朝いつものように待ち合わせ場所であるまだ開いていない文房具店の前で立っている僕。

少ししていつものように僕の右側から現れた待ち合わせの相手である僕の彼女。

理唯夏(りいか)は怒っていた。

理唯夏はほぼ毎日何かに怒っているような人なのだが、今日の理唯夏はかなり怒っている。

それは僕に対して……ではなく、両親に対してらしい。



「許せない!!!」



理唯夏がこんなに怒っているのは初めてだな……。



「約束していたハワイ旅行に行けなくなったの?」



ハワイ旅行に行くって話を、前に僕に話したよね?



「ハワイ旅行に行けなくなったくらいで怒らないよ!!!」



怒らないんだ……じゃあ……。



「家の引っ越しを…相談もなく決められた……とか?」



怒るよね?



「もっと怒る事だよ!!!」



もっと? もっと怒る事…。



「お母さんがお父さんにコロッケを一個多くあげたの!!! 」



………コロッケ?



「昨日の夕食でコロッケがあったんだけど、お父さんのコロッケが一個多かったの。お母さんが私に何も言わず、当然の事のようにお父さんにあげてて、お父さんは私に何も聞かず、当然の事のようにそのコロッケを食べてて…怒るよね? ひどいよね? 許せないよね?
私も……コロッケをもっと…食べたかったのに……絶対に許せない!!!」



理唯夏って………コロッケ大好きだったんだ……。



周弥(しゅうや)……。
泣きそう……」

「大丈夫…大丈夫……」



今は涙を必死に止めようとしている理唯夏を両腕で包んで、右手で理唯夏の背中をとんとんしてあげる僕。

今日の放課後、理唯夏に泣くほど大好きなコロッケを食べさせてあげよう……。