。僕はまた菜々恵の横顔を見ている。徐々に菜々恵の顔が上気してくる。

「温まったから、背中を流してあげる。上がって」

座った僕の後ろに回って、菜々恵はタオルに石鹸をつけて背中を洗ってくれる。力加減が丁度良い。洗ってもらうのはいいもんだ。心地いい。幸せな気持ちでいっぱいになる。

「今度は私の番、洗ってくれる?」

促されて席を交代して後ろへ回る。菜々恵の白い小さなやせた背中だ。タオルに石鹸をつけてゆっくり洗う。菜々恵がのってきているので僕も大胆になってくる。

「お尻と脚も洗ってあげるから立ってくれる」

菜々恵は黙って従った。可愛いお尻とすんなりした脚が目の前にある。それをまたゆっくりと洗ってゆく。

「じゃあ、今度は向きを変えてこっちを向いてくれる? 前も洗ってあげる」

菜々恵はしばらくどうしようかと迷ったみたいだったが、ゆっくり向きを変えた。僕は何食わぬ顔で前を洗い始める。菜々恵がどんな表情をしているかはあえて見ないで黙々と洗うだけにした。

可愛い小ぶりの乳房、ピンクの乳首、お腹におへそ、大事なところ、太もも、膝、足首へと洗っていく。

洗い終えるとお湯をかけて石鹸を洗い流す。その時初めて、菜々恵と目が合った。顔は真っ赤になっている。恥ずかしそうに目を伏せた。それがとても可愛かった。

恥かしがって菜々恵はすぐに湯船に浸かった。僕は髪を洗ってから湯船に浸かった。僕が入ると僕を見て「ありがとう」と言った。しばらく沈黙が続いた。

「もう上がろうか?」

「先に上がって下さい。私も髪を洗いますから」

僕はシャワーを浴びて上がってきた。今度は浴衣に着替えた。ソファーに座ってミネラルウオーターを飲んでいると菜々恵が髪を拭きながら上がってきた。彼女も浴衣に着替えていた。女性用の浴衣はピンクの花柄で、赤い帯を斜め前で結んでいる。それがとても可愛い。

顔は上気して赤みがさしている。そしてすっぴんだ。僕は菜々恵が化粧をしていないころから知っているので素顔に違和感が全くない。どちらかと言えば素顔の方が好きだ。その方が優しく見えるし綺麗だ。僕に気を許している。そう思えて嬉しかった。

「水飲む?」

「ええ、ありがとう」

菜々恵はバッグから錠剤を取り出してきた。僕の隣に座ってそれを水と一緒にゆっくり飲んだ。

「冷たくて美味しい。いい温泉だったわね」

「ああ、一緒に入れてよかった」

「ジロジロ見られて恥ずかしかったわ」

「そんなにジロジロ見ていないよ」

「でも見てはいたのでしょ」

「ああ、まあ」

「でも悪い気はしなかった。私って魅力あるんだと思って」

「綺麗で可愛いよ」

そう言って菜々恵を抱き寄せる。そして午後の時のように両手で抱え上げた。菜々恵は僕の首に腕を回してしがみついてきた。ゆっくり寝室へ向かう。

今度は僕にもゆとりがあった。菜々恵をベッドに横たえると、部屋の明かりを程よい明るさにした。そうしている僕を菜々恵はじっと見ている。

彼女のところへ戻ると、抱きついて来た。彼女が耳元で思いがけないことを言った。

「アフターピルを用意してきたから」

そう言うものがあることは知っていたが、菜々恵がそこまで考えていたことに驚いた。彼女はそこまで僕のために一生懸命だったんだ。頷いた僕は力一杯菜々恵を抱き締めていた。

◆ ◆ ◆
菜々恵は僕の腕の中でもう眠っている。今度は菜々恵をゆっくりと愛することができた。反応を見ながら少しずつ時間をかけてゆっくり可愛がってやった。時間は十分にある。二人にはもうそれを楽しむゆとりがあった。

僕は最後までいくことができた。そのころには彼女はもうそれほど痛がらなくなっていた。それでなおさら二人には余裕があった。抱き合って愛し合ったという満足感が得られた。僕は心地よい疲労の中で眠りに落ちて行った。