美香はいつもと変わらずに僕を癒してくれた。その間はすべてを忘れさせてくれる。短い時間でありながら僕にとってはとても長く感じられる。彼女が何回も何回も上り詰めるせいかもしれない。横でぐったりしている美香にどう思うかを聞いてみる。

「昔好きだった人のご主人が交通事故で亡くなった。その直前に僕はDVを受けていて別れたいという彼女に助けを求められた。彼の事故死はその手助けが原因になった。僕はこれから彼女にどう接したらよいか迷っているんだ」

「その人のことをどう思っているのですか?」

「いまでも好意は持っている」

「だから、DVの相談に乗ってあげたんでしょう」

「そうだ。彼女は家出をして実家へ帰ったんだ。僕が相談を受けてそれを手伝ってあげた。それでご主人が迎えに行く途中に事故死した。彼女はそれを悔やんでいるし、ご主人の両親からも責められている。彼女をなんとか慰めてやりたい。でも避けられているような気がして」

「彼女は良心の呵責からあなたを避けているのだと思います。その裏にはあなたへの想いもあると思います」

「どうすればいいと思う」

「時々電話を入れてあげたらどうですか? 月に1度くらいでいいと思います。でも毎月必ず入れること。この間隔は空き過ぎず近過ぎずで、ちょうどいいんです。月1というのはここでも大事ですけど、それが絆になります」

「そうか絆ね。会わなくてもそれだけでいいのかもしれない。ありがとう」

◆◆◆
あれから1週間後の土曜日の朝、紗奈恵から電話が入った。今日、マンションを引き払うと言うので、部屋まで行った。すでに引っ越し屋が入っていて、荷物を運び出していた。

「市瀬君にはご迷惑をお掛けしました。いろいろとありがとうございました」

「元気になってくれ、また同窓会で会いたい」

「そのうちに出られるようになると思います」

「時々、電話かけるよ、心配だから」

紗奈恵は良いとも悪いとも答えなかった。ただ、微笑みを返しただけだった。

◆◆◆
それから僕は月初めの土曜日の朝9時に紗奈恵に電話を入れた。話の中身は、どうしているか? 元気にしているか? と言うだけだった。声が聴けるだけでよかった。

定期的に電話を入れると、紗奈恵は拒むこともなく必ず電話に出てくれた。最初は儀礼的な受け答えだったが、回数を重ねると次第に近況を話してくれるようになっていった。