――結論から言うと、勇者は指輪を嵌めなかった。

例え、王女にどう言いくるめられようが、それだけはしなかった。

指輪なんてものを、王女からしかもシスリーの前で嵌めることなど、勇者は絶対にしたくなかった。

指輪を投げ捨てたい衝動にかられたが、こらえてポケットにしまい込んだ。

そして、目線を合わせないシスリーに近づき、

「元気になったら迎えに来る。いつでも呼んでくれ。……それまで俺は魔物討伐に行く」

強い口調で言い放ち、城を後にした。

王女は、「いつでもお待ちしておりますよ。勇者様。フフ」と微笑を浮かべて勇者を見送った。

☆★☆

シスリーと再び一緒にいる日を夢見て、勇者は魔物討伐を再開した。

だが、半年もの間、討伐を行わなかったため、魔物は雑草の如く各地に繁殖し、国民はその被害に苦しんでいた。

各地から要請を受けて、一つ一つ処理に当たっていたが、ブランクもあり、以前より腕はさらに数段落ちていた。

傷は毎日のように身体のどこかに負い、血を流さない日はない。

おまけに、傷を癒してくれるシスリーも居ない。

だが、勇者に弱音を吐くことは出来なかった。

国民が、魔物に苦しむ民が、勇者に救いを求めていた。

勇者には休暇など無かった。

――弱きを助け、強きを挫く。

彼の信念は、確実に彼を壊していた。

☆★☆

勇者の力が衰える一途を辿る一方で、魔物は繁栄を遂げようとしていた。

進化を遂げ、魔物から魔族へと昇華した種族もいるとかいない、とか。

それらを抑止する力などとうの昔に失せており、国民は魔物に蹂躙され、国土は荒れに荒れていた。

それでも勇者は諦めなかった。

村を巡って、村人に護身術を教え、抵抗する術を伝授するなどをして、策を講じた。

が、まるでそこに狙いを打ったかのように、村は魔物に破壊された。

しかもタイミングはいつも同じで、勇者が村を去った数刻後。

急いで村に引き返した時には、既に遅し。

燃え盛る炎に包まれた村を前にして、勇者は涙を流して、村を当てもなく彷徨った。

生存者を求めて。


――見つけた。

瓦礫の下敷きになり、気絶しているがまだ生きている15に届くか届かないかの少女。

勇者はすぐに瓦礫をどかして、子供を救助した。

(この子の他に生存者は………?)

急いで探索したが、少女以外にはいなかった。

勇者は諦め、少女をおぶって、近隣の診療所まで運んだ。


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その少女の名ははカレン。

色白でどこか人間離れした容姿をしていて、将来はとてつもなく美女になるであろう事は想像に難くない。

カレンは、診療所のベッドの上で意識を取り戻した。

勇者は、目を覚ました彼女に体調を気遣う言葉をかけた。

カレンは目をパチリパチリとさせるだけで、状況を飲み込めていない様子だったが、しばらくして、両親の死を直感的に悟ったのか、ワンワン泣き出して、勇者を責めた。

勇者は甘んじてカレンの言葉を黙って聞いていた。

『詐欺師』と言われるまでは。