午後6時から市内のホテルで中学校の同窓会がある。3年ごとに開かれていたが、この前は出席できなかった。それまでは帰省がてらできるだけ出席していた。今回は6年ぶりだ。

紗奈恵は出席するだろうか? あれから紗奈恵とは一度も話していない。スカイプで連絡を入れても応えてくれなかった。帰国後に電話をかけることも考えたが、拒絶されることが怖くて、どうしてもかけられなかった。

僕は早めに会場についた。3年5組の幹事の石田君と吉村さんが受付にいた。久しぶりによく来てくれたと言ってくれた。僕は石田君に連絡のお礼を言った。

今日の5組の出席者名簿を見せてもらった。池内紗奈恵の名前があった。彼女が来る。大森芳恵の名前もあった。

案内された5組のテーブル席に座っていると次々と同級生がやってくる。いつも来る人は大体決まっている。6年前にあった時と容貌が少しずつ変わっている。皆、歳をとったんだ。

大森さんがやってきた。すぐに僕のところに来てニューヨーク旅行のお礼を言った。あいにく僕の両側の席はすでに埋まっていた。僕から一番近くの空いていた席に座った。

ようやく紗奈恵も現れた。僕を見つけると微笑んで会釈をしてくれた。そして僕の斜め前の大森さんの隣に席を取った。席に座った紗奈恵を僕はずっと見つめていた。ニューヨークへ来てくれた時とあまり変わった印象はなかった。

僕の視線が気になるのか、僕と目を合わせずに大森さんと話している。僕はすぐにでも紗奈恵と話がしたかったが、そろそろ開会の時間になっていた。

お決まりの同窓会会長の挨拶や恩師の挨拶が終わって乾杯となった。食事が始まると5組は幹事の石田君の提案で一人ずつ近況を話そうということになった。

僕は5年前に見合い結婚をして4年前に離婚したこと、それから関西へ転勤し、ニューヨーク勤務を経て、2か月前に帰国して東京の本社勤務になったことを話した。皆驚いてこの5年間の話を聞いていた。

紗奈恵は3年前に夫が交通事故で亡くなったので、実家に帰ってきて、今は市内の病院に勤めていると言っていた。

大森さんは3か月後に同級生と結婚することを報告していた。また、池内さんと一緒にニューヨーク旅行をして僕に案内をしてもらったことを話していた。

ここ6年間で皆にはいろんなことがあったみたいだ。子供ができたと言う話も多かった。皆そういう年齢に達している。男子はほとんどが既婚者になっていた。女子もほとんど姓が変わっていた。

僕は紗奈恵の隣の席が空いたら移動しようと狙っていた。だがなかなかあかない。彼女は今でもクラスの人気者だ。だから周りに人が絶えない。僕はビールを持って彼女に注ぎに行った。隣の席の大森さんが話かけてきた。

「ニューヨークでは本当にお世話になりました」

「いや、僕も二人を案内してとても楽しかった」

「私、さっきも話したけど、結婚することになりました。相手は隣の4組の大野君なの。今日は仕事で出席できなかったけど、どうしてもと言われてその気になりました」

「それはおめでとう」

「やっぱり、好きな人より好きになってくれる人だと思って」

「その方が幸せだと思うよ。本当によかったね」

大森さんから結婚の話を聞いてほっとした面もあった。紗奈恵は親友の大森さんの僕への思いを知ったから身を引いたと思っていたからだ。

大森さんは僕が紗奈恵に好意を持っていることを知っていながらあえてあの時、自身の悔いが残らないように僕に告白したのだろうと思う。だから、僕と紗奈恵の前でわざわざ結婚の話を伝えたかったのだろう。

大森さんはそれだけ話をすると、僕が紗奈恵と話ができるように席を空けてくれた。僕はそこに座った。

「久しぶりだね」

「ニューヨークではお世話になりました」

「いや、こちらこそ来てくれて楽しかった。少しは気が晴れたらのならよかったのだけれど、元気にしているみたいだね」

「そうでもありません」

「今でもご主人が亡くなったことを後悔している?」

「いつも心のどこかに重しのようにのしかかっています」

「早く忘れて楽になれたらいいのにね」

「忘れてはいけないことだと思っています」

「僕の別れた妻は再婚した。大森さんと同じで、幼馴染の同級生がどうしてもと言ったので承知したらしい。それを聞いて僕はほっとした。重荷が取り除かれたような気がした」

「死んだ人は生き返りません。彼も生きていれば再婚してやり直せたかもしれませんから」

「あの早朝に実家へ逃げかえった時に二人は別れたんだと思う。その後に彼が亡くなった」

「でもそれが原因で彼が亡くなりました。彼の再婚の道までも閉ざしてしまいました」

これ以上ここで話をしてはいけない、彼女をますます追い詰めることになると思った。僕は「後で話そう」と言って席を立った。そして、ビールを注ぎにまわった。

同窓会はあっという間に時間が過ぎて、お開きになった。もう少し紗奈恵と話がしたかった。クラスで2次会に行くらしい。紗奈恵も誘われて参加するみたいだ。僕も行くことにした。2次会はカラオケ店でやると言う。そこなら10名くらいは入れる部屋がある。