赴任してきて1か月ほどした11月の始めのころだった。高槻駅の改札口を出ると紗奈恵に似た女性が横を歩いていた。同じ電車で大阪方面から着いたようだった。1週間前にも同じ時間に彼女と似た女性を見かけたことがあった。今度はすぐに前に回って確認した。
「池内さんじゃないか、市瀬だけど」
「あら、市瀬君、お久しぶりね」
紗奈恵は全く変わっていなかった。髪型も最後に彼女を見た時とほとんど同じだった。だからすぐに彼女と分かった。
「大川君から池内さんが高槻に住んでいるとは聞いていたけど、こんなところで会えるとは思わなかった」
「4年前に名古屋から引っ越してきました。市瀬君は?」
「10月からこちらへ転勤になった。いつか時間があったら話がしたいね」
「今からでもいいけど」
「夕食の用意をしなくていいのか?」
「主人は今日から1泊2日で福岡へ出張です。だからお弁当でも買って帰ろうかと思っていたところです」
「それじゃあ、どこかで食事でもしながら、話をしないか」
「駅前に回転寿司があるから、そこでどうですか?」
「一度、行ったことがある。安くて味も悪くない」
二人は駅から2~3分のところにある回転寿司店に入った。丁度夕食時だから混んでいたが、カウンターに席が2つ取れた。
「ビールでも飲もうか?」
「じゃあ、少しだけいただきます」
ビールを一口飲むと紗奈恵は流れてくる皿を取って食べ始める。僕も食べ始めた。
「あのお正月に会って以来だね、もう7年くらいになるかな。幸せにしている?」
紗奈恵が答えるのにほんの少し間があった。そして笑顔を作りながら言った。
「もちろん、幸せに暮らしています」
「そうか、よかった。気になっていたから」
「あれから、名古屋で4年前まで暮らしていました。ここへは家庭の事情で引っ越してきました。ここは通勤にも便利ですから」
「あれから同窓会に出た?」
「いえ、でも、帰省したときに、同窓生が何人か集まってくれていました」
「同窓会には出ているの?」
「僕もここのところ忙しかったので出ていない」
「市瀬君、結婚は?」
「2年ほど前に見合い結婚をしたんだけど、4か月前に別れた」
「ええ、どうして?」
「ここへ来る前は横浜研究所にいたんだけど、研究が忙しくてかまってやれなかった」
「市瀬君らしくないわね。あなたは気配りができる人だと思ったけど」
「僕のことを彼女は分かってくれていると思っていたけど、そうじゃなかった。お互いに分かり合えていなかった。見合い結婚だからかもしれないけど」
「何となく分かります」
「分かるって? 本当に?」
「お子さんは?」
「できなかった。それで彼女も別れる気になったのかもしれない。子供ができていれば別れることにはならなかったかもしれない」
「池内さんは?」
「私もまだ子供ができません。それで今は大阪の病院に働きに出ています」
「そのうちにできるかもしれない」
「そうかもしれませんね」
紗奈恵は笑顔を作ったが寂しそうだった。僕は気分を変えようと、同窓生の話をした。大川君から聞いていた彼の近況を話した。紗奈恵も同窓生から聞いた最近の皆の様子を話してくれた。
お腹がいっぱいになった。支払いは僕が持つと言ったが、紗奈恵は割り勘を譲らなかった。彼女には昔からそういうところがあった。ときどき気が向いたら情報交換したいと言ったら彼女も快諾してくれた。それで携帯の番号を交換した。
店の前で別れようとしたが、帰る方向が同じだった。
「どこに住んでいるの? 同じ方向だけど」
「ここから3~4分の賃貸マンションです」
まさか、同じマンションかもしれない。そして同じマンションの前まで来た。
「僕もこのマンションに住んでいる。3階の315号室、1LDKだけどね」
「私は10階の1065室です。2LDKです」
「これからは帰りに会っても一緒に帰るのは遠慮しよう」
「その方がよいかもしれません」
彼女の夫とはあの正月の日に会っている。でも僕は顔を覚えていない。彼も覚えていないだろう。ただ、紹介されたから僕の名前は憶えているかもしれない。
部屋に着いたら、どっと疲れたが出た。気付かなかったが、緊張して話していたからだと思った。横に座って話していたが、紗奈恵は体型も変わっていなかった。胸とお尻はあの時と同じだった。ただ、一緒に歩くとそれほど目立たない。
ふと、美香を思い出した。あれから3週間ほどたっている。今度の土曜日にでも行ってみようか?
「池内さんじゃないか、市瀬だけど」
「あら、市瀬君、お久しぶりね」
紗奈恵は全く変わっていなかった。髪型も最後に彼女を見た時とほとんど同じだった。だからすぐに彼女と分かった。
「大川君から池内さんが高槻に住んでいるとは聞いていたけど、こんなところで会えるとは思わなかった」
「4年前に名古屋から引っ越してきました。市瀬君は?」
「10月からこちらへ転勤になった。いつか時間があったら話がしたいね」
「今からでもいいけど」
「夕食の用意をしなくていいのか?」
「主人は今日から1泊2日で福岡へ出張です。だからお弁当でも買って帰ろうかと思っていたところです」
「それじゃあ、どこかで食事でもしながら、話をしないか」
「駅前に回転寿司があるから、そこでどうですか?」
「一度、行ったことがある。安くて味も悪くない」
二人は駅から2~3分のところにある回転寿司店に入った。丁度夕食時だから混んでいたが、カウンターに席が2つ取れた。
「ビールでも飲もうか?」
「じゃあ、少しだけいただきます」
ビールを一口飲むと紗奈恵は流れてくる皿を取って食べ始める。僕も食べ始めた。
「あのお正月に会って以来だね、もう7年くらいになるかな。幸せにしている?」
紗奈恵が答えるのにほんの少し間があった。そして笑顔を作りながら言った。
「もちろん、幸せに暮らしています」
「そうか、よかった。気になっていたから」
「あれから、名古屋で4年前まで暮らしていました。ここへは家庭の事情で引っ越してきました。ここは通勤にも便利ですから」
「あれから同窓会に出た?」
「いえ、でも、帰省したときに、同窓生が何人か集まってくれていました」
「同窓会には出ているの?」
「僕もここのところ忙しかったので出ていない」
「市瀬君、結婚は?」
「2年ほど前に見合い結婚をしたんだけど、4か月前に別れた」
「ええ、どうして?」
「ここへ来る前は横浜研究所にいたんだけど、研究が忙しくてかまってやれなかった」
「市瀬君らしくないわね。あなたは気配りができる人だと思ったけど」
「僕のことを彼女は分かってくれていると思っていたけど、そうじゃなかった。お互いに分かり合えていなかった。見合い結婚だからかもしれないけど」
「何となく分かります」
「分かるって? 本当に?」
「お子さんは?」
「できなかった。それで彼女も別れる気になったのかもしれない。子供ができていれば別れることにはならなかったかもしれない」
「池内さんは?」
「私もまだ子供ができません。それで今は大阪の病院に働きに出ています」
「そのうちにできるかもしれない」
「そうかもしれませんね」
紗奈恵は笑顔を作ったが寂しそうだった。僕は気分を変えようと、同窓生の話をした。大川君から聞いていた彼の近況を話した。紗奈恵も同窓生から聞いた最近の皆の様子を話してくれた。
お腹がいっぱいになった。支払いは僕が持つと言ったが、紗奈恵は割り勘を譲らなかった。彼女には昔からそういうところがあった。ときどき気が向いたら情報交換したいと言ったら彼女も快諾してくれた。それで携帯の番号を交換した。
店の前で別れようとしたが、帰る方向が同じだった。
「どこに住んでいるの? 同じ方向だけど」
「ここから3~4分の賃貸マンションです」
まさか、同じマンションかもしれない。そして同じマンションの前まで来た。
「僕もこのマンションに住んでいる。3階の315号室、1LDKだけどね」
「私は10階の1065室です。2LDKです」
「これからは帰りに会っても一緒に帰るのは遠慮しよう」
「その方がよいかもしれません」
彼女の夫とはあの正月の日に会っている。でも僕は顔を覚えていない。彼も覚えていないだろう。ただ、紹介されたから僕の名前は憶えているかもしれない。
部屋に着いたら、どっと疲れたが出た。気付かなかったが、緊張して話していたからだと思った。横に座って話していたが、紗奈恵は体型も変わっていなかった。胸とお尻はあの時と同じだった。ただ、一緒に歩くとそれほど目立たない。
ふと、美香を思い出した。あれから3週間ほどたっている。今度の土曜日にでも行ってみようか?